保護者の方に知ってもらいたい 大学の「今」、「これからの」大学
2022 NEA学習会が「保護者の方に知ってもらいたい大学の『今』、『これからの』大学」をテーマに昨年12月4日(日)、オンラインで開催された。主催は(一社)NEA教育アライアンスネットワーク(堀川直人代表理事、東京都品川区)。
講演者は(一社)大学イノベーション研究所所長であり、作家、編集者、教育系YouTuberとして活躍する山内太地氏。山内氏は日本国内の4年制大学約800校をすべて訪問した実績を持つ。プログラムは第1部と第2部に分かれ、第1部は中高生や保護者などが、第2部は塾関係者が対象だ。
上智や関西学院は推薦が約60%
「国公立大学の入試で一般選抜が大半(70%強)を占めていることに変わりはありません。しかし、現在、国立大大学の20から30%、公立大学の30から40%が総合型選抜(以下、総合)と学校推薦型選抜(以下、推薦)を導入しています。極端な例を挙げれば、名古屋大学や九州大学には、大学共通テスト(以下、共通テスト)を受けずに総合と推薦で受験できる学部もあります。旧帝大であっても、書類選考、面接、小論文の3つで合格できるのです。保護者の方々がかつて点数競争や偏差値であきらめかけていた有名・難関大学にも、こうした入試方式によって手が届くようになり、『この模試の成績では無理』というケースが減少しつつあります」
山内氏は第1部の冒頭でこう述べたあと、私立大学の入試について述べた。
「私大には大きな動きがあります。私大の約55%が推薦を導入しているのです。つまり、共通テストを1カ月後に控えた12月にはすでに私大の入試の半分が終わっています。贅沢を言わなければ、大学に入れる時代になったのです。今や年内の推薦で1人1校だけ受かって大学受験を終えている高校生が増えています。
上智大や関西学院大は推薦が約60%です。推薦で有名大学に決まった人は、この後、一切受験はありません。このように状況が大きく変わっています。今、多くの塾が一般選抜に向けたマーケットだけで戦っていますが、実際には高校生の半分はマーケットの対象外なのです。
では、有名大学が合格しやすくなったのかというと、そうではありません。入れそうな大学なら勉強しなくても進学できるという考えは捨ててください。それだと本当に行きたい大学・学部に受かりにくいでしょう。しかし、『勉強をがんばるぞ!』という意欲に燃える生徒さんは素晴らしい結果が出せるはずです」
将来のために能動的な学習が必要
続いて、山内氏は保護者にできることとして2つのことを紹介した。1つは子どもとの対話だ。どの大学のホームページにも3つのポリシーが掲載されている。教育内容に関するカリキュラムポリシー、就職に関するディプロマポリシー、入試に関するアドミッションポリシーだ。山内氏は、これを保護者が読めば、子どもと有意義な対話ができると述べた。例えば「どうして○○大学の○○学部に入りたいの?」「卒業したら何をしたいの ?そのために今、高校でどんなことを頑張っているの?」と問いかけられる。こうした内容が総合や推薦の面接で聞かれるのだ。
もう1つは限界を決めないこと。「あなたの高校からは無理だ」と言ったり、関西に住んでいるなら「東京の大学はだめだ」と言ったりすることは子どもの可能性を狭めてしまう。
「なぜ私がこんな話をしているかというと、目先の大学受験だけでなく、お子様が社会で活躍する10年先、20年先の日本のことをとても心配しているからです」
山内氏は今後、人口減少に伴い、市場が縮小されて物価や税金が上がり、日本が貧しくなっていくと指摘。この危惧から中高生に向けて次のようにアドバイスした。
「これからは大手有名企業に入っても、会社がみなさんに何かをしてくれるわけではありません。みなさんが自分の力で会社を変えていかなければならないのです。もし、商品が売れなければ、どうすれば売れるかを自ら率先して考える力が求められます。役所も病院も同じです。このことに多くの日本人が気づいているから、教育が変わりつつあるのです。
そこで将来のために必要なのは、能動的な学習です。保護者の方々や先生方が『勉強しなさい』と言うからやるのは、本当の勉強ではありません。それは受動的な学習です。自分が学びたいから学ぶのだという気持ちで、計画を立て実行して結果を出すのが本当の勉強です」
そして山内氏はこう力説した。
「これまでは先生が出した、正解のある問題を効率的に解く『学力バトル』の時代でした。しかし、これからは自分で探した、正解がない問題をみんなと協力して試行錯誤しながら解く『能力バトルの時代』だです。これが大学受験にも言えます。国立大学の入試の20から30%が推薦というのは『能力バトル』を示しているのです」
東大や旧帝大の合格も夢ではない
続いて、山内氏は進路の決め方をアドバイスした。
「これまでは難易度や偏差値で決めましたが、これから重要になるのは、まず、問題の発見です。世の中にはいろいろな問題が起きています。自分がこの学問を学ぶことで、また、この仕事に就くことで解決できる。そう思えることを、志望学部や学科、職業を決めるきっかけにしてください。
次にベストな進学先を探しましょう。自分が入れそうな大学ではありません。入りたい大学です。そして、その大学に合格できる入試方式も使って受験してください。『入試方式も』と私が言ったのは、冒頭に述べたように一般選抜だけが入試方式ではないからです。一般選抜に、書類選考や面接や小論文中心の総合や推薦を組み合わせることで、入りたい大学に受かる可能性が大きく広がります」
次に地方にある国公立大学の入試について語った。
「有名私大と比べて地方国公立大の入試は平等で公平と言えます。総合や推薦で学生を取っています。共通テストを受験しなくてもよい学部もあります。このように、これまでの5教科7科目で勝負するという王道以外のルートを探せば、地方国公立大は入りやすくなっているのです。
首都圏の国立大では、小論と面接だけの学部もあります。千葉大、横浜国大、都立大、電通大も総合や推薦なら手が届きます。点数の競争なら日東駒専を志望している生徒さんにも、能力バトルで勝てるビッグチャンスがあるのです。関西も同じで、一般選抜では手が届かない生徒さんでも京大や阪大の推薦が狙えます」
塾にしかできないコーチングを
山内氏の講演後、NEA事務局の柳裕樹氏と、聖ドミニコ学園カリキュラムマネージャーの石川一郎氏が登壇。柳氏は講演で山内氏が述べた「能動的な学習」が将来においていかに重要かを改めて認識したと語った。また、石川氏は次のように語った。
「自分が将来、何をしたいのか、どうすればそれができるのか、しっかりと向き合って自分で考え、逃げずに立ち向かわなければならないと思います。そのためには社会にある問題を自分ごととして捉えることがますます求められるようになるでしょう。この重要性が大学入試の方式を総合や推薦に変化させているのだと思います」
3名が意見を交わしたあと、第2部がスタート。山内氏は塾関係者に向けて次のようにアドバイスした。
「私は塾の役割が大いに高まっていると考えています。大学入試改革への対応に乗り遅れている高校が多すぎるからです。高校側に任せておくと、従来型の点数競争を中心にした進路指導を行ってしまい、生徒さんが総合や推薦で合格するチャンスを逃してしまいます。
しかし、塾なら、きめ細かなコーチングができます。ですから、塾の先生方はこれまで以上に進路指導の専門家になってほしいと思います。そうすることで少子化の厳しい状況の中、選ばれる塾になっていただくことが私の切なる願いです」