(一社)日本青少年育成協会 主催
教育コミュニケーションフォーラム2023
アクティブラーニングで人と社会の未来を創り出そう
今回で8回目を迎える「教育コミュニケーションフォーラム」が一般社団法人日本青少年育成協会(東京都新宿区)の主催、一般社団法人日本教育メソッド研究機構主管により、11月12日(日)、TKP市ヶ谷カンファレンスセンター(東京都新宿区)で開催された。今年度のテーマは「VUCAの時代を見据えて、教育のデフォルトを書き換える」。なお、VUCA(ブーカ)とは「Volatility」「Uncertainty」「Complexity」「Ambiguity」の頭文字を取ったもので、社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況のことだ。こうした時代の中、子どもたちへの教育はどうあるべきか、貴重講演やワークショップ、トークショーを通して、気づいたことや学んだことを、100名の受講者たちが分かち合った。
■開会の挨拶・オリエンテーション■
一般社団法人 日本青少年育成協会 会長 増澤空 氏
幸せになるために愛にあふれたコミュニケーションを
「1週間前、愛する猫が亡くなりました。私の家族は妻と私の2人だけです。この1匹の可愛い猫がいなくなることによって、2人の心にぽっかりと穴が空き、家庭の雰囲気がガラリと変わってしまいました。猫は言葉を話せませんが、私たち夫婦が困っている時、癒やされたい時、常にそばに寄ってきてくれたからです。
今日この会場には教育に携わる方が多く来られています。皆様は子どもたちの将来のために勇気をもって厳しい言葉をかける時もあれば、あえて黙って見守り続ける時もあるでしょう。これがコミュニケーションの本質だと私は思っています。
私はもうすぐ81歳になります。この年齢になってコミュニケーションの先にあるのは、幸せになることだと痛感しています。幸せになるためにはお互いが理解できるように努力するだけではなくて、少し照れる言葉ですが、愛にあふれたコミュニケーションが必要だと思います。
亡くなった猫も私たちの夫婦の愛を感じてくれたのではないでしょうか。教育に携わる皆様には子どもたちが心から『この先生と一緒に勉強したい』と思ってもらえる愛にあふれたコミュニケーションができるように、今日一日、有意義なひとときを過ごしていただきたいと思います」
■基調講演■
(株)モノリス代表取締役会長
(株)MONOLITH Japan 代表取締役社長
岩井良明 氏
「虎が斬る日本の教育~子どもたちの〝大志〟を引き出すためのあくなき挑戦〜」
就職活動に役立つ『令和の虎』を大学生などに観てほしい
学習塾を展開する(株)モノリス代表取締役会長、NPOスポーツフォーラム愛知の代表理事、芸能プロダクションであるイエローキャブのオーナーを務めるなど多くの肩書を持つ岩井氏。しかも今では、総再生回数5億回、チャンネル登録数100万人を超える「令和の虎」などのYoutubeチャンネルを主催している。「令和の虎」は、志願者が「虎」と呼ばれる投資家の前で事業計画をプレゼンテーションし「虎」を納得させれば、資金を得られるというチャンネルだ。
「僕は『令和の虎』をぜひ、多くの高校生や大学生に観てほしいと思っています。彼らや彼女たちが年長者に対して、どのようなことを話せば認めてもらえ、どのような言葉遣いをすれば叱責されるのか、就職活動における面接の参考になるからです。大学では教授がこのチャンネルを学生たちに見せているそうです」
この「令和の虎」の大学受験版もある。『受験生版Tiger Funding』だ。大学に行きたいが経済的な理由によって親からは就職を勧められている高校生が「虎」から100万円の学費を獲得しようと、あくなき挑戦をするチャンネルである。「Youtubeで始めたのは僕が59歳の時でした。自分がユーチューバーになるとは夢にも思いませんでした。現在63歳の僕は『還暦ユーチューバー』と呼ばれています。みなさんもぜひYoutubeにチャレンジしてみませんか。Youtubeは長尺の媒体です。チラシを撒くのと違い、わずかな資金で生徒や保護者にみなさんの思いを伝えられます。しかも、生徒募集に役立つだけではありません。Youtubeチャンネルを継続させるには、どのような表現をすれば相手の心に届くのかを常を考えることが要求されます。こうして培った力は、必ずみなさんのお仕事のプラスになるはずです」
■ワークショップ■
教育コミュニケーションフォーラム実行委員長
日本教育メソッド研究機構JEMRO 代表理事
小山英樹 氏
「教育コミュニケーションで教育のデフォルトを書き換える」
「標準」を表す「デフォルト」には「怠る」という意味も
挨拶のあと、ファシリテーターを務める小山氏は隣席の人とペアを組んで自己紹介をするように促した。そして「岩井氏の基調講演を聞いて、どのような気づきを得たか、どのように感じたか」を話し合ってもらうようにお願いした。
続いて「ウォーミングアップセッション」。ペアを組んだ人に「あなたの教育理念を教えてください」「あなたの教育の強みは何ですか?」「あなたの教育の誇れる成果は何ですか?」の3つを質問して、その回答を傾聴・承認するように勧めた。
