教育資源としての民間教育 第34回
公益社団法人 全国学習塾協会 安藤 大作 会長
大沼信雄副会長を偲ぶ
全国学習塾協会の大沼信雄副会長が去る10月6日、ご逝去なさいました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
9年前のあの東日本大震災のあとお会いしたとき、彼は私にこう言われました。
「安藤さん、ふるさとがなくなったんだよね」
彼は、宮城県多賀城のひとです。
サラッとおっしゃったので不覚にもそのときは気づかなかったのですが、それはあまりに悲しくあまりに重いことばでした。
いま、彼の手記があるのでご紹介します。
宮城県多賀城市にある本部教室は沿岸沿いではありませんが、およそ1.5 メートルの津波が押し寄せてきました。海水が引くのに3 日間かかりましたので、その間、水と食糧確保の合間を縫って、塾生の安否確認のため避難所まわりをしました。塾生のほぼ半数の家庭が被災されておりました。この安否確認には手間がかかりました。住所・電話等のデータベースはパソコンに入っており、停電で閲覧不能になったからです。紙ベースで定期的に出力しておいたり、クラウドシステム利用の必要性を感じました。
また、子供たちは避難所から時間をもて余していて、保護者からの強い要望もありましたので、いち早く教室を再開することに集中しました。学習環境は不備ながらも、多くの方々の支援があって予定通りに春期講習を開講し、塾生と再会したときには目頭が熱くなりました。
大沼先生の重いひと言とこの手記は、私にとっていまでも心の戒めとなっています。この戒めを「見える化」して共有しなければという思いから、この間、当協会では学習塾における防災対策を整理し、「民間教育機関防災マニュアル作成ガイド」を作成しました。
地震、津波、洪水。
近年では、毎年のように私たちの生命や財産、生活を脅かす災害が起きています。
地震・津波・洪水などの災害発生時に子供たちのいのちを守るために、学習塾の教職員が行うべき必要な対応を明らかにし、いざという時にすばやく的確に行動できるようにするために、事業者のみなさまが防災マニュアルを作成するためのガイドとして取りまとめて当協会のホームページで公開しています。
もうひとつ重要なことは、避難所などでの子どもたちのこころの荒みです。生活のリズムと目的を失った彼らに、私たちおとな、私たち学習塾ができることは、学びの場を1日も早く準備すること。まず、三重県と当協会はその一点で認識を共にし、連携協定を結んでいます。
公益社団法人全国学習塾協会の「公益」とは、不特定多数のみなさんの幸福と利益のこと。たくさんの子どもたちの幸福と利益のことです。
学びをなりわいとしている私たちが、学びをもって何かお手伝いができないものでしょうか。
皆様にもご一考いただければ幸いです。
当協会の防災対策について↓