全国学習塾協同組合 関西支部兵庫が
5周年記念式典と定例勉強会を開催
4月で開設から5周年を迎えた全国学習塾協同組合(以下、AJC)関西支部兵庫は4月20日、記念式典と定例勉強会をラッセホール(神戸市)にて開催した。
5年のうち3年はコロナ禍に見舞われ、オンライン開催等に切り替えながらも年5回のペースで勉強会を実施。コロナが5類に変更されることや経済活動も活発化していることから定例勉強会とともに記念式典を開催する運びとなった。
式典にはAJC理事長の森貞孝氏ほか、副理事長4名が出席。灘中学校・高等学校 前校長の和田孫博氏も来賓としてお祝いに駆けつけた。
働き方改革と産官学協働―校塾連携の事例研究―
神戸山手女子中学校高等学校 校長 平井正朗 氏
2014年にOECDが実施した教員指導環境調査では「教員が負担と感じること」の第1位は「指導(授業)に使った時間」だったが、教員には「授業準備は生徒の顔を思い浮かべ楽しみながらやって欲しい」と伝えている。それは「教員が担当する教科を楽しみながら教えないと生徒の力はつかない」と考えるからだ。1日に2回は全教室を見て回っている。その際に見るのは教員の授業ではなく生徒の顔だ。生徒の顔を見ればその授業の善し悪しがすぐにわかるからだ。授業評価も生徒の様子を見て行っている。
現在の教員の仕事は授業、生徒指導、学習指導、進路指導、部活動、課外活動、校務分掌、学校行事、保護者対応と多岐にわたる。教員の多忙化は自治体も把握しており、仕事を減らす努力はしているものの、まだ多すぎる。バーンアウトを避けるため、教員にもソーシャルサポートを実施している。問題を抱えている生徒や課題を学年団や他の先生に相談、共有できるよう体制を整えた。一人で抱えると苦しいが誰かと共有し、対話があると負担は減り、解決の糸口が見つかることもある。教員不足が叫ばれて久しいが、ベネッセが昨年11月に実施した調査では中3の将来の夢の1位は教師・大学教員だった。教員不足も変わっていくだろう。
産官学協働については神戸山手女子の事例を紹介する。予備校講師による校内予備校を開設し大学受験講座を行っている。外部講師を招くにあたり教員には「大学受験は塾や予備校がプロであること」を理解してもらい、外部講師には「受験指導」、教員には「基礎基本の徹底」と役割分担を明確にした。結果、互いにコミュニケーションをとれるようになり教員は多くのことを学んでいる。指導法研究はしっかりやっていたものの素材研究、教材研究ができていなかったなど、自分たちの弱点や学校の強み、学習塾の強みを知ることができた。
ICTの個別最適化学習は一つの柱で「未来の教室」プロジェクトを活用し、補助金を受けてスタートさせた。そこで判明した生徒の課題は、モチベーション維持と学習習慣の定着。教師の課題は教務機器の使いこなしとファシリテーター、勉強のやり方をしっかり教え、生徒の進捗状況管理であった。そのため、「設定された時間にオンラインで教員と生徒が双方向に授業を進める形式」から「教員が準備したオンライン上の資料やビデオに生徒が自らアクセスし、自学自習にする形式」へと変更している。
カウンセリングルームには週3日のカウンセラー配置。学習支援室は常時教員を配置し、何時に来てもいいように変更した。個別最適化学習を可能にし、レポートの提出で単位認定するようにしたところ、不登校生が9割以上回復している。このように校内予備校や企業が作った教材をうまく組み合わせることで校塾連携を実践している。
塾繁栄の肝とは?
