第49回 青木経営フォーラム
(株)エムシーエス生涯学習センターにて開催
6月10日(日)、11日(月)に第49回 青木経営フォーラム(エース教育総合研究所主催、㈱メリック後援)が開催され、塾関係者らが集まった。10日は株式会社エムシーエス生涯学習センターの関連学校である盛岡中央高等学校・附属中学校の学校見学をはじめ、江藤真規氏による特別講演会「子どもの資質を伸ばす教育とは」、藤井茂氏による「岩手が生んだ偉人たち①『私塾教育家 新渡戸稲造と〝武士道〟』、吉見正信氏による「岩手が生んだ偉人たち②『天才詩人・童話作家〝教師 宮沢賢治〟とその群像』などが行われた。
11日(月)は、「経営実践セミナー① 学習塾M進─情熱の20年と今後の夢」、「経営実践セミナー② 龍澤学館グループ─地方私塾の創意工夫と挑戦」、M進盛岡本校にて教育施設や教室見学などを行った。
ここでは、江藤氏による特別講演会、2つの経営実践セミナーの要旨をお伝えする。
「子どもの資質を伸ばす教育とは」
江藤 真規 氏
株式会社 サイタコーディネーション 代表
マザーカレッジ 主宰
江藤真規氏はサイタコーディネーションの代表であると同時に、研究者になって6年目。「教師と保護者の連携構築を専門とし、どのようにしたら先生と保護者の連携をつくっていくことができるのか、学校と家庭との連結性をどのようにしてつくりあげていくことができるのか、ということについて研究しております」と自己紹介。
会場となった盛岡中央高等学校・附属中学校には、附属中学校の保護者、生徒、教師も集まり、さらに学習塾経営者らも大勢集まった。
「みなさまの共通の願いは、私も含めて子どもたちの未来を豊かにしていきたいということです。子どもたちの持っている力を伸び伸びと存分に引き出し、そして彼らが幸福感を持って活躍できる未来を構築していく。そこに興味・関心があります。その共通項でご参加いただければと思います」。
講演会といえども聴衆参加型で行ったのは、学習の定着率を示すラーニング・プラミッド(アメリカ国立訓練研究所)によれば、グループ討議は定着率が50%、自ら体験すると75%と高かったからだ。
ちなみに最も定着率が高いのは、学んだことを他の人に教えることで、90%にも上る。
江藤氏は3分の時間を与え、「保護者の方はうちの子らしさ、我子らしさとは何なのか、端的な言葉で表すことを考えてみてください。附属中学校の先生方は、附属中学校らしさとは何なのかをお考えください。そして経営者のみなさま方、我社らしさとは何なのか、ここを少し考えていただきたいと思います」。
3分経って附属中学校の先生は「好奇心が旺盛で、新しいことに関心が高く、新たな知識をどんどん吸収していくのが附属中学校らしいと感じています。若干授業がうるさいと感じることもありますが、活発な証拠だと思っています」と発表。
家庭、学校、塾がそれぞれで完結するのはもったいなく、学校や塾で得てきた知識を家庭の中で「どうしてそう思うの?」「どうやったらそうなるんだろう?」という質問をしてアウトプットの時間をつくっていく。外で学んだことを家庭の中で自分の知恵としていく。そんな文脈を作ることができれば、子どもの成長に大いにプラスになると江藤氏は語る。
「子どもたちの未来を育むためには、みんなで子どもの〝今・ここ〟を大切にする。子どもにもっとワクワクする時間を持たせる。そんな取り組みをしていただければ素敵だと思います」。
忙しい子どもたちには、心のスペースを空けてあげる
しかしここで、現実問題として「時間がない」ことが一番大きな課題だと江藤氏は述べる。「時間がない、忙しいと思っている方?」と保護者に挙手を求めると、一斉に手が挙がる。
「やりたいことはいっぱいあるけれども、とにかく時間がない。
ですから新たなことはできないというのがリアリティなのかなと思います。しかしながら、先ほど述べた子どもに質問することなどは全然時間がかかりませんし、子どもと過ごす時間というのは長さではなく質が重要です」と語り、その根拠をトロント大学の研究結果で示した。
その上で、保護者にどうしても伝えたいこととして、その多忙感は大人だけではなく、子どもたちも大変忙しさを感じていることを強調した。
