初芝富田林中学校高等学校が「超進学校宣言」
カリキュラム大幅見直し、校塾連携と探究型授業で「生涯を支える真の学力」を育成する教育へ
立命館グループの1つで国公立大学をはじめ難関大学への合格者を多数輩出する進学校、初芝富田林中学校高等学校が9月13日、今年2回目となる塾向けの説明会を開催した。同校はここ数年、実績が低下傾向にあり、抜本的な改革が求められていた。そこに招かれたのが京都や兵庫の私立学校で教育改革の実績があり、この春、校長に着任した平井正朗氏だ。問題点を洗い出し、さっそく改革に着手。
学力一辺倒ではなく、今後も求められる思考力・判断力・表現力を備えた人材育成を目指すこととなった。
生徒の第1志望へ100%合格させる
4月の着任後からすぐ、平井校長は校内の課題・問題点を探ることから始めた。
そこで見えてきたのは校務が固定され、職員同士が互いに不干渉だったり、問題の先送りをしていたり、前年踏襲、単年度積み上げスパンの運営、事後対応型の危機管理など、開校から34年を経て徐々に進んだ「組織の硬直化」だった。教員の研修は各個人に任せており、第三者による指摘もないため、授業の質は教員個人の力に依存するところが大きかった。
学校がどこを目指すのか。入試、カリキュラム、進路に分け、それぞれの目標と役割を明確にすることから始めた。これは学校経営にマーケティングの手法を取り入れたもので「エンロールメント・マネジメント」と呼ばれるものだ。これにより現在のコースも再編し、カリキュラムも大幅な見直しを行うことになった。
中学3年(高校からの入学者は高校2年)から分かれるコースは「Will-Frontierコース」と「未来創造コース」の二つに再編。前者はハイレベルな授業や探究型学習を通して自ら学ぶ姿勢と高い学力を育成するもので、大阪府立大学、大阪市立大学(以降、府立大、市立大と表記)以上、上位層は東京大学、京都大学、大阪大学、医学部を目指す。後者は個性や長所を伸ばしながらバランスの取れた学力と豊かな人間性を育て、進路実現に向けた生徒一人ひとりを丁寧にサポートするもので、上位層は府立大、市立大レベル、私立は関関同立から中堅レベルを目指す。
これまで行ってきた「合格可能性のある大学はできるだけ受験する」という進路指導も廃止。生徒に寄り添い、生徒のポテンシャルや希望を最優先した志望校選びへとシフトしていく。「Will-Frontier で府立大、市立大へ50名以上合格」という学校としての合格者数目標はあるものの、第1志望へ100%の合格を目指す「進路満足度100%」が基本方針だ。
授業数減、外部講師による補習で教員の空き時間はスキルアップのために
学校の方針とコースコンセプトをもとに、カリキュラムの大幅見直しを行うことになったが、次に見えてきた問題は、大量の宿題や頻回に行われる小テスト、それに学習進度がかなり速いことであった。結果、上位層は予備校へ、授業について行けない子は塾に行くという二極化が進んでいる。また、上位層の成績が思いのほか伸び悩んでいることもわかった。
量をこなすことに追われ、反復練習や基礎学力の定着、活用力の育成が不十分となり、受験に必要とされる力が付いていないのだ。週3回の小テストも過去のデータを見る限り、問題を作る側、解く側、共に疲弊しているようだった。
ひと昔前の進学校化した私学に見られる授業時間の多さ、過重な放課後補習といった詰め込みを撤廃すべく来年度より7限目と小テストを廃止し、校塾連携を推進する。教員による授業は6限目(15時半)までで終了。以降の指導は塾や予備校に依頼するという。外部講師の起用により、保護者の費用負担は増えるが通塾に比べると非常に安価に抑える見込みだ。
教員たちは空いた時間で次の授業の準備やスキルアップのための研修、研究授業などを行う。そのための研究開発部も新設する。折しも、教員の長時間労働が問題とされ、働き方改革が求められている中でのこと。決められた労働時間を守るという法令遵守の精神はもちろんだが、教員にとってここで生まれる時間的余裕は教員にも生徒にも、学校にもプラスであることは間違いない。
英語4技能を網羅し、教科横断型授業「探究総合」も新設
今後、社会で求められるのは思考力、判断力、表現力を身につけた人材とされており、それに合わせて大学入試も変わっていく。その「生涯を支える真の学力」を身につけるため、同校で新設するのが教科横断型授業「探究総合」。グループディスカッション、ディベート、ポートフォリオ作りなどを行うとしている。
グローバル教育についても、生徒が英語を話す環境をつくることを最優先にオンライン英会話を導入。全員で行くアメリカ・ロサンゼルスへの語学研修や希望者向けのオックスフォード留学なども用意している。これらに利用するタブレットも全生徒へ配布予定だ。
特待生は人数制限なし!
中学校への広報ができる高校入試と違い、塾との連携が全てである中学入試については、塾からの要望を多数取り入れている。来年度入試においては初日の午前にプロンティア入試(自己推薦入試に相当)を実施。午後入試を含む入試回数自体も増やす。
また、特待生制度も充実させるとのことで、入学試験の得点が85%(300点換算)以上で授業料全額免除、80%(同)以上で半額免除となる。しかも人数の制限はなく、基準を満たせば必ず適用されるという太っ腹ぶり。特待生は中学入学時から3年間適用され高校進級時に見直しとなる。「入試レベルや特待生制度について不明な点はどんどん問い合わせて欲しい」とのことだ。
これらの改革により平井校長が掲げる「大阪府下に確固とした地位を占める進学校の復活」は思いのほか早く訪れるかもしれない。