AJC(全国学習塾協同組合)森貞孝理事長の最新教育情報 第49回
中国の学習塾規制
7月27日、中国の学習塾規制のニュースが一斉に報じられた。中国の学習塾経営者にとってはものすごい鉄槌で、いきなり地獄まで叩き落された格好だ。
今後学習塾の新設は認めない。すでに設立されている学習塾は非営利団体として登記する。株式を上場して資金調達をすることはできない。上場会社が教育機関に資金を投資することを禁止する。夏休みに授業を行うことを禁止する。などが骨子になっている。
30年ほど前に韓国で政府が学習塾通いを禁止したことがある。この時も大騒ぎだったが、世論の激しい反発と憲法違反だという動きが表面化して、2、3年後にはなし崩し的に学習塾は再び勢いを取り戻した。
しかし中国は、香港の例をとるまでもなく、やると決めたらそれが国の法律になる国だ。24日に発表して、中国の学習塾の株価は暴落し続けている。5月に少子化対策の動きが始まった頃から、出生率と教育費の高騰が問題化され、学習塾への規制の動きが出始めて今回の発表に至ったが、株式を上場して資金調達ができないことになり、TALエデュケーショングループの株価は、ニューヨーク市場で先週からほぼ3分の1の4.03ドルとなり、4月末からみると3カ月ほどで10分の1以下になった。
初めてナスダックに上場して有名になった歴史の長い新東方教育科技集団の株価も一気に3割以上急落した。政府の方針が変わらない限り、学習塾の株式はやがて上場廃止になる可能性が強い。それだけでなく、非営利団体として登録されれば、大幅な利益を上げることや営利事業を営むことはできなくなるので、一斉に方向転換せざるを得ないことになろう。
夏休みの指導の禁止だけでなく、オンライン学習塾は週末・祝日・学期休みの期間中授業の禁止、また宿題に対する規制もしっかり盛り込まれている。小学校1、2年生には筆記型の宿題禁止、3年生から6年生までは1時間以内、中学生は90分以内と決められた。
激化する進学・受験が少子化に大きな影響を及ぼしているとの判断が根底にある。
韓国では中国政府の動きを大きく報じた。韓国の学習塾は中国に進出して資本投下したりいろいろな形で学習塾の経営にタッチしてきたため、今回の決定で大打撃を受けるところも少なくない。それだけでなく少子化対策は日本より切実な問題で、中国の政策で少子化が好転したら、韓国だけでなく日本でも何らかの動きが起こり得る可能性がある。
中国では今後教育産業界での大量解雇が行われる可能性が高く、民間教育を手掛ける企業は、学習塾部門を切り離し、学習以外の分野への強化、転換を図る可能性が高い。
少子化は日本でも大きな問題だ。中国の今回の学習塾に対する決定は、家庭の教育費の高騰が原因で、少子化が改善されないという判断に基づいたものだ。
韓国は中国の巨大な市場から今回締め出されて日本へ向かう、あるいはアジアの他の国に向かうかもしれない。
この中国の政策は今後どういう方向に向かうのか、日本の政府はこの動きを注視している。教育に営利を持ち込ませないという今回の決定は民間教育業界に落とされた巨大な爆弾になり得るものだ。