日本民間教育協議会 2023年第1回臨時総会・
各省庁と民間団体との意見交換会
9月8日(金)、日本民間教育協議会の「2023年第1回臨時総会・各省庁と民間団体との意見交換会」が、アルカディア市ヶ谷 私学会館(東京都千代田区)で開催された。意見交換会には、経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課教育産業室長の五十棲浩二氏、文部科学省 総合教育政策局リカレント教育・民間教育振興室長の西明夫氏、こども家庭庁 長官官房参事官(総合政策担当)付 少子化対策室長の中原茂仁氏、同協議会の顧問である衆議院議員の鈴木英敬氏が臨席。
臨時総会では、同協議会会長を務める安藤大作氏の司会により、同協議会から上記の各省庁代表と意見交換をしたい項目が共有された。
正会員・賛助会員合わせ17名が臨時総会に出席
臨時総会には、司会を務める安藤会長を含む正会員・賛助会員合わせて17名が出席。
会員の自己紹介に続き、各省庁と意見交換をしたい項目が共有された。なお、これらは事前に各省庁に通知されている。
項目は経済産業省が「民間教育による可能性(学力、精神的豊かさ、専門領域)&地方財源に頼らないバウチャーの必要性、または学校業務のアウトソーシングにかかる自治体補助の必要性(水泳、実技課目など)」「部活の地域移行」「自治体間格差の解消」。
文部科学省が「学校現場の疲弊の解消について」「教育機会確保法の履行について」「部活動ガイドライン不履行の現場について」「総合学習および道徳授業のアウトソーシング促進について」「公教育連携を阻むものは何か」である。
こども家庭庁が「『こども家庭庁』の役割について」「こどもまんなか社会においてのこども家庭庁の『いわゆる横串機能』について」だ。
続いて今後の同協議会について。これまでは「垣根を越えて、民間教育一体となるための交流および今後の発展のための土台作り」であり、これからは「直近の日本版DBS制度の民間適用を皮切りに『公教育との連携促進』と『教育バウチャー制度』についても、具体的な提言をしていく」という報告がなされた。
また、日本版DBS制度の民間適用に関連して、昨今の一部学習塾における盗撮事案が言及され、こども家庭庁の「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」報告書(案)が公開された。
学校以外の人々との切磋琢磨が学び続ける学習者を育てる
臨時総会のあとは、意見交換会へ。各項目に対して、各省庁からの発表と質疑応答が行われた。まず、経済産業省の五十棲氏から。五十棲氏は経産省に入省したあと、母校である聖光学院中学校高等学校(横浜市)に教員として7年間勤務した経験がある。
五十棲氏は「教育DXと未来の教室」をテーマに発表。「コース料理・幕の内弁当型」の学びから「ビュッフェ型」の学びへの移行が必要であると力説した。つまり、全員が同じメニューではなく、多様な選択肢を用意することが求められているという。こうした現状を鑑み、学習塾、スポーツ・音楽・プログラミングなどの教室、通信教育(EdTechサービスや校務支援サービス)といった民間教育サービスが重要性を増し、学校教育と融合していくであろうと語った。さらに所属している学校以外の生徒や社会人、地域との交流や切磋琢磨が学び続ける学習者を育てると述べた。
その一方、学校外の体験格差や不登校への対応のため、主に経済困窮家庭を対象にした教育クーポンの提供を実施している自治体の事例を紹介。このクーポンが学びの選択肢の拡大に対応できる可能性があると語った。
また、部活動の地域移行に関して、全国10カ所で実施された「未来のブカツ」フィージビリティスタディ事業(FS事業)について紹介。「未来のブカツ」のイメージは「様々な運営主体が提供する地域のスポーツクラブ活動とし、従来の部活動とは異なる多様性に富んだ姿」であるという。
「会員の皆様が心をひとつにして解決していくためのお手伝いを」
会員との意見交換に続いて発表したのは、文部科学省の西氏だ。西氏はSociety5.0における学びのあり方と求められる人材像、新学習指導要領の全体構造、「令和の日本型学校教育の姿」などについて解説。最後に次のように語った。
「これからの学校には一人ひとりの児童や生徒が自分の良さや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り開き、持続可能な社会の作り手となることができるようにすることが求められています。こうした学校教育を実現するために、民間教育に携わる皆様のお力をいただきながら、改善に向けて取り組んでいきたいと考えております」
続いて同協議会の顧問を務める、自由民主党所属の衆議院議員の鈴木氏が会員に向けて次のようなエールを送った。
「多岐にわたる分野でお子様たちと接している皆様は、お子様たちの喜びをご自分の喜びに変えるという尊いお仕事をしておられます。一方で様々な行政機関とのお付き合い、社会制度、社会課題に関してお困りごとやお悩みごとも多いかと思います。それらをこうして皆様が心をひとつにして解決していくためのお手伝いを少しでも私ができればと考えております」
その後の意見交換では、安藤氏が「民間教育が学校教育の中に入っていくことは、文科省様としては推奨されることなのですか?」と質問。その問いに西氏は「大歓迎です」と笑顔で答えた。
省庁の縦割りを打破し新しい政策課題に対応
次にこども家庭庁の中原氏による発表。こども家庭庁のスローガンは「こどもまんなか」であり、その役割は「こども政策の司令塔としての総合調整」「省庁の縦割り打破、新しい政策課題や隙間事案への対応」「保険・福祉分野を中心とする事業の実施」であると述べた。
そして今年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」について解説。これは若い世代が「結婚や子育ての将来展望が描けない」といった課題に対して3つの基本理念で応える戦略方針だ。3つとは「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造・意識を変える」「全てのこども、子育て世帯を切れ目なく支援する」である。
中原氏は、その具体的な施策をわかりやすくまとめた「こども未来戦略方針MAP」を紹介。例えば「うちの子たちが大学に入った時、ちゃんと学費払えるだろうか?」といった不安に対しては高校入学時における授業料減免などの支援対象を拡大したり、授業料後払い制度を修士段階の学生に導入したりする施策が検討されている。
こうした発表を受けて、各省庁の代表と会員との建設的な議論が交わされ、鈴木氏が次のように述べた。
「貴重なご意見をありがとうございます。ここで皆様にお願いしたいことがございます。価値観が多様化する状況の中では、行政も国も地方も外形的なことだけではなく、中身をしっかり見て判断することが必要だと思います。行政が外形だけで判断しないように皆様が横の連携をさらに強め、行政と歩み寄れるようにしていただきたいというお願いです。その橋渡しを私はしっかりやっていきたいと思います。
もう1つは、皆様と地方自治体とのコラボにおける成功体験を今後数多く積み重ねていただきたいというお願いです。初めて民間とコラボする地方自治体の方々が業務をしやすい事業を行い、ハードルを下げていただけば、民間と地方自治体との温度差が小さくなるはずです。
民間教育に力を注ぐ皆様のお仕事の意義を政府が正しく理解し、応援していく体制はまだまだ十分に整っていないと思います。政治の場でも私は正しく理解できる人材を増やしていく活動をしっかりと行っていきたいと考えています」
最後に安藤氏が「今日はたくさんの宿題をいただきました。その宿題にしっかりと取り組んでいきたいと思います。次回の総会は来年1月に予定しておりますので、また、よろしくお願いします」と挨拶。会終了後は懇親会が開催された。