第2回 ワンパスサミット
2030年に向けて学習塾がいま解決すべき課題
2022年12月8日(木)・9日(金)・10日(日)と3日間、株式会社スタディラボ(地福武史 代表取締役社長、東京都文京区)主催「第11回 オレコサミット」がウエブセミナー形式で開催された。複数のICT学習コンテンツにシングルサインオンできる話題の「ワンパス」を中心に据えた「ワンパスサミット第2回」を併称。新たな市場価値を切り拓く創造と変革に向け、知見を共有した。
[基調講演] 業界展望「教育の可能性と方向性」
株式会社市進ホールディングス 代表取締役会長
株式会社学研塾ホールディングス 代表取締役会長 下屋 俊裕 氏
2010年から2020年、小中学生の数が100万人も減りました。少子化ということは教える先生もいなくなるということであり、学習塾現場は大変です。コロナ禍で自宅が教室になるオンラインや映像配信が当たり前になり、この流れが続くだろうと誰もが考える中、子どもたちが教室に集まるようになり集団授業に戻りました。今までゲームをやっていた子どもに「17時半から机に座って授業ね」と言ってもスイッチは入りません。塾に来ることでスイッチが入るからです。「教室のある地域が市場調査で5年後には3割~4割減」ならば、理社だけでもオンラインを試みるなど、少しずつ切り替えていくのが理想的です。
GIGAスクール構想で、教科書、問題集、参考書がPC一つで扱えるいい時代になったと思います。個別最適化への期待は生徒や保護者にもありますが、PCを使いこなす先生の能力差などの問題があり、試行錯誤しているのが現状です。また、コロナ禍の影響もあり、不登校の生徒の割合は中学生になると一気に増加しますが、きちんとした通信制の学校があり、人気が高まっています。
英語教育では、民間教育が大変頑張っています。東京都が構想した『東京都英語村』は英語教育に効果的な実践の場です。2023年には多摩英語村も開業される予定ですし、オンライン英会話OLECOも大変優れていますので、各々が目標を決めて英語のコミュニケーション能力を高めていただきたい。英語に耳を慣らして、正しく聞くトレーニングは欠かさないでほしいですが、基本は日本語。日本語をきちんと話し、きちんと書けないと英語は書けません。
PCやデジタル教科書を使うとき、常に手元に紙を置く習慣をつけてください。数学でもなんでも手元で書くと理解につながり、英単語も手で書いて覚えると力がつきます。これからも民間教育に求められる期待は大きいです。頑張ってまいりましょう。
〝GAZ式DX〟推進に向けて
株式会社学習受験社 代表取締役社長 國吉 勝 氏
沖縄県の学習塾GAZ(ガゼット)では、学習塾のICT化、DXにいち早く取り組んでおり、多くのICTコンテンツの導入を、「子どもたちの成長を支援するための質的変化」として、変革スピードを重視した経営に注力しています。
受講生数の確保を考えて会議を行うよりも、良いコンテンツを導入したら必修化するという点を大切にしています。このためには、窓口を一元化して、専門担当が全教室の管理を行うようにしています。これは、現場の教員の負担減ということからも大切です。一番大切なことは、「子どもたちの可能性を伸ばしたい」ということであって、導入への課題や不安よりも、「どのようにしたら子どもたちの未来にプラスになるか」と考えることでしょう。
幹部層には、導入可能か準備期間をとるよりも、まず導入してからよく観察し、状況判断することを促しています。現場の教員には、必要なスキルのみの研修をし、営業会議よりも指導に集中してもらいます。このためには、窓口業務の一本化と同様に、テクニカルサポートの準備も行うようにしています。
GAZにしかできないサービス提供とは何かを常にアップデートし、2023年度は受験指導の個別最適化による合格率の向上を目指しています。こうした事例が皆さんのお役に立てば、本当に嬉しいことだと思い頑張っています。
[代表講話] 2030年に向けて学習塾がいま解決すべき課題
株式会社スタディラボ 代表取締役 地福 武史 氏
これまでの10年と今後の10年は進化の速度が根本的に違います。2022年、教育業界で影響を及ぼした3つのキーワード「web3・0」「メタバース」「NFT」の基本的知識を理解し、今後どう役立てるか、教育のアーキテクチャー(構造)を新しいテクノロジーにふさわしいカタチへと変革していく必要があります。
3つのキーワードから予見できる教育現場の未来は、「学習塾はなくならない」が「再定義された塾」が生き残り、社会が学歴至上主義から脱却するというものです。
