2022 NEA学習会 探究学習で偏差値アップって本当?
知っておきたい!これからの社会で活躍できる能力・学力や学び方!
2022 秋NEA教育セミナー「探究学習で偏差値アップって本当?」が2022年11月27日(日)、会場参加とオンラインのハイフレックス形式で開催された。主催は、(一社)NEA教育アライアンスネットワーク(堀川直人代表理事、東京都品川区、以下NEA)。
2022年度から高校で始まった探究学習がなぜ、導入されたのか、これからの小中高生の将来にとって探究がどのように役立つのか。探究教育やSTEAM教育などの第一人者であり、大妻中学高等学校で進路指導部長・探究科主任を務める森弘達氏が講演。その後、森氏と聖ドミニコ学園カリキュラムマネージャーの石川一郎氏が、探究学習を進めていく上でニュースに触れることやシステム思考の大切さについて、専門家の意見を交えながら語り合った。
探究学習を続けた結果 難関大合格者が増加
まず、NEA事務局の柳裕樹氏が日本の人口減少について触れながら、次のように語った。
「コロナ禍によって、さらに結婚しない若者が増え、少子化はいっそう進んでいくでしょう。このように急速に変わってしまった社会では、未知に対応できる力や柔軟性など、英語でいうレジリエンスが強く求められてきています。
そこで、今日、ご参加くださっている皆様にインドの詩人であるラビンドラナート・ダゴール氏の言葉を紹介したいと思います。ダゴール氏は、東洋人として初めてノーベル文学賞を受賞しました。
その言葉とは『自分が受けた教育を子どもに押しつけてはならない。彼(彼女)は私たちと別の時代に生まれたのだから』です。この学習会で、この言葉に込められた思いを皆様と共有できたらと思います」
続いて、森氏による講演「探究学習の価値と現状、学習する組織とは」がスタート。
東京出身の森氏は大学卒業後、沖縄の私立中高一貫校である昭和薬科大学附属高等学校・附属中学校(以下、昭和薬科大付属)に社会科の教員として24年間勤務。4年前に東京に戻り、私立中高一貫校の女子校・大妻中学高等学校に着任した。森氏は総合的な学習の時間が導入される前から、昭和薬科大附属で、公民や倫理、政治・経済の授業を通して探究学習に取り組んできた実績を持つ。
「生徒から『この学校は沖縄県のトップ校です。センター試験に関係のないことを授業でやらないでください』と言われたこともありました。しかし、24年間、探究学習に積極的に取り組んだ結果、センター試験や模試の倫理、政治・経済などの平均が80点を超えるなど、生徒の成績が伸びてきたのです。また、地域探究や進路探究、平和学習、小論文学習、ディベート、地域活動にも励むことで、多くの生徒が難関国立大学、難関私立大学、医学部医学科、海外大学に合格してきました。東京大学には100名が、医学部医学科には800名以上が合格を果たしています。現在、その多くが国内だけでなく海外でも各分野の第一線で活躍しています。これは私の誇りです。
受験勉強と探究学習は両立しないのではないかという意見もありますが、私はそんなことはないと思っています。
これからは入試のためだけでなく、社会で生き抜くためにも、子どもたちに探究型の学び方をしっかりと身につけさせたいと思います」
生徒が自分を主語にして何ができるかを考える
森氏は、大学入試の現状を紹介した後、昭和薬科大附属での探究学習について語った。
「私が沖縄に赴任した1995年に米兵による少女暴行事件が起き、基地問題をはじめ沖縄が注目されて、政治問題にも発展しました。私はそんな沖縄で政治・経済を教える難しさを痛感しました。そこで、沖縄で生まれ育った生徒たちが自分たちを主語にして、基地問題だけではなく、あらゆる問題について何ができるかを、対話を通して考えるための課題研究やフィールドワークを始めたのです」
その学習の1つに「沖縄の先輩たちに学ぶ、沖縄のリーダーの生き方から将来を考える」がある。生徒たちは琉球大学の教授や沖縄を代表する企業の経営者、プロ野球選手や芸術家にインタビューをした。当時、ラジオのパーソナリティーを務めていた、現・沖縄県知事の玉城デニー氏にインタビューした生徒もいたという。
対話を繰り返して未来を創造する未来志向
