AJC(全国学習塾協同組合)森貞孝理事長の最新教育情報 第63回
東大がジュニア工学プログラムを開設
先々月のコラムでメタバースについて述べたのだが、わずかの間にこれほど次々と大きな話題が出てきたのは大きな驚きだ。
東大がメタバース工学部を開設した。中高生や社会人を対象としてデジタル技術、教育DX人材の育成を目指したもの。発表してすぐに8月末には中高生向けに工学部のサマースクールを実施。9月23日にはメタバース工学部設立記念式典を行った。
東大が発表した設立の目的をそのまま一部抜粋する。
近年の急速な技術発展や、働き方の多様化などがもたらした産業構造の根本的な変化により、さまざまな立場の人々の間で最新の工学や情報学を習得したいという需要が高まっています。一方、社会全体では、先端テクノロジーが次々に生まれ、データによる価値創造が急速に進む中、データやテクノロジーを活用して未来社会を構想できるDX人材が決定的に不足しています。こうした背景のもと、工学や情報の学びの機会や工学キャリアに関する情報を多様な人々に提供することが「メタバース工学部」設立の目的です。
非常にわかりやすく書かれた目的だが、この工学部の教育プログラムの中で特に注目したいのが、ジュニア工学プログラム(略称ジュニア講座)だ。中高生や保護者、教師を対象として工学や情報の魅力を早期に伝えたい。工学部で何を学び、卒業後にどのような魅力的な仕事が待っているかについてオンラインと対面を組み合わせた講座を実施する。
今の日本の大学は、文系学部にかたよりすぎている。大雑把に見て韓国は理系の学部が日本の2倍、中国は10倍の生徒が学んでいる。このままでは将来の技術革新の時代に太刀打ちできなくなる可能性がある。
難関大学を目指す私立高校では、文系を目指す生徒は、数学は早々と切り捨て、英語、国語、社会に的を絞った受験対策を行って合格実績をあげている。
今STEM教育が必要だと言われているのは、これからの時代に理系の学部の卒業生をもっと輩出すべきだという意味が強い。そういった観点からすると、東大が中高生を対象にジュニア講座を開設するのは非常に興味深い。開講、及び開講予定の講座としては、①メタバースを作ろう ②起業入門~困っていることを解決しよう ③グリーンエネルギー…太陽からのエネルギーを運び・貯めて・賢く使う ④化学システム工学入門など16の講座かあり、さらに来年2月以降は講座がどんどん追加される予定だ。
それぞれの学習塾で、優秀な生徒にジュニア講座にチャレンジさせてみたらどうか。ただし、聞きっぱなしではなく、それぞれ発表の場もあり、理解度を試すテストもあるようなので、IT関係の用語などもある程度は理解が必要で、わからないところは塾でサポートの必要があるかもしれない。
10月下旬には幕張メッセでメタバース総合展が開催された。朝日新聞社も、この動きに呼応して、「メタバース教育」で変わるというサイトを立ち上げた。第1回は「東大の挑戦」というテーマで、東大バーチャルリアリティ教育研究センター長・相沢清晴氏、東大先端科学技術研究センター教授・稲見昌彦氏、朝日新聞編集委員・宮坂麻子氏が出席した。教育DXがどんどん進んで行く。学習塾は大きく変わる転換期が訪れているのかもしれない。