2019年 ウイングネット前期セミナー「激変する教育環境」と「これからの集客」
市進教育グループの株式会社ウイングネットと株式会社塾と教育社の共催で「2019年 ウイングネット 前期セミナー」が4月14日(日)に大阪のニューオオサカホテルで、4月21日(日)に東京都内の品川シーズンテラスカンファレンスで開催された。テーマは〝「激変する教育環境」と「これからの集客」”。
第1部の基調講演は、PS・コンサルティング・システム代表の小林弘典氏による「激変する教育環境─生き抜くための選択肢を探る─」、第2部の特別講演は、LINE株式会社・主席政策担当の村井宗明氏による「成功する塾のためのLINE活用方法」、第3部はグループセッション、第4部は「ウイングネットからのご提案」、その後は情報交換のための懇親会が行われた。ここでは東京会場の様子を中心にお伝えする。
第1部 基調講演
「激変する教育環境 ─生き抜くための選択肢を探る─」
PS・コンサルティング・システム 代表 小林弘典 氏
冒頭、「40数年塾業界に関わっておりますが、今ほど激しい変化に出会ったことはありません」と語る小林氏は、塾を取り巻く環境変化として、①高大接続システム改革 ②新指導要領 ③ICTの進化と教育・学習現場への浸透 ④少子化 ⑤家庭の経済格差による通塾率低下の懸念 ⑥講師人材の不足──を挙げる。
「ざっと見てもこれだけのものが一斉に押し寄せていますから、そうなると当然、淘汰は必須です。というか、すでに始まっています」
そんな中、塾が生き抜き発展していくための選択肢として、小林氏は以下の7つが考えられるという。
① 大量かつ多様な広告宣伝
② ICTの徹底導入
③ 塾産業から教育産業への多角化
④ 学校内塾への転身
⑤ 専門化(極小専門化・新部門など水平・垂直に展開)
⑥ 量から質への転換(「集める塾」から「集まる塾」へ)
⑦ 主要教場の移転
ただし①②③は、お金と人材がネックとなるため、大手・中堅塾が圧倒的に有利となる。④⑤⑥⑦は中小塾でも可能で、むしろ有利になることもあるという。
「②のICTは新しいものが次から次へとどんどん出てきています。皆さんの中には20年ほど前にパソコン教室をやった方がいらっしゃると思います。パソコン教室は政府がお金を出してくれてあっという間に広がり、瞬く間に小さな塾が100人とか200人、1000人と生徒を集めたことがありました。しかし新しいPCがどんどん出てきて、その商材を入れ替えるだけで相当な費用がかかりましたし、結果として某パソコン会社だけに儲けさせておしまいという時代がありました。つまり、ICTとはそういうことなのです。新たなものが出てくる度にいちいち飛びついていたらキリがありません。やるとすれば大手がやればいいのです。私は、中小塾は一つのものに最低5年くらいじっくり取り組んだ方が利口だと思います。多少古くなろうがなるまいが、本当にこなせるようになるには1年ほどかかります。そしてその後の3年4年が勝負になってきます」
また③の多角化は、「例えば保育園事業を始めたり、日本語学校を開校している大手塾は結構ありますが、人手のない中小塾向きではないと思います」
④の学校内塾も一つの方法だ。塾にとって少子化は非常に大きな問題だが、塾以上に厳しいのが私立学校とのこと。
「もともと私立は都市部に多く、優秀な子どもたちに来てもらうことによって生き延びてきました。でも全体で子どもが減ってしまったら当然苦しいですし、生き延びるためには進学実績を残すしかありません。部活もいいですが、部活だけでやっていけるわけはありませんので、それより進学実績を残した方がいいに決まっています。ならば、働き方改革等の問題もあって学校の教員は活用できないので、塾が校内に入っていけばいいじゃないかと私は考えます」
⑤の専門化は、子どもの数が少ないのだから、専門化すると苦しくなるのではないかと思われるかもしれないが、よほどの過疎地域でない限り、専門化していかないと逆に中小塾は生き残れないという。
⑥の「量から質への転換」は平たく言うと、質を高めることによって高いお金をいただくということだ。
小林氏は⑥を踏まえた上で⑤の1例として、最も有望なのは「高校生部門」だと述べる。
大学のユニバーサル化と就学支援金により高校生の通塾率は上昇し、その上昇分の大半は「超難関大学回避組」だが、就職に有利な大学を目指すという。大学入試の一般選抜に関しては中堅大学まででOKだが、学校推薦型選抜・総合型選抜はできるだけ上位校を目指した方がいいと小林氏は言う。
重要なポイントは、「学力」に加えて「調査書」も重視すること。学校の授業の予習・復習に加え、定期テストと宿題対策、学習履歴にも重きを置くことだ。
「高校生部門はこれまで難関大学受験塾が中心で、こういった指導をしてくれる塾は実は不足していますから、逆に中小塾にとってはチャンスとも言えます」
また、こうした指導を行うには集団指導では無理で、個別指導または自立指導が適しているという。自立指導のシステムは未完成なので、そこをどのように完成させていくかが大きなカギになるという。
第2部 特別講演
