教育改革実践家の藤原和博氏が語る AI時代を見据えた学習塾のあり方と人材 2018年度SRJ全国大会開催
(株) SRJの全国大会が5月13日(土) の午後から、千代田区丸の内にある東京国際フォーラムで実施された。これまでSRJは春と秋に会員の定例研修会を東京や大阪、札幌、沖縄で行ってきたが、全国大会は初の試み。SRJの速読プログラムを導入している塾や教室の担当者約250名が日本全国から集まることになった。そこで、今回は特別イベントとして、元奈良市立一条高等学校校長の藤原和博氏による講演会を開催。テーマは「AI時代を見据えた学習塾のあり方と人材」である。
塾の強みとは何か?それは塾を担う一人ひとりの人間力
「民間教育も日本の大切な教育資源です。このプレゼンスをさらに高めていきたいと思います」
全国学習塾協会の安藤大作会長が会の冒頭、こう高らかに述べたあと、SRJの堀川直人代表取締役社長が「SRJの目指す方向性」と題して語った。テーマは「あなたの塾の強みは?」である。
堀川社長は「SRJの強みはコンテンツとサービス力とネットワーク力です」と述べ、SRJの新しい商品を次々に紹介。こう締めくくった。
「私は塾の最大の強みは、会員の皆様方お一人おひとりだと思うのです。SRJも今、社員の人間力の向上に努めています。私もSRJの強みでありたいと思っています。そして、SRJを最高の満足を提供できる企業にしたいと考えております」
堀川社長の講話のあとは、導入教室への感謝状贈呈。受講者継続平均月数部門、アカウント速読ランク平均部門、受講者新規登録率部門などで成果を上げた塾や教室の代表者が壇上で表彰された。
AIやロボットの進化によって、塾や学校がどう変化するのか
休憩を挟んで、藤原和博氏の基調講演へ。まず司会者により、藤原氏のプロフィールが紹介される。藤原氏は東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルー
トに入社。2003年から義務教育初の民間校長として東京杉並区立和田中学校の校長を、その後、奈良県奈良市立一条高等学校の校長を務めた。『45歳の教科書』『10年後、君に仕事はあるのか?』などの数多くの著作がある。
「今日、みなさんと共有したいのは未来の話です。AIやロボットの飛躍的な進化によって、塾や学校はどのように変化するのでしょうか。これからの最大の社会変化は、世界の50 億人の脳がスマホの動画によって擬似的につながることです。今は10億人くらいの脳がつながった状態です。その結果、何が起きたか、みなさんはごく最近目撃したはずです。ピコ太郎のPPAPです。日本では知られていなかった彼がプロモーション動画をユーチューブにアップしたところ、世界中から反響があって、紅白歌合戦にまで出場しました。こんなデビューのしかたが日本にあったでしょうか。ユーチューブが人を放送局にし、ブログが人を新聞社にするのです。
ですから、近い将来、もっとすごいことが起きるでしょう。50億人の脳にロボットとAIがつながるのです。プラスの面もたくさんありますが、そうでないことも起きます。知的で高度な仕事はどんどん奪われていくでしょう。では、みなさん、これからどんな仕事がなくなり、どんな仕事が残るのかブレストしてみましょう」
会場の会員たちは3、4人のグループに分かれてブレスト。他にも「白が当たり前だが、黒にしたらヒットしそうな商品」などの課題が出されてブレストを重ねた。
AIに負けずに生き残っていくのは、学び続ける教員である
「ブレストしている中で、目からうろこが落ちるように自分も相手も『なるほど!』と納得できる答えが出たと思います。この答えを納得解といいます。付加価値を生み出すためには、常に仮説を立てて検証し、試行錯誤しながら、問題解決できる納得解を導き出さねばなりません。みなさんには、ブレストでその擬似体験をしていただきました」
藤原氏は、情報処理力から情報編集力への移行が必要であると主張する。情報処理力は正解があるという前提の問題に速く正確に答える力。これまでの高校や大学入試にはこの力が問われた。これからは情報処理力をIT化させ、人間の情報編集力を高めていくべきだというのだ。
「情報処理力は頭の回転の早さ、情報編集力は頭の柔らかさです。21世紀成熟社会では、情報編集力の比重がどんどん高まります」
藤原氏が最後に出したブレストの課題は「どんな教員がAIやロボットに勝って生き残れるのか?」。ブレスト中の会員たちの声に耳を傾けると「生徒を癒せる先生」「思いやりのある先生」「人間的に尊敬できる先生」といった意見が飛び交っていた。
「私の考えはこうです。例えば動物が大好きで、生物について学ぶのが楽しくてしかたないというオーラが全員からみなぎっている先生がいるとします。この姿に生徒がずっと触れていれば、生徒は勉強するはずです。この先生の真似は、ペッパーくんにはできません。教育は伝染・感染するものだと私は考えています。親が本を楽しそうに読んでいれば、子どもは本を読むようになるのです。ですから、学び続ける教員は絶対に生き残れます。今、学習塾が隆盛を誇っているのは、学校の先生よりも塾の先生のほうが学んでいるからではないでしょうか」。
講演を終えた藤原氏が「僕の話を聞いてよかった思った方は、拍手をしてください」と会場に投げかけると大きな拍手が巻き起こった。