AJC(全国学習塾協同組合)森貞孝理事長の最新教育情報 第78回
自塾のために、冷静でより良い判断を
激動の時代とは、いつも繰り返して言われ続けていることだが、振り返ってみるとコロナ感染症で世界中がパンデミックになって以来の世界情勢は、今まではいかに平穏だったかと思えるほど、しかも世界の戦争やテロなどが瞬時にリアルに世界中から発信されて恐ろしいほどだ。
日本では元日に能登半島地震が起き、2日夕刻に日航機の羽田空港滑走路での衝突事故が世界中へ衝撃として伝えられた。新年早々大震災と事故で始まった今年はどのような年になるのだろうか。
年末に朝日新聞の推計で、23年度の出生数が72万6000人台との報道にショックを受けた。出生数が100万人を割ったあと、90万人台が3年で、80万人台も3年で一昨年は77万人、そしてコロナがほぼ収束に向かって経済に力を入れている最中にさらに72万人台という数字だ。場合によっては、70万人台は2年で通過し、2025年は60万人台に突入する可能性もなくはない。
比較的出生数の減少が少なかった首都圏でもこの7年間で40%以上減少した都市がいくつか出始めた。3年先には出生数が100万人を割ってから急減している子どもたちが小学校高学年から中学校へさし掛かる。学習塾の経営には待ったなしの状況だ。
昨年は数多くの塾が閉鎖をしている。大手塾もフランチャイズの塾も含めて採算に合わない塾の閉鎖が続いている。中小零細塾が経営に苦しんでいるだけではないのだ。
この出生数の減少を一過性のものととらえるわけにいかない。10数年後からその少ない出生数の人たちが子どもを産む世代になる。4割減の出生人口がさらに4割減の子どもを産むことも考えられるのだ。
マイナス要因ばかり集めても意味がないかもしれない。
昨年生成AIで世界中が大きなショックと新しいIT技術の進展が見られたが、日本では今年新たな生成AIを発表することよりもどう活用するかに力点を置いた技術の開発が焦点になりそうだ。例えば日立製作所はAIDXともいうべき自社独自のAIを開発し、自社の全事業に活用すると発表し、マイクロソフト社と緊密な連携を進めている。富士通の時田社長は日本語の生成AIに力点を置くことを表明し、IT関連各社は様々な角度からより使いやすい、ソフトの開発、新製品の発表に他社に負けたくないと目の色を変えて取り組んでいる。
一昨年東大がメタバース工学部を発表して一時話題を集めたか。フェイスブックは社名をメタに変えて巨額の資金をつぎ込んだがこちらの方はまだ目覚ましい成果をあげていない。仮想空間上でアバターを通して議論を交わし、モノを製作し、販売するなど無限の可能性があると言われているが、現在圧倒的に女性のアバターを作って、日頃口に出せない意見を言う場になったりして、さらにゴーグルをつけるなど事業活動の本筋から離れた部分が事業活動の本筋になりきれないことのようだ。
学習塾としては、AIDXにあわてて飛びつくことは避けたい。自分で出来る範囲で挑戦し活用しながら、これらの技術が向かう方向を見定めたい。教育の本質は変わらない。しかし時代は大きく変化しているのだ。冷静でより良い判断を自塾のためにしなければならない時だと考える。