城南進学研究社が取り組む 学校×塾・予備校の
新トレンド 東京都立校「校内予備校」
不登校生が学ぶ「デキタス」
(株)城南進学研究社(下村勝己 代表取締役社長CEO、神奈川県川崎市)は、東京都教育委員会の学力向上支援事業として、都立高校の「校内予備校」で推薦入試対策講座や進路指導を担い、全国の自治体や学校と関わりを深めながら様々な学びを提供している。
同社専務取締役執行役員COO・千島克哉氏、学校教育ソリューション事業部マネージャー・高橋哲夫氏、同事業部リーダー・高山恵美氏3名を取材。教育現場の実情や〝学校の塾化〟の状況が塾業界に及ぼす影響、利益追求と企業理念のバランス、そして今後の展望に迫った。
学校推薦型・総合型選抜の対策講座のニーズが活況
昨年度より東京都の一部の都立高校で、学習塾・予備校が授業や受験指導を行う「校内予備校」事業がスタートした。〝塾が学校の中に入る〟ストーリーは、確実に塾業界に影響が及ぶと危惧する声も少なくないと千島氏は話す。
「公教育の場合は競争入札のため、民間企業には採算がネックとなります。慈善事業に留まるのか、戦略的な設計を組み立てられるのかを株主に問われる可能性もあり、センシティブな問題だと認識しています。
短期的な利益を追求すると競争入札とは相いれない部分が生じます。利益と、あまねく学びを届けるという社会的な役割や企業理念とのバランスが重要です。そのため、歯切れのいい解答は難しいのが正直なところです」
実際、赤字覚悟で請け負うケースもあると千島氏は明かした。
「事業単体の収益が見込めずとも、他の事業への好影響を多少なりとも見込んで発進するケースもあります。
我々はコンテンツの知名度が向上することや、導入先との信頼関係が増すことによる他サービスへの展開を〝フィードバックループ″と名付けています。もちろん、その他サービスへの展開ができないケースも多くありますが、お受けした案件は最後まで情熱を持ってやりきることを信条としています」
都立高校では昨今、働き方改革による時間の制約により受験指導まで手が回りきらず、外部委託を希望する相談が急上昇していると高橋氏は話す。
「東京都の校内予備校は国公立入試の添削を強化して合格実績を上げる、または基礎学力の底上げを図るなど、学校ごとに講座や対象学年、ゴールを提示します。通年にわたる授業は放課後や土曜を中心としますが、夏休みの3日間や1日完結講座などもあります。最近では英検R2次試験の面接対策を1日でやりきるといったユニークな短期講座も出てきました」
また、学校推薦型・総合型選抜対策も相談件数が急拡大している。
「講師を派遣する従来型の授業よりも、推薦入試対策講座のニーズが高まっています。志望理由書の書き方や自己分析、学部学科の研究、将来のビジョンなど共通する部分は映像コンテンツを提供しています。
さらに、映像に付随したワークシートにより無理なく授業が進行できる上に、ワークシートが生徒とのコミュニケーションツールともなっています」(高橋氏)
ワークシートは現場の先生方から絶大な支持を得ている。もともと城南進学研究社の得意とする部分を学校ごとにカスタマイズし、映像を見ながらワークシート通りに授業を行えば先生の権威も保たれ、労務問題の解決にもつながっているのだ。
全国で増え続ける不登校
進学・進路指導に注力を
さらに、学校現場で抱える不登校の問題を民間教育に委託する流れも見逃すことはできない。「家から出られない生徒たちの日中の過ごし方が最も気がかりだ」と先生方は嘆いていると高山氏は指摘する。
「東京都のVLP(バーチャル・ラーニング・プラットフォーム)に弊社のWEB学習システム『デキタス』が採用されています。メタバース空間の中で勉強したり、悩みを打ち明けたり、一緒にゲームをするなどコミュニケーションを図って、子どもたちの安全や学習を見守っています。
ソフトを提供する企業は数多くありますが、私たちはシステムを使っていただく導入部分で生徒に丁寧に説明を行うなどの協力をしつつ、現場が自走していくための方法をご提案します。圧倒的な人的リソース不足の中で、状況に応じて人員配置も含めたベターな選択を一緒に探っていきます」(高山氏)
「デキタス」試験導入の自治体は、年度の途中でも増加中だという。千島氏が強調するのは、学習コンテンツの先にある進学や進路の課題だ。
「不登校生は進路や進学先のことで悩んでいます。しかし、学校から情熱を持って進路指導をしてもらえる機会は極めて少ない状況です。弊社は神奈川県横浜市で進路や進学先の情報提供の機会を設けており、保護者から非常に感謝されています。我が子の未来に関心がない親はおりません。不登校生の進路も同じように手助けをしていかなければならないと考えています」
千島氏は行政の競争入札について、民間教育がどこまで根気よく時間と労力をかけ、必死に汗をかいて成果を上がられるか、税金に値する価値が問われていると述べた。
例えば、ある町での『町営塾』は単体での利益はほぼありませんが、地元でその価値が認められ信頼を得た結果、地元の中学で『英検対策』の授業依頼を受け収益を上げることができました。ほかにも、箱根町で『箱根土曜塾』を請け負っておりますが、全国的に箱根の知名度は高いため、行政を対象としたマーケティング上の効果を見込めております」
また、学校改革に熱心な校長の予算で採択されるケースも多く、強固な関係性が育まれていると千島氏は話した。
「自治体間に口コミが広がっていくことが我々の理想です。行政からの依頼は、現場の課題に根差し汗をかかなければ決して継続することはできません。ですから、『地域の教育を何とか改善したい』と願うローカルの学習塾が行政の中に入ることが最も効果が高いと思います。この点において民間教育にはチャンスがあります。学校と民間教育がお互いに手を組んで、学習者を取り巻く環境をより良くしていかなければならないと痛切に感じています」