「私は研究の一環で保育園や幼稚園にひんぱんに入っていますが、この間行った保育園では最大7つの習い事をしている子がいました。保育士さんたちは『月曜日は子どもたちがとても疲れている』と言っています」。
そこで江藤氏が提案するのは、スペースを空けること。
「周囲の大人たちがあれもやろうよ、これもやろうよと勧めるとき、もし子どもの心に上まで水が入っている状態のときは何も入りません。ですから、ここに水を入れるためには少しこぼして捨てる必要があります。子どもさんが不安に思っていることや困っていることを吐露させてあげる。保護者のみなさまが聞き手となって話をたくさん聞いてあげて、そして子どもの心の中にスペースを空けていくといいでしょう」。
大人同士がつながり合い、学び合っていく
さらに江藤氏は、21世紀型スキルとして、4つのC(創造性とイノベーションのクリエイティビティー、批判的思考と問題解決のクリティカルシンキング、コミュニケーション、コラボレーション)について説明し、この先の時代を生き抜く子どもたちにはこれら4つのCを意識していくことが非常に重要であると語った。
その後再び江藤氏はディスカッションタイムを8分設け、席の近い人たちと「4つのCを育むために、具体的にどんなことをすればいいか」について話し合ってもらった。
その後、ある保護者は「私たちのグループは全員子どもが男の子なのですが、彼らにもっともっと家事をしてもらおうということになりました。自分がやった方が早いのでついやってしまいがちですが、それは子どもの将来のためにはなりません」と発表。江藤氏は「家族の一員だからこそ、あなたの力が欲しいと関わっていくのは、とても重要なことですね」とコメント。
塾経営者は「塾の授業の中でディスカッションする機会を設けたり、授業前に、今日はどのようになって帰宅したいかを自分で明確にした上で授業に臨むなどをしていきたいと思います」と発表し、江藤氏はすばらしい試みだとコメントした。
講演の最後は、江藤氏独自の4つのCに関する考えを詳細に述べ、「子どもの資質を育てるとはどういうことなのか。それは私たち大人がつながり合っていくこと、そして学び合っていくことに尽きると思います」と締めくくった。
経営実践セミナー①
学習塾M進─ 情熱の20年と今後の夢
芳賀 司 氏 株式会社 エムシーエス生涯学習センター 専務
(株)エムシーエス生涯学習センターは、1953年創立。学習塾は「M進」という名称で親しまれ、河合塾マナビスも展開している。もりおかタニタ食堂も運営。
関連学校は、盛岡中央高等学校、同附属中学校、月が丘幼稚園・保育園、緑が丘ひまわり保育園、盛岡ひまわり保育園、盛岡公務員法律専門学校、盛岡情報ビジネス専門学校、盛岡カレッジオブビジネス、盛岡医療福祉専門学校、盛岡ペットワールド専門学校、盛岡中央ゼミナール(以上、龍澤学館)、関連会社として(株)岩手スポーツプロモーション、(株)IBCソフトアルファがある。
「私が1995年に入社したとき、弊社はまだ2校舎だけの塾でした。社員も私の先輩に当たる方は4名だけで、私を含めて新入社員は3名、計7名の社員数でした。なんとか生徒数1000名を超える塾になりたい、やがて2000名を超える塾になりたい、今度は3000名を超えたいと思いながらみんなで協力してやってきて、もうすぐ4000名に届くという段階まで来ております」と述べる芳賀氏。
2010年3月29日付の岩手日報には意見広告を掲載した。「岩手を日本の学力先進県へ!」という力強いキャッチコピーが踊る。
「新渡戸稲造先生、宮沢賢治先生など岩手からは多くの偉人が輩出されています。岩手から日本を、そして世界を先導するリーダーたちを育てたい。そんな願いを込めて教育の充実を目指すことが、私たちM進の役割だと考えています」。
ところが岩手県出身者の東北大学入学者数の割合を見てみると、2015年度は146名で7・1%だったのが、2018年度は109名で4%にまで減少。志願者は減っていなくても地元の2番手高校からの合格者が減っていることが判明したという。一方、東大・東工大・早稲田大・慶應大の首都圏出身者の割合の推移を見ると、東大は1986年に47%だったのが2016年には55%に、同じく東工大は62%が75%に、早稲田大は52%が74%に、慶應大は56%が73%に増加しているという。