(株)ヒューマレッジ・木村塾 創業者 現相談役 木村吉宏 氏
今年の1月に代表を降り、相談役に就任。(株)ナガセの傘下に入った。経営は順調でここ20年ほどは無借金経営。経営面では困っていなかったが木村塾はIT分野が非常に弱く、AIに強い(株)ナガセの協力が欲しいと思ったこと、人材募集に有利になると思ったことがきっかけだ。上位層をターゲットとしていた(株)ナガセも生徒層の裾野を広げるために木村塾が持つ中間下位層へのノウハウを評価して、M&Aが成立した。
木村塾を開設したのは37年前。「絶対に見捨てない塾」として自宅の2階で始めた。きっかけは高3の時に遭った事故。命は助かったものの一生歩けないと言われ、同級生が大学生活を満喫する中、何度も入院と手術を重ねた。周囲から置いて行かれたような気持ちになり絶望していたところ、たまたま出会った医師のおかげで奇跡的に回復した経緯がある。絶望してもそこから何かが始まることがある、一期一会の出会いがあると学んだ。「先生からすると多勢の生徒たちの一人かもしれないが、生徒にとっては人生を変える一期一会の出会いとなることがある。だから一人ひとりの生徒を大切に」と現場に伝えている。
絶望し、周りから置いてけぼりになった経験が「落ちこぼれを救いたい」との思いにつながった。最初に来た生徒は32人。多くが問題を抱え授業にならなかったため近くの公園で一緒に缶蹴りをした。ひたすら負け続け、生徒たちを褒め続けた。授業ができるようになってからも「明るく、楽しく」を徹底して心がけた。講師への研修でも教科研修は後回し。まずは生徒を楽しませコントロールできるようになってからだ。とにかく笑わせて教室中が湧いても「はい!じゃあ今から授業します」といえば一斉に姿勢を正す。そこまでできて初めて教壇に立てる。
33歳の頃には1カ所で1000名の生徒を集め注目を浴びた。いずれも徒歩や自転車での通塾で近所の子ばかり。勉強ができない子を本気で伸ばす、費用も安い塾がほかにはあまりなかったからだろう。木村塾の特徴的なところは宿題や居残り、復習テストをするかどうか生徒に決めさせるところ。しなくてもペナルティはないが、やった子は褒めちぎるようにしている。それを見た子は「次は自分もやる」と決める。だんだんとやる子が増え、ある一定以上になるとオセロがひっくり返るように一気に増えていった。中3生向けの夏合宿でも1日の勉強量やスケジュールは班で話し合って決めさせる。子どもたちを信頼して任せれば心配することはない。
何のために勉強するのか?自分のためと世の中のために。それが無理な子にはせめて「利己49対利他51」を推奨している。木村塾で大逆転合格を果たした生徒に共通した動機の多くは「利他」であった。「勉強ができない自分が有名校に合格したらどれほど多くの後輩たちの希望になるだろう」。今どきの現代っ子たちがそんなことに目を輝かせて努力をしていた。自分で決めてやるから頑張れる、誰かのためだから頑張れる。そんな子どもたちが増えていけば社会は変わっていくと思う。塾で日本を変える、世界を変える。そんな想いで塾をやってきた。
全国学習塾協同組合について
AJCは各塾の経営にプラスとなる共同購買や共同広告制作等を行う相互補助組織だ。定期的な勉強会や補助金申請のサポート、学習塾を取り巻く様々なリスクを補償する保険制度もあり、年間保険料は生徒1人あたり110円からと破格。
また、AJCでは未来の子どもたちの支援を塾、私学、企業の三位一体で支えていくという考えから経済的に通塾が困難な方への助成を検討している。通塾支援にご協力いただける企業も募集しているとのこと。加入済みの方も未加入の方も、合わせてご検討いただきたい。
全国学習塾協同組合への加入について
◆出資金:1口20,000円(脱会時に定款に従い返金)
◆賦課金(会費):2,000円/月
◆加入特典(一部)
・研修や講演を通じての組合員同士の交流会
・法務、労務、保護者対応などの個別相談
・会員だけ加入できる塾保険
・組合誌の発行
・大規模教材展の実施
https://ajc.or.jp/