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おおたとしまさ & 神田憲行 トークイベント 開催 武蔵 VS 麻布 本当に変なのはどっち?

2017-11-01
本誌の連載でもおなじみ、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ 氏

本誌の連載でもおなじみ、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏

本誌の連載でもおなじみ、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏の新刊『名門校「武蔵」で教える東大合格より大事なこと』(集英社新書/9月15日発売)の出版を記念して、9月16日(土)紀伊國屋書店新宿本店にて対談イベントが開催された。対談の相手は『「謎」の進学校麻布の教え』(集英社新書)の著者・神田憲行氏。
男子御三家と称されるこの2校に秘められたユニークな教育内容について両者が語り合い、教育の本質とは何なのかについて考えさせられる意義深いイベントとなった。



武蔵と麻布、どっちの入試が変?

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おおた氏、神田氏ともに著作の紹介などをしたあと、麻布、武蔵の特徴ある入試についてテーマが移っていった。
おおた氏によると、武蔵の入試ではネジが2つ入った封筒が配られ、「これをスケッチして、2つのネジの違いを述べよ」という問題が出されるという。
「武蔵は理科の授業でも様々な実験や観察を行いますが、火が出たり色が変わったりするような派手な実験ではなく、地道に植物を観察し、それを丹念にスケッチし、各々の葉っぱの違いを見極めるなど、基礎的な科学的作法を身につけます。いわばその素養を入試の段階で求められるというわけです」

神田氏が「武蔵は入試の模範解答を発表していますが、麻布は発表しないですよね」と言うと、「そうです。麻布は入試の模範解答を発表しませんし、問い合わせをしてもいっさい答えません」と語るおおた氏。
「武蔵はまったく麻布と逆で、毎回冊子にした模範解答を受験生に配っています。というのも、戦前は12歳で武蔵に合格するとそのままフリーパスで帝国大学(現東京大学)に進学できましたが、戦後は普通の中高一貫校になり、フリーパスがなくなったため、一時期低迷します。そのとき武蔵の先生方が何をしたかというと、入試問題を近隣の小学校に持って行き、『これが私たちの求める学力観です』と説明して歩き、そうやって進学校としての地位を築き上げていったという歴史があります。ですから入試問題に対するこだわりは非常に強いのです」。

武蔵も麻布も知識の詰め込みだけでは対応できない問題を出し、記述式であることは共通しているが、その差はいったい何なのか。おおた氏は会場に来ていた中学受験専門個別指導教室SS – 1の運営責任者・小川氏に両校の入試の違いについて訊ねた。
「麻布はもともと試行錯誤の過程と切り口の面白さを問う問題が多いと思います。一方、武蔵はスマートな切り口というよりは泥臭さと言いますか、自分をぶつけて頑張ってあきらめずに最後まで書ききることができるような力を問うような問題が多いと思います。麻布の国語は洗練された言葉で表現した方がいいですが、武蔵の国語はたった2行の問題に対してその10倍くらいの文章量で埋め尽くさなければいけませんから、とにかく書く尽くす能力が問われますね」。
「麻布の合格点は正答率6割程度と言われていますが、全問不正解であっても途中まで頑張って書いてあれば受けることもあるそうですね」
とおおた氏が言うと、「麻布の生徒にインタビューしたら、算数総合で1問しか正解していなかったにもかかわらず、受かっている子が確かにいましたね」と神田氏は応えた。

麻布の不思議と武蔵の不思議

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麻布というと、髪の毛を緑や紫色に染めている生徒がいることでも有名だ。それを見た神田氏は「なんか、いきがっているな」と思ったと言う。それについて麻布のOBでもあるおおた氏はこう語る。
「はっきり言って痛々しいですよ。たぶん当人たちもかっこいいとは思っていなくて、痛々しさを自覚しながらやっているのではないでしょうか。
でも、髪を染める生徒を見て〝麻布は自由な学校だ〟と言われるのも、それは違うと反発したくなる気持ちもあります。ある意味、麻布生であるという身分を確保しながら髪を染めるという狡さもあるでしょう。私から見ると、世間的には〝立派なお子さん〟と言われる彼らが敢えて白い目で見られるようなことをすることは、彼らがずっと被ってきた〝いい子の仮面〟をはがすための一つのイニシエーションなのではないかと思います」。
一方武蔵は、進学校でありながらも登山や遠泳などの行事が豊富。サッカーは東京都のベストテンに入るなど、一面では捉えきれない不思議な魅力を持っている。イベントが多いにもかかわらず、修学旅行だけはなかったとのことだが、それを復活させようとして生徒会長に立候補し、奮闘している生徒もいるとのことだ。

対談の相手である神田憲行氏

対談の相手である神田憲行氏

麻布も武蔵も、先生方が大変優秀であるとおおた氏も神田氏も言う。麻布は約9割の先生が麻布出身者以外で、それが生徒たちにもいい刺激を与えているとのこと。「武蔵の先生は、OBである集英社の石戸谷さんから間接的に聞いた話ですが、まず研究者であることが求められます。要するに、日の当たらない研究をしている人を引き抜いてくるのが一番いいということです。世の中的には日の当たらない分野でも、すごい能力を持っていて、熱心に勉強している人に先生になってもらうのが一番有効だということです」とおおた氏は語る。


武蔵の自由と麻布の自由

武蔵も麻布も教育の自由、学問の自由をとても大切にしている。「麻布の生徒は言論の自由をすごく言いますよね」と神田氏が言うと、「そうですね。厳格なルールは大嫌いですね」とおおた氏は言い、さらに武蔵と麻布との違いに言及した。
「麻布生は要領がよく、コツコツと地道にやっていくことを嫌う傾向があります。一方、武蔵生は漢文を全部暗唱するなど、地道なことをやらざるを得ない環境に身を置いています。地道なことが嫌いな子は麻布向きで、武蔵はきついかもしれません。たしかに武蔵と麻布は似ていると言われますが、その生徒たちの方向性は結構違うのかもしれないと今回取材して思いました」。
また両校の土地柄の違いも大きい。武蔵にはヤギがいて、牧歌的なのどかさやおおらかさがあるのに対し、麻布は六本木に近いこともあり、シティーボーイである反面、校舎は狭く、若干息苦しさがあるとのこと。

トークイベントの最後に、おおた氏は次のように締めくくった。
「武蔵や麻布が実践していること、目指していることは公立でもできるはず。できない理由があるとしたら、今は多くの先生方に余裕がないということです。私たち大人が先生方を守ることによって、子どもたちを守っていく必要があると思います」。


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