次に小山氏は文字がぼやけて判読できない画像をスクリーンに写して紹介。
「視力などに障害がある子どもたちには、明朝体で書かれた文字がこのように見えています。皆様は明朝体で書かれた教科書を当たり前のように使っているでしょう。それがデフォルトになっているわけです。『デフォルト』には『標準』『普通』『通常』『初期設定』という意味があります。その一方で、『怠る』『怠慢』『棄権』『不履行』という意味もあるのです。『デフォルト』とはサボることでもあるのですね」「このワークショップでは、組織や自分の教育に関する『デフォルト』を洗い出し、疑ってみる1日にしたいと思っています」
体験などが生んだ信じ込みや感性の麻痺がデフォルトを創り出す
小山氏はそう語ったあと、塾や学校でのアクティブラーニングを録画した映像を見せた。生徒同士で学び合ったり、生徒が前に出て他の生徒に授業をしたりしている映像である。そして各自が考えている「授業(指導や研修、子育てなども含める)のデフォルト」「コミュニケーションのデフォルト」をシートに書き出すように呼びかけた。前者であれば「教室の机の並び」「先生の役割」「授業の第一声」「授業の流れ」など、後者であれば「自分と相手との発言量比率」「表情」「姿勢」「締めの言葉」などだ。そしてこれらを「書き換えるなら、どうすればよいか」を考えるようにお願いした。たとえば「教室の机の並び」なら「スクール形式」がデフォルトで「自由席」が書き換え。「締めの言葉」なら「さようなら」がデフォルトで「ありがとう。次回も待ってるよ」が書き換えだ。これらの結果をペアを組んだ人とシェアするように呼びかけた。
次に、一人ひとりが洗い出した「デフォルト」を「KPT」に分類して書き出すようにファシリテート。「K」は「Keep」で「すでにやっており、継続すること」、「P」は「Problem」で「すでにやっているが、改善すること」、「T」は「Try」で「新たに取り組むこと」である。そして最後に小山氏は次のように語った。
「デフォルトを創り出しているもの。その1つは教育と体験が生み出したビリーフです。ビリーフとは『信じ込み』のことです。もうひとつは感性の麻痺です。これにより、違和感を覚えなくなったり、課題発見能力が低下したりします。
ぜひとも、楽しんで、教育やコミュニケーションのやり方をバージョンアップして帰りましょう」
ナレッジタイム「最新の教育コンテンツのご紹介」
(一社)日本青少年育成協会 専務理事 本田恵三 氏
「今日、こうしてこのフォーラムが実現できたのは、43社のご協賛の賜物です。心から感謝いたします」と本田氏は述べ、協賛、43社の中の3社、(株)コムレイド(奥村慎介代表取締役社長、東京都新宿区)、(株)アクトプロ(新谷学代表取締役社長、東京都港区)、(株)ブロードリンク(榊彰一代表取締役社長、東京都中央区)を紹介した。
■トークショー■
「オリンピアンに聴く──挑む力・やり抜く力の引き出し方」
スピードスケート長野五輪銅メダリスト 岡崎朋美 氏
聴き手:(一社)日本青少年育成協会 副会長 木村吉宏 氏
きっかけは高2の時
橋本聖子選手を指導した長田監督にスカウトされる
岡崎氏は1994年、リレハンメルオリンピックに出場。1998年の長野オリンピックでは日本女子短距離として初めて銅メダルを獲得した。その後、腰を傷めるも2002年のソルトレークシティオリンピックでは見事な復活を見せ、2005年には33歳にして7度目の日本新記録を達成。2006年のトリノオリンピックでは日本選手団主将となる。5度目のバンクーバーオリンピックのあとに出産し、6度目のソチオリンピックを目指すも現役引退を表明。42歳で挑戦を終えた。現在、聖徳大学教育学部教育学科スポーツ教育コース客員教授を務めながら、スピードスケート普及活動に尽力している。
木村 岡崎さんは何歳頃からスケートを始められたのですか?
岡崎 私が生まれた北海道斜里郡の清里町では冬になると体育の授業でスケートをします。その頃から氷の上で滑っていて、小学3、4年生の頃にスピード少年団という団体に入りました。当時、転校してきた女の子がスケートを習っていて、その子と親しくなって、ライバルになってくれたのでスケートに力を入れるようになったんです。
そのお友だちは看護士を目指していたので途中でスケートをやめてしまいましたが、私は釧路にある高校に進学してスケートを続けました。
木村 その時には岡崎さんは北海道で一番くらいの実力になっていたんですよね?
岡崎 いえいえ、とんでもない。高校の時はインターハイ4位が最高でした。冬季オリンピックに出たいなんて思ったこともなく、橋本聖子さんを陰で応援していました。
きっかけは高2の時でした。北海道でスケートの実業団や大学のトップの選手が集まる大会があり、その時に富士急スケート部の長田照正監督に声をかけていただいたんです。長田監督はサングラスをかけてゴルゴ13みたいな怖いイメージ。最初は橋本聖子さんを指導されている方だとは気づきませんでした。
木村 岡崎さんがダイヤモンドの原石であることを、長田監督は見抜いたのですね?