学習塾も学校も多くをタスク化して解決に注力する「ソリュ―ショニズム」に陥っています。今後は「そもそもなぜ?」を大切にしたパーパス・ベース・ラーニング(プロジェクトの前に目的を明らかにし、好奇心も重視する学び方)が主流となります。そのためには、「クリエイティブ・コンフィデンス(自分の創造性に対する自信)」自己肯定感を得るために周囲からしっかり丁寧に応援される環境づくりが肝要です。
2022年12月時点での学習塾の状況を概観すると、コロナ禍は継続し一定の影響を受けましたが一斉休塾・休校措置等が生じることもなく、夏期・冬期の講習や模試等が実施されたことやオンライン授業を併用することで授業の提供を継続。学習塾事業者各社の感染防止対策が生徒・保護者に評価され通塾需要の回復にも寄与しました。学習塾事業者各社における生徒1人あたりの単価向上施策が奏功したことなどにより当該市場を回復に導きました。なかでも堅調な伸びを見せているのがeラーニングです。
これから新しい商品を作るときに「労働生産性の向上」「経済合理性の向上」「学習生産性の向上」の3つを明らかにする観点が重要。大きな変革が学習塾にも訪れようとしています。
[定期講話] 塾教育の再生Ⅲ
株式会社スタディラボ 取締役 横田 保美 氏
中堅大規模塾の買収やファンドによるM&Aなどが進行しており、業界秩序の変更・業界再編の動きが激化しています。背景にあるのは市場環境の地殻変動、特に「少子化の進行」です。2016年から始まった急激な出生数減少により、本物のチャイルドショックがこれから始まります。小学生数は2025年、中学生数は2028年、高校生数は2031年から減少が加速します。
私たちを待ち受ける近未来には、加速する少子化で塾が消え、学校が消え、受験が消えます。近未来を読み解く鍵は、少子化&市場シュリンクという環境。重要なのは、個別最適性にプラスする学習生産性です。学習すべき内容も増加し多様化しているなか、限られた時間をいかに効率的に活用するか。それを提案できる塾が支持されます。教育格差が拡大する一方で実践的学びへのニーズも高まっており、教育DXにより新しい塾誕生の可能性が広がっています。何のためにいつどこで何を誰からどのように学ぶのか、5W1Hから解放され、主役は学習者に。公教育と民間教育の垣根はなくなっていくことでしょう。
学習者のために「どんな学びを提供するか」「どのように提供するか」、塾の進化が求められています。差別化(ナンバーワン)から特異化(オンリーワン)へ。365日24時間がサービス提供タイムとなり家庭学習のマネタイズも重要です。
学習コンテンツの提供ではなく、学習環境と学習の意欲、さらに学習の感動を与える塾を目指して、スタディラボは、教育再生のひとつの答え「つながる時代」を提唱中です。塾と家庭、塾と塾、人と人、そして学びがつながるように、DXによる塾の再定義を提案し、新しい塾づくりの武器を提供。全国の塾教育の再生をサポートしたいと考えています。
【商品案内と事例紹介】
株式会社スタディラボ 執行役員 杉山拓央氏と執行役員 峰嶋聡子氏が、過去最高の参加者となった「小学生英語ブラッシュアップセミナー」を始め、新しい「ゲームレッスン」、OLECOのポスター刷新、オレコ検定などの取り組みについて紹介。StudyOne(スタディワン)とマモルパスの案内も行った。
事例紹介では、オンライン英会話OLECOのサービス開始当初から受講いただいている岡山県のツユム塾様において、6年間活用した効果を塾・保護者の両視点から紹介いただいた。
[座談会] 市場展望・学習塾の集客について
教育開発出版株式会社 代表取締役 糸井幸男 氏
株式会社HYD 代表取締役 露無要一千 氏
株式会社SRJ 常務取締役 佐伯康雄 氏
多くの登壇の中、出版社、ICTベンダー、学習塾経営それぞれの視点から、集客についての取り組みが座談形式で行われた(敬称略)。
佐伯 あらゆる学習の基礎となるのはやはり読解力。「新国語」というコンテンツで子どもたちの学力向上に尽くしたい。
露無 地方の学習塾では特に、長く通ってもらうことが子どもたちの成長、また、学習塾の経営面から言っても大切なポイントになっています。このためには地域の私学を中心に、どんな子どもに入学してほしいのかを丁寧に聞き取り、受験指導に活かすと共に、将来どうなりたいのか、そのためにはどんなことを学び続けるのかを子ども、保護者とも話をしています。
糸井 家庭学習を市場として取り組んでいく、学習管理をすることはコーチングであって、先生たちが最も得意とするところです。少子化とはいえ、まだまだ60%の子どもたちは学習塾に通ってはおらず、楽しい塾、明るい塾をつくって、多くの子どもたちに教育を届けたいですね。我々ベンダーも手を取り合って学習塾を応援したい! そんな風に考えています。