AJC(全国学習塾協同組合)森貞孝理事長の最新教育情報 第64回
塾経営者の舵取りが問われる時代に
一旦収束に向かったと見えた新型コロナウイルス感染症の感染者数が10月末頃から反転して増え始めている。コロナウイルスがオミクロン株になって弱毒性の印象が強くなったこと、国内ではGo To トラベルから変わった全国旅行支援や県ごとの支援策で旅行者が急増し、Go To イートなど飲食店への支援策も始まって駅や繁華街の雑踏が復活した。海外からの旅行者も200万人を超し、にぎやかさが増すと同時に、感染者数も再び増加を始めたというところだろうか。政府もウィズコロナ政策、つまりコロナの収束を待たないで、世界の他の国と同様経済に力を入れ始めている。
さて今年後半、教育DXという言葉がいたるところに氾濫し始めた。教育の世界にIT化はそぐわないとここ30年ほど多くの教育者の方々の口癖だったが、社会全体が激しいIT技術の進歩で目まぐるしい変化を遂げつつある現状では、60代以上の高齢者にとって、まるで別世界のような状況が生まれつつある。電気自動車の時代はさらにハンドルから手を放しても進むオートパイロットの技術や、山手線の電車は運転手が一切触らないで運転する実証実験を始めた。IoTが進んでエアコンは人を感知するとそちらの方向だけに向けて風を送り、レストランでロボットが料理を運び、新設されたビルはいたるところにIT技術の粋が詰め込まれている。いつのまにか携帯が電話だけではなくて支払いに使えたり、写真や動画を加工したり、コンピューターと同じ機能を持つようになっている。
教育DXと言っても、社会全体から見ればかなり立ち遅れている現象だ。本来であれば先端技術の伸びは基礎に教育が存在するはずのものだが、今は逆に医療分野で臓器移植やVRを使った手術の技術の進歩、農業分野で遺伝子組み換え、宇宙開発で、家電製品で突出して新しい技術を競い合っている。
軍事面でもロシアとウクライナの戦場で最先端の技術の実験場のような戦争が繰り広げられている。60キロ先の標的目がけて次々に榴弾砲を発砲し、ドローンで上空から敵の居場所を確認して連絡し、そのデータをもとに20キロ先から砲撃する。視野に入る敵を狙うといった昔風の戦い方でどんどん劣勢に落ち込んでいるロシアの軍隊は、近代的な戦争では兵器を捨ててひたすら逃げまどっている。
5年前にはなかったものがどれだけあるか。20年前と比べて癌にかかっての生存率がどれほど改善されたか。あと10年経ったら世の中にどんな技術革新が行われているか。
今まさにとてつもない変化の真っただ中にいて、何となく受け入れてしまっていることにハタと気が付く。
8月に東大がメタバース工学部を立ち上げた。工学に関する分野に若い人たちに興味を持たせようと、仮想空間を使ったジュニア講座を開設した。教師や保護者も参加可能だということで興味を持って申し込んだが、ものすごい応募数で、中高生1000人から抽選で受講生を選んだという連絡があった。抽選にもれた人はYouTubeであとから内容を見ることが出来るようだ。
これからどのような変化が教育DXに訪れるのか。学習塾はどう変わるのか。塾の経営者は楽しんでばかりいられない。舵取りの大切な時代に直面しているのだ。