NEA入試問題研究会 試されるのは
「インプット力」+「アウトプット力」
教育改革の一環として施行された学習指導要領改訂や大学入学共通テストの実施に伴い、大学入試・高校入試が大きく変化しているが、2023年度の高校入試、2024年度の大学入試以降はどう変わるのだろうか。9月28日(水)に行われたNEA入試問題勉強会は、会場とオンラインによるハイフレックスで開催された。
第一部で株式会社声の教育社(中村千尋会長・竹野浩史社長、東京都新宿区)常務取締役 後藤 和浩氏にご登壇いただき、中学入試と大学入試についての基調講演を開催。第二部では入試問題から読み解く学校・社会が求める力について座談会を行った。座談会後は、名刺交換会・意見交換会などの情報共有や交流が図られた。主な概要をご紹介する。
【第一部 基調講演】
保護者にも伝えたい中学入試&大学入試
声の教育社 後藤 和浩 常務取締役
「声の教育社」は創業50年、中学入試過去問約250点、高校入試過去問約250点、のべ約500点の過去問を発行する出版社。中学受験を中心にYouTube「声教チャンネル」で情報を発信している。
大学入学共通テストで問われている力は、中学入試でも問われるようになっています。社会が要請する力に合わせて、大学入試では「一般入試」ではない「総合型選抜」「学校推薦型選抜」の割合が急増。首都圏の私立高校の中には、9割近くが総合型・公募・指定校などで大学進学する学校もあります。進学先決定者のうち一般入試で15%、85%は筆記試験以外で受験。時代が変わってきているのを実感します。
中学入試でも偏差値では測れない力を見たいという傾向が強まっています(伝統校、難関校は昔から知識だけでは解けない問題を出題)。2022年の入試問題を見てみましょう。
清泉女学院中学校(神奈川県鎌倉市)では、一般入試でAP入試(アカデミックポテンシャル入試)を導入。先生が作ったガイドブックを読み取り、旅行の計画を立てる問題がありました。慶應湘南藤沢中等部(神奈川県藤沢市)では、2021年オリンピック・パラリンピック東京大会で、日本のソフトボールチームの決勝進出が決まっている消化試合でどう戦うか、自分が監督だったらどういう方針で臨むか、また試合前の選手になんと伝えるかを問う問題がありました。
資料と文章によって、その場で学び答えるタイプの問題も増えています。例えば、渋谷教育学園幕張中学校(千葉県千葉市)/2022(理科)では、アミノ酸配列によって、コロナの性質が変わるという内容を資料と文章で理解(インプット力)し、答え(アウトプット力)させています。
今年の大妻多摩中学校(東京都多摩市)の入試は、東大(地理)・共通テスト(日本史B)とほぼ同じ問題。早稲田実業学校中等部(東京都国分寺)算数では、途中式を求める問題に移行しています。
最近注目の学校と言えば、校名変更を経て、共学化したサレジアン国際学園中学校、広尾学園小石川中学校は、いずれも偏差値も倍率も上昇中。広尾学園小石川は、開校初年度、2年目(2022年度)ともに志願者数は都内最多3000人超で大変話題になりました。
【第二部 座談会】
入試問題から読み解く 学校・社会が求める力とは!
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株式会社 声の教育社 後藤 和浩 氏
株式会社 首都圏中学模試センター 野尻 幸義 氏
株式会社 文理 西田 泰則 氏
モデレータ NEA 柳 裕樹 氏
※以下、敬称略
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柳 高校入試はどうなっていますか?
野尻 変わってきたと感じる問題をピックアップします。群馬県の県立高等学校入学者選抜では、教科問題のほかに総合問題をトップ5校が実施しました。
前橋高校 下線部に『退屈な時間』とあるが、あなたが考える『退屈な時間』を高校入学後にどうやって作り、そこから何を得たいと考えていますか。具体例を含めて240字から300字で書きなさい
前橋女子高校 下線部に『想定外』の結果とあるが、『想定外』とは『思ってもいなかったこと』を意味する。これから高校生活の中で、もしも想定外の悪い結果が生じた場合、あなたはどのように対処するか。具体的な状況を説明しながら150字以上200字以内で答えなさい
知識をどこでどう活用するかを理解し、自分の経験をプラスしてアウトプットしなければなりません。
滋賀県は県立高等学校入学者選抜において特色選抜を実施。滋賀県立彦根東高等学校(理科)では、2018年台風のニュースをもとに、進行方向や回転方向などを問う問題を出題。普段から身近なことに関心を持ち、アンテナを立てているかが問われます。
埼玉県の県立高等学校入学者選抜(理科)では斜張橋を例に挙げ、同じような模型を作り、ケーブルに働く力について答えさせる問題。資料(レポート)の情報を読み取り答える。教科の中にもこうした問題が入ってきているのが最近の傾向です。
後藤 一見難しそうな問題も、よく読んでみることで意外に解けることがあります。普段の授業から逃げずに読み、意識してインプットすることが大切です。
野尻 今までは、塾などで学習してきたことや覚えていることを活用してアウトプットしてきたが、最近は資料やレポートから読み取り、その場で情報を獲得し知識や経験を結びつけて活用する問題が増えています。探究学習が小学校、中学、高校と行われるようになり、探究の出題が増えています。
柳 コロナ禍ではフェイクニュースなどいろいろ出てきました。しっかりと事実を確認し、ファクト(事実)とオピニオン(意見)の違いを理解。ファクトに基づいた判断をさせる、面白い問題ですね。あとは認知バイアス。事実でないことを事実と思い込んで間違った行動を起こしてしまうことがないように、物事を正しく理解し伝える能力は重要ですね。
西田 先ほど紹介した群馬県の総合問題にありましたが、「退屈」って負であり、みんな好まない。これを短時間で書かせるわけですから、相当な能力が必要とされる。
定期テストの傾向も変化しています。教科書が変わったので当然ですが、社会科の定期テストの傾向は、
①設問に「知識・技能」「思考・判断・表現」の印をつけた問題が増えた(つけている先生の増加)②主体的に学習に取り組む姿勢を見る問題を出題 ③「思考力」「判断力」「表現力」で解く問題(「あすがく」のような問題も出題されている)。
例えば「あなたが旅行会社の社員になったとき海外旅行に興味があるお客様にどの州への旅行をお勧めしますか。理由を含めて説明しましょう」「あなたは博物館で働いています。たくさんのお客様が見に来たくなるような歴史の展覧会の企画を考えなさい」など、主体的に取り組む姿勢を計る問題も多いです。
柳 英語に関しては去年の段階で「思考・判断・表現」の問題が増加。従来通りの文法問題には「知識・技能」の表記、思考が必要な英作文問題などには「思考・判断・表現」などの表記があります。1年の中間で文法知識を問うための問題が減り「実際に使える英語」を意識した問題が増加傾向にあります。
後藤 最近の入試のように、資料を読み取り、単に暗記した知識でだけでないところで点数が取れるのはいい状況だと思います。先生と生徒の会話の中で「あなたはどう思う?」というやり取りが増える。書く練習はしなければいけませんが、授業が楽しくなると思います。