岡崎 そうですね。それで、その大会で長田監督に「うちに来ないか」とスカウトされたんです。迷っているとまわりの人からは「練習が厳しいから岡崎じゃ無理だ。泣いて帰ってくるだろう」と言われました。でも、橋本聖子さんをはじめ、トップレベルの先輩たちが大勢いる環境の中で、自分の能力をどこまで試せるか、どんな世界が待っているのか胸を踊らせて富士急行への入社を決めました。
プレッシャーは人ではなく自分自身がかけてしまうもの
木村 富士急スケート部での練習はやはりハードでしたか?
岡崎 はい。練習量も練習方法もこれまで私が受けてきたものとまったく違いました。でも、オリンピックを目指そうとして猛練習に励む先輩方の意識の高さに触れて、私も頑張ろうと必死でした。
木村 長田監督の指導はいかがでしたか?
岡崎 当然、厳しかったのですが、選手一人ひとりの意見にきちんと耳を傾けてくださり、選手の考え方が間違っていたら「それは違う」とはっきりとおしゃってくださいました。また、本音でお話ができる方でした。
木村 岡崎さんが5回もオリンピックに出場できたのは、長田監督のご指導の賜物ですね。
岡崎 はい、感謝しています。高校時代はそんな日が来るとは思いもよりませんでしたから。
木村 ここまでの道のりの中では、深刻なスランプもあったでしょう。岡崎さんは、それをどう乗り越えてきたのですか?
岡崎 確かに試合の最中でも「もうこれで終わりかな」と思ったことはありました。でも、もがいたところで結果が悪くなる一方なので、深刻に考えず「ダメならダメでいいや! やるだけやろう」と思って滑った結果、優勝したこともあります。
木村 今日は教育関係の方々が多く参加されています。そこで、これまで多くの選手たちを見てきた岡崎さんにお聞きしたいのですが、才能があるのに伸びない選手と、逆に実力は普通でも伸びる選手との違いはどこにあるのでしょうか?
岡崎 才能があっても努力をしないと伸びませんね。たとえ才能に恵まれていなくても、まわりの人のアドバイスを素直に受け入れて努力する選手は伸びます。また、スケートに対する愛情の深さも、伸びる要素のひとつだと思います。
木村 岡崎さんは、世界中の人たちが見守るオリンピックで、信じられないほどのプレッシャーを感じてきたと思います。ここにおいでの教育関係の方々が教える受験生たちも試験会場でプレッシャーを感じてしまうことも多いと思います。試験以外でも同じです。こうした重圧や不安を跳ね除けて、何かに挑む力、やり抜く力をどう身につけていけばいいのでしょうか?
岡崎 プレッシャーは人が自分にかけるのではなくて、自分が自分にかけてしまうものだと思っています。自分で自分を潰してしまうくらいもったいないことはありません。
受験でも試合でも、本番に向けて準備するための長い時間があるので、その間に「これだけ勉強をしたんだ」「これだけ練習したんだ」と常に振り返って自信をつけることが重要だと思います。
また、何が不安なのかを見極めて、例えばそれが数学の勉強の足りなさから来ているのであれば、数学を徹底的に勉強して不安を取り除くという方法もあります。
木村 やるべきことはすべてやったという自信がプレッシャーを跳ね除けるのですね。
岡崎 はい。また、本番まで時間が迫ってきても「あと1日しかない」ではなくて「あと1日もある」と考え、余裕をもって臨んでほしいですね。
木村 私もそう思います。今日は貴重なお話をありがとうございました。
プレミアム分科会
第1分科会のテーマは、「『探究』活動の素(もと)として『問いを立てる』トレーニング基礎編~クエスチョンバーストワークショップ~」。講師はユマニテク短期大学学長 鈴木建生氏
第2分科会のテーマは「スポーツって楽しいだけですか? ~塾、予備校、部活動からアプローチする入試改革~」。講師は追手門学院大学教授 上田滋夢氏。
第3分科会のテーマは「教師・指導者の自己成長~ティーチング・ポートフォリオ・チャートの活用~」。講師は広島城北中・高等学校校長 中川耕治氏。
第4分科会のテーマは「生きる力を育むグローバル教育とアイデンティの確立」。講師は海外留学協議会 評議委員・日本青少年育成協会 常任理事 林隆樹氏。
参加者はそれぞれ興味のある分科会に参加し、学びを深めた。
クロージング 閉会の挨拶
(一社)日本青少年育成協会 副会長 木村吉宏 氏
「今日は朝10時から夕方5時までの7時間、本当にお疲れ様でございました。岡崎さんは自分がまさかオリンピックに5回も出られるとは思いもよらなかったとおっしゃっています。ご自分に対するデフォルトや思い込みを変えていくことの大切さに気づかれたのですね。
皆様も明日からデフォルトを書き換えて、新しい自分になって未来を切り拓いていきましょう」