「成功する塾のためのLINE活用方法─電話&ホームページからSNSの時代へ─」
LINE株式会社・主席政策担当 村井宗明 氏
「私は小学生の頃からプログラミング開発をし、ゲームなどを作っていました。衆議院議員を3期務めさせていただいた中で文部科学大臣政務官をさせていただいたので、教育業界の皆様と一緒に教育政策をやらせていただきたい。今は文科省のいじめ対策の政策を考える委員会でSNSを使ったいじめ相談やSNS上のいじめの問題等に取り組ませていただいています」と語る村井氏。
経産省の調査によると、10代のコミュニケーション時間は、SNS(LINE、フェイスブック)が最も多く、54.0分を占め、メールが17.8分、ネット電話4.0分、固定電話は0.3分。20代はさらにSNSが多くなり、61.4分の時間を使っている。
学生のLINE利用率を見ると、男子中学生81%、女子中学生86%、男子高校生96%、女子高校生95%(出典・デジタルアーツ)。
「さらに保護者同士も、PTAの連絡などはLINEを使っています。これが現状なんです」
生徒とのコミュニケーション、保護者との信頼関係の構築がいかに重要であるかはすべての塾関係者が知るところだが、そのツールが電話とホームページだけではほとんど効果がないことは先のデータが示す通りだ。つまり、多くの生徒や保護者が使っている以上、LINEを活用するのが最も効果的だという。
退塾者を極力減らすためには、生徒とのコミュニケーション、保護者との信頼関係の維持が必要だ。そして新規生徒の獲得のためには、①LINEで「学業の悩み相談」を行い、見込み客の生徒と保護者との信頼関係を築き、②実際に塾に来てもらって、体験授業や面談等を行い、入塾してもらうことが必要だという。
「先ほど小林先生がおっしゃったように、教育ICTのビジネスモデルは広告費ばかりがどんどん脹れ上がってしまいます。でもそれは当たり前です。子どもたちはウェブやアプリを使わず、SNSしか使っていないからです。ですからウイングネットは、これからLINE上で動画配信をしていきます。ちなみに市進ホールディングスさんと資本関係にある学研さんは、これから英検のコンテンツをLINE上で広告を打ちます。要するに、ウェブやアプリで勝負するのではなく、子どもたちが実際に使っている市場を取りにいかなければ生き残れないのです」
塾経営者自らがLINEを使う必要は全くないという。
「他のスタッフや大学生のアルバイトにやってもらえばいいのです。特に定期テスト前などは勉強の相談に乗るという形で見込み客に近づくことができます」
LINEの公式アカウントの使い方を説明しながら、村井氏はLINEのメリットについて語る。
「一斉メッセージ機能」は、友だち追加したユーザーに対し一括でメッセージを送ることができる。メッセージが届くとユーザーに通知されるため、開封率が高いのが特徴だ。ユーザーにとってメリットのあるメッセージを送ることで高い誘導効果が見込める。「タイムライン機能」は、友だち登録しているユーザーのタイムライン上に情報を投稿することができる。ユーザーは投稿に「いいね」や「コメント」をつけることができるため、コミュニケーションの場として活用できる。
「個人LINEと違って一斉に200人にメッセージを送っても、返事は送った人にしか来ません。他のユーザーは見ないので、ユーザー一人ひとりに個別にアドバイスなどができます。生徒さんとのコミュニケーション、保護者との信頼関係づくりに役立ちます」
なお、有料の本格的なアカウントはウイングネット本体が行うので、塾は無料のフリープランで十分とのことだ。
第3部 グループセッション
「集客方法」と「SNSの活用法」
グループセッションを始める前にスマートフォンを使って会場で集客方法のアンケートをとると(複数回答)、一番多かったのは「口コミ」で86%。次に「チラシの配布」が79%、「インターネット広告」69%、「看板」54%、その他(SNS、チラシ校門配布、ポスティングなど)15%という結果となった。そして「効果がある」と答えた人が70%、「効果がない」が17%だった。
最初のテーマは「紙媒体の集客アプローチ」。少人数グループに分かれて10分ほど話し合い、何人かが意見を述べた。「今後は紙媒体よりSNSを中心にした方がいいと思った」という意見のほか、ホームページと口コミのほかLINEで集客している塾は、「保護者が自塾を紹介してくださって、友だち数が伸びています」と語った。
次のテーマは「SNSの活用法」。話し合う前に使っているSNSのアンケートをとると、最も多いのが「フェイスブック」で33%、次が「LINE」で27%。ブログをやっている人は28%だった。それらを使う目的は、一番多かったのが「集客用に使用している」で、次が「コミュニケーションツールとして使用している」だった。塾のスケジュールを一括送信するほか、お知らせ、外部告知、ホームページの補完機能として使われている。