沖縄での実績を糧に森氏は現在、大妻中学高等学校で、対話を大切にした探究学習を行っているという。システム思考の専門家を招き、高1生を対象に「観方を変えれば、世界が変わる」をテーマにした授業がその1つだ。システム思考とは、MIT(マサチューセッツ工科大学)のピーター・センゲ氏の著書『学習する組織―システム思考で未来を創造する』の中で『学習する組織』をつくるために必要な5つのディシプリン(規律)のうちの1つとして紹介されている考え方だ。なお、『学習する組織』とはセンゲ氏らが生み出した概念で「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織」である。「何かが動いたり変わったりすると、他の様々なものが動いたり変わったりします。このようにつながり合って影響を与え合うものを、システムと呼びます。だからこそ、どんな問題に対しても、自分が関わることができると考えるのがシステム思考です。問題を引き起こしている構造を捉え、対話を繰り返し、協働して課題を解決し、未来を創造できるようにこのシステム思考を生徒に学んでもらいました」
そして森氏は次のように力説した。
「私は探究学習が日本の未来を変えると確信しています。思考力・判断力・表現力というと難しく聞こえますが、次のように言い換えるとわかりやすくなります。
『不思議だな』と感じる疑問には深く考える力である思考力が、『どうしよう』という迷いには主体的に考える力である判断力が、『こうしたら』という迷いには対話的に考える力である表現力がそれぞれ助けとなるのです。この3つの力を身につけて、活用法を学ぶことで、探究ができるようになり、子どもたちの未来は輝くはずです」
悠長に構えて中長期に子どもの成長を見守る
続いて、石川氏と森氏の座談会「石川一郎氏が斬る探究学習、これからの学びの中心は?」がスタート。
石川 私も森先生同様に探究によって偏差値もアップすると確信していますが、保護者の方々は「本当に探究は試験の点数に結びつくのだろうか」という疑問を抱きがちです。この点はいかがでしょうか?
森 システム思考の専門家の方によれば、1年間ニュースを読んで対話を重ねてきた高校生たちがAO入試(現・総合型選抜)のグループ面接に望んだ時、あることに気づいたそうです。それは自分の意見の質がまわりの受験生のそれと大きく違っていたことでした。1年間ニュースにふれたことで、いつしか自分の中にその知識が染み込んで大人としての意見を語れるようになっていたというのです。
石川 探究は入試でも、実社会で生きていく上でも役に立ちますし、試験も探究を行ったほうが急がば回れ的に点数が取れるということですね。
森 システム思考では、全体を見て中長期的に考えることを大切にします。私たち教育者も保護者も悠長に構えて、もう少し中長期に子どもたちの成長を見守り、結論を急がずに教育していけば効果が出るはずです。
石川 では、塾の先生方や保護者は、どのようにすれば子どもたちと対話を広げることができるとお考えでしょうか?
森 こちらも専門家の方のアイデアですが、例えば、こんな質問を投げかけてみるのです。「コアラのマーチのパッケージって、なぜ、六角形をしているのか知ってる?」「それになぜ、マーチっていう名前なんだろうね?」「そもそも、なぜコアラをお菓子にしたんだろう?」と。
答えはすべてロッテのホームページに掲載されています。タブレットがあればその場で検索させてみてください。箱はユーカリの木をイメージしてデザインされているそうです。経済や時事問題を検索するような生徒でも、ロッテのホームページを見に行ったことはないでしょう。見るだけでたくさんの発見があります。このようにごくごく身近なものを間に置いて「これどう思う?」から始めると対話は大きく広がるはずです。
石川 最後に「小学生に探究学習は必要ですか?」という質問が寄せられています。こちらに関しては、いかがですか?
森 小学生は探究の宝庫だと思います。私も小さい頃はいつも心の中で多くの問いかけをしていたと記憶しています。ですから、小学生は大人が強制しなくても探究するはずです。その代わり、国際バカロレアの学習者像にあるように、私たち教育者がこれからもっともっと小学生のために探究をしていくべきだと思います。