「首都圏の大学にお子さんを送り出すのは確かに経済的な問題もありますが、それだけではなく、合格しにくくなっている実状も大いに関係していると思います」。
そこで、岩手を学力先進県にするためにも、河合塾マナビスを東京の高田馬場に出店。「私自身がまず岩手を離れてチャレンジ精神を持って挑まなければ、岩手の方々に本当に貢献できる指導はできないだろうと思いました」と芳賀氏は語る。そして、社員自身の成長、人材獲得、岩手で進む人口減少への対応、会社を正しく成長させるためにも東京への出店は必要だったという。
そして現在、河合塾マナビス高田馬場校には約90名の生徒が57校から通って来るという。
「東北大学あるいは首都圏難関大学を目指す生徒さんに、私たちは岩手でどんなことができるのでしょうか。まず一番目は中学生部門のカリキュラム強化です。中学生から、できれば小学生から取り組む必要があると改めて感じています。2番目は盛岡中央高等学校附属中学校との連携です。どうしても生徒さんは学校
で過ごす時間が長いですから、ここと連携して取り組むのはとても意義のあることだと思います。そして3番目は、浪人は決して悪くないということを生徒さんにお伝えしなければいけないと思っております」。
さらに芳賀氏は、自身のお子さんの大学受験を通して学んだことを伝授して、セミナーを終えた。
経営実践セミナー②
龍澤学館グループ─ 地方私塾の創意工夫と挑戦
龍澤 正美 氏
株式会社 エムシーエス生涯学習センター 代表
学校法人 龍澤学館 理事長
「岩手の人は非常に奥手というか、自分のことについて語るのを嫌う傾向にあります。おそらく全国で一番なのではないでしょうか」と、開口一番語る龍澤氏。
しかし、「他者のことを思いやり、気を配ることについても一番だろうと思います。今の若い方はだいぶ変わってきていますが、特に私と同年代にはそういう傾向がありました」とも述べる。
岩手で生まれて育ち、岩手をこよなく愛する龍澤氏は、「他者こそ尺度である」とよく思うという。
「人を推し測り、評価できるかどうかは、ひとえにどれだけ深くものを考えられるかにかかっていると思います。例えば、なんてすばらしい力を持っているのだろうと思う人が周囲に大勢いたとします。
そのように思うこと自体、他者の能力を認めることができるという、その人の能力の深さを物語っているのではないかと自分に都合よく考えております」。
能力というのは学力ではなく、その人が持っている特性でもあり、そしてそれは他者からの評価で決まるという。
「入試もある意味同じで、論文にしても他者が評価するわけです。ましてや様々な共通の試験であれば、何を狙いにするのかは出題者が考えるのです。ですから、自分は自分以外の他者にどのように見えているのか、思われているのか。その点にしか社会における評価の尺度はないと思います」。
教育関係者が集まるある会合の席で、「学校のために、あるいは会社のために一生懸命頑張りますと言った先生がいましたが、すばらしい方ですね」と龍澤学館の教員が言ったとき、龍澤氏はそうは思えなかった。
「〝私はあなたの人生を変えてやる〟という意気込みで日々生徒に教えていると言った先生がいましたが、その方の方がすばらしいと私は思います。まさにハッと気づかされました」。
龍澤氏は若い頃、海外留学したいと思いながら実現できなかったこともあり、盛岡中央高校では、国際姉妹校を通しての交流が盛んだ。オーストラリア、ベトナム、中国、マレーシア、韓国、ニュージーランド、タイ、カナダ、インドネシア、ロシア、台湾、フランス、アメリカ、セネガル、アルゼンチン、フィンランド、ベルギー、ノルウェー、シンガポールに24校の姉妹校があり、両校理解と生徒間の友情を深め、人種、国籍を問わず、同じ人間として多くの共通点を見いだし、人間としてのあり方、生きる力についての考えを深めることを目的に、生徒による「友好交流団派遣」を行っている。
「グローバル教育というよりも、グローバルな視点でものを見なければ、今後の社会は成り立っていかないのではないかと思います」と龍澤氏は語る。
そして最後に、自ら理想とする宮沢賢治の『雨ニモマケズ』の最終部分を引用してセミナーは幕を閉じた。
「みんなにでくのぼーと呼ばれ 褒められもせず 苦にもされず そういうものに わたしは なりたい」。