話し合いのあとの報告では、「私たちのグループでは、フェイスブックで塾の活動報告を行ったり、LINEと連動したものを使って保護者とコミュニケーションをとっています」、「LINEで各学年のグループトークを作り、1日どれだけ勉強したかを報告し、競争意識を高めるようにしています」などが語られた。
第4部 ウイングネットからのご提案
「小・中学生から育てる」「高校生を集客する」
(株)ウイングネット・執行役員の田中聖氏は、「小・中学生から育てる」という視点で提案。
「ご存じのように、小5・小6で英語が教科化され、すでに一部では教科化されています。これまでは中学生になってから英検5級から始め、高校卒業時に英検2級というのが一つの目標でしたが、今後は小学生で英検5級を取得するのが標準化してくると考えています」
英検対策コンテンツとしては『ベーシックウイング』に加え『学研英検ゼミ』『英検パスコース』があり、スピーキングやライティングのトレーニングができるAIが組み込まれている。
「AIが正しい発音をし、それを真似て生徒が発音します。するとAIが聴き取ってテキスト化します。自分の発音も聴けますし、どの程度の可能性で英語が伝わるかが表示されます。ライティングは、端末からの出題に沿って手書きで答えると、答案を撮影して読み込ませると、スペルや文法を自動採点してくれます」
さらに、記述力、作文力を高めるための『論理の力』。単純な添削教材だけでなく、書き方の授業も合わせて配信されるという。
「夏には作文の上手な書き方を教える講座をリリースさせていただく予定です。例えば小学3、4年生を対象に作文講座を開き、映像授業とコンテンツ、添削解説を活用することが可能となります」
中3は、主要3科目については夏頃までにおおよそのカリキュラムを終え、その後入試演習を行うとすると、その際どの単元に弱点があり、どこに戻って学習すればいいかは、今までは塾の先生が生徒に指示をしていたが、これを自動化するという。
「この夏に中3生向けの入試対応AI学習システムを皆様にご利用いただけるようにいたします。具体的には単元別に区切った入試問題を生徒さんに解いてもらい、その○×を入力すると、どこに戻ればいいかを自動的に教えてくれます。生徒さんは自動的に指示されたものに取り組んでいけば、自動的に自分の穴を埋めていくことができます。ぜひともご活用いただければと思います。入試の演習期間が長ければ長いほど、徹底できればできるほど、得点力が上がります」
(株)ウイングネット・関西支社長の中野憲二氏は、「高校生を集客する」という視点で提案。
「明らかに高校生になると塾に通う子どもの数は減っています。しかし客観的なデータでは、この25年で高校生の通塾は増えていて、特に学力中間層は3倍にも増えています。今後も増える傾向にあります」入学者が大学の定員の110%を超えると文科省から補助金が出なくなるため、今年の大学入試では早稲田、慶應は志願者が減り、MARCHも志願者が減ったという。
「大学は受験生の歩止まりが読みにくいので、推薦枠を確保したり、付属校を強化しようとしています。推薦を広げるとなると、高校生にとっては高1生からの地道な勉強が必要となってきますから、そこに高校生を集客するチャンスがあるのです」
ウイングネットのLINE公式アカウントでは、高校生の興味を引くようなコンテンツを豊富に揃えているという。
「高校生は、まずは学校の授業がよくわかることを望んでいますから、ちょっとしたポイントを示して楽しく体験授業ができるように工夫されています」
大学受験情報については旺文社の『パスナビ』と連携しているので、そこに跳ぶこともできる。
「今後はある大学や学部に入った場合、将来どんなことをしているのかなど、そのような情報も提供できるような企画を考えています」
セミナーの最後に、(株)ウイングネットの荻原俊平社長が挨拶。
「小林先生と村井さんの講演を聴いても、まさに今時代が大きく変貌していることを痛感いたします。塾の皆様の現場にお邪魔させていただくと、子どもたちがあちこち移動しながら学習しているのをよく見かけるようになりました。一人ひとりの目的や課題に応じて動き、自分を変えていくんですね。その動きの幅が大きくなればなるほど様々なことを学んでいます。大人はもう、ただ見守るしかないのかもしれません。今後も私たちは生徒さん一人ひとりにカスタマイズしたコンテンツをつくっていく所存ですので、ぜひとも塾の運営に役立てていただきたいと思います」
懇親会の冒頭では、(株)市進ホールディングスの小笠原宏司常務が挨拶。
「どれだけAIが進化しても、絶対にAIができないことがあります。それは新しい価値をつくり出すことです。これは人間にしかできません。新しい価値を子どもたちに与えることで、子どもたちがさらに次の価値を生み出していく。私たちはそのような流れをしっかりつくっていきたいと考えております。皆様の塾をずっと続けていただくために、ウイングネットは集客ではLINEを活用し、コンテンツにおいてはAIを活用しながら、皆様のお手伝いをさせていただきたいと考えております。今日は長時間にわたって本当にありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます」