「スチューデントファースト」が「VEX」の教育理念です。
大人は“教える”のではなく、生徒に資質と本質へと導かせます。
株式会社 QuestWorks 丸山 大介 CEO
「VEXロボティクス(以下、VEX)」は、STEM教育をベースにしたロボット教材。チームで学習することで、 コミュニケーション力、リーダーシップ、課題解決力も向上させることが目的だ。日本では、(株)ロボット科学教育が展開する「CREFUSC(クレファス)」が教材に導入。両社を結びつけたのは「VEX」のリセラー(輸入販売店)を担当する(株)QuestWorksだ。
「VEX」で日本の民間教育に貢献しようと努める同社CEOの丸山大介氏に話を聞いた。
「VEX」で学ぶ子どもたちは世界中で約120万人
「日本でも高校に入るまでに理数系の教科に苦手意識を持ってしまうお子さんが多いと思います。そこで早期からロボット制作を通して、STEM教育の4要素である科学・技術・工学・数学を楽しく学んでもらうことが『VEX』の目的です」と語る丸山氏。
「VEX」は、アメリカで2人の技術者が2006年に立ち上げた会社だ。その教材は、世界中の教育機関や研究施設に導入されている。「VEX」で学ぶ子どもたちのモチベーションを高めるために世界大会『VEXロボティクスワールドチャンピオンシップ』を毎年4月末にアメリカで開催。年々その規模が拡大し、北米から中南米、オセアニアへと参加するチームが広がってきた。中国でもこの教材が爆発的なヒットになり、チームが急増しているという。
現在、「VEX」のユーザーは、世界中で約120万人といわれ、そのうちの2万5000人が大会登録しているそうだ。
大会に参加できるのは原則として小4以上。だが、小3でも参戦する子どもも多いという。
「日本では子ども向けのロボット製作ではLEGOが人気であり『VEX』の認知はまだまだです。しかし、世界中では、『VEX』の競技大会や練習試合、それにワークショップが先シーズンだけで年間1923回行われました。またその全てが国際交流の場にもなっています」
ロボットを組み立てながら英語も同時に学べる授業を
「VEX」の特色は、こうした大会があること、そしてハードウェアやソフトウェアとカリキュラムが優れていることだ。ロボット本体となるハードウェアは小2から中2までが対象の「VEX IQ」、中2から大学生対象の「VEX EDR」、研究者対象の「VEX pro」の3つがある。
「ここまで幅広いラインナップは『VEX』だけだと思います。LEGOが積み木のように組み立てるのに対して『VEX IQ』はスナップオン式といって、工具を使わずにピンでパーツを組み立てます。最初にプログラミングしなくても、デフォルトの設定が入っているため、すぐに動かすことができます。子どもたちのスキルがアップすると、ビジュアル言語を使ったソフトウェアを使ってプログラミングできます。このソフトウェアは、『VEX』のパートナー会社で開発力のあるロボマターという企業が製作しています。また、STEM教育用のカリキュラムは、ロボット工学で有名なカーネギーメロン大学と共同開発しています」
丸山氏は塾に導入する場合、2つの教育方法があると述べる。
「ひとつは英語のカリキュラムを使い、ロボットを組み立てながら、同時に英語も学べる授業です。英語を話せる先生であれば、ロボット工学についての知識がなくても『ティーチャーズサプリメント』という英語で書かれた先生用の参考書があるので、これを使えば先生方も子どもたちと一緒にロボット工学について学べます。例えば、完成したロボットを手に英語の先生の『Turn right』という英語を聞いてボタンを押せば右に動きます。英語を耳と身体で覚えることができるのです。
もう1つは日本語での教育です、日本独自に開発したカリキュラムも用意しています。どちらの教育方法でも、大会に出場することで、他の先生方と情報を共有して、授業の質を高めることができるはずです」
考えて作って試す そのサイクルを繰り返して学ぶ
1つのロボットをグループで組み立てていくため、「VEX」はアクティブ・ラーニングにも最適だ。子どもたちは先生から学ぶのではなく、次第に自分たちでどう創りたいのかを考えようになるという。
「教材には『エンジニアリングノートブックと呼ばれるノートがあります。制作する中で、子どもたちはブレインストーミングし、実際に試して、失敗し、再びチャレンジすることを何度も繰り返しながら学びます。そのプロセスをこのノートに子どもたちがわかりやすく書き込んでいくのです。またこのノートは公式の大会で提出が求められています」
塾への導入には「VEX」とカリキュラムを購入し、先生がカリキュラム通りに授業を進めていく方法や、セミナーを受けながら先生もロボット工学を学び、授業に反映させていく方法がある。
「なぜ、私がこの教材を日本に広めたいと思ったのか。その理由は世界大会を実際に目にしたことにあります。私がこの教材を知って興味を抱き、その旨を『VEX』の社長に話したところ、一度見に来るように誘われて世界大会に行ったのです。大会には40カ国から1500チームが集まっていましたが、日本からの参戦はインターナショナルスクールの生徒で結成された2チームでした。日本ではロボットコンテストが盛んに行われて、理数系の教育にも力が注がれています。それなのに、なぜ、こんなに素晴らしい教材が日本に浸透していないかと心が痛みました。そこで、1年かけてリサーチしたり、教育関係者の方々と議論を重ねたりして日本にもフィットすることを確信し、私たち『QuestWorks』は動き出したのです」
世界大会では、まったく知らない海外の子どもたちとチームを組む
「VEX」の競技は大きく「チームワークチャレンジ」「ドラインビングスキルス」「プログラミングスクリス」の3つに分けられている。この中で「チームワークチャレンジ」では、大会当日にまったく知らないチームと組んで得点を競うことになる。例えば世界大会では、日本人チームがインド人や中国人、カナダ人とチームを組んだ。こうした交流を通して、リーダーシップやコミュニケーション能力、グループワークの力、グローバル感覚を養うことができるのだ。また「エンジニアリングノートブック」の内容も審査の対象になるため、論理的な思考力も身につく。
「海外の子どもたちは自分たちでスポンサーを募って世界大会に参戦してきます。同じことを日本の子どもたちもできるようになってほしいです。スポンサーは大企業でなく、地元の商店や中小企業でもいいと思います。子どもたちがきちんとプレゼンテーションをして渡航費を獲得し、店や会社の名前を背負って参戦できるように啓蒙していきたいです。
『スチューデントファースト』が『VEX』の教育理念です。大人は〝教える〟のではなく、生徒に資質と本質へと導かせます。『VEX』の基本になっているSTEM教育は、まさに文部科学省が進める教育改革ではないでしょうか」