これからの高校生指導のあり方を考える会in東京」開催
4月14日(日)東京・八重洲にて、(株)リアル・パートナーズが主催する塾関係者向けセミナー「これからの高校生指導のあり方を考える会in 東京」が開催された。
登壇したのは、学びエイド西日本支部マネージャーで予備校数学講師の野田亮太氏、名城大学教職センター教授で「Focus Gold」シリーズ(啓林館)著者の竹内英人氏、tyotto Inc.CEO の新井光樹氏の3名。
会場には全国から塾経営者をはじめ教育関係者60名あまりが集まった。
大学入試情報を収集・分析し、進学指導に力を入れる
最初に登壇したのは大学進学アドバイザーの肩書きも持つ野田亮太氏。
「大学受験に強い高等部の作り方」と題し、講演を行った。まずは、今年2月に名城大学で行われた同名のセミナーでの講演内容を振り返り、実際の数字を挙げながら大学入試や受験生の現状を解説。「高3の4月の時点での志望校を最終的に受験する生徒は、全体の4%しかいない」という衝撃的な数字を提示し、「塾でも、何をどう勉強するかという指導だけでは不十分。〝いつまでにやるか〟という明確なデッドラインを示し、細かいスパンでフォローしていくことが重要」と訴えた。
続いて、今回の本編「2019年度大学入試結果分析と今後の展望〜私立大学編〜」へ。私立大の定員厳守問題により、2019年度入試では各大学の出願者数や合格者数に大きな変動が見られたことを具体的な数字を示しながら解説し、「受験生が受験校のランクを下げたため、上位校は(予備校の模試の)判定よりも甘めの結果になった。一方、そのしわ寄せは下位の大学に顕著に現れ、予想外に不合格者が出てしまう結果となった」と述べた。そのうえで、「大学入試に関する情報を収集・分析できていれば、こうなることは予測できたはず。これを予測できないような塾であれば、受験生は不安を感じて大手予備校に流れてしまう」と述べ、大学入試に関する最新情報をキャッチアップすることの重要性を強調した。
さらに、数字を深掘りした分析を展開し、「次年度に新設学部のある大学は合格者数を絞る可能性があるので要注意」などの自称「マニアック」なアドバイスを提示した。最後に野田氏は、かつて自習室を軸とした高校生向けの塾を経営していた経験を踏まえて、自習室へのニーズの高さを指摘しつつ、「あのとき、生徒の進学指導までしっかりできれば…という反省がある。だからこそ、塾を経営する皆さんには、地域の中で大学進学指導のスペシャリストになっていただきたい」と述べ、講演を締めくくった。
明確な教育理念を持ち、実践する〝本物”が生き残る
続いて、竹内英人氏が登壇。現在は名城大学で数学の教員を目指す学生の指導に当たる竹内氏だが、実は、元・公立高校の数学教師だ。さらに、塾・予備校で講師を務めた経験も持つ。その特異なキャリアと広い視野に基づき、「新入試に向けた指導と、塾・予備校が生き残るために必要な要素とは?」と題した講演を行なった。
まずは、2020年の大学入試改革について、「高大接続」と「多目的評価の導入」という2つの観点で解説。
「高大が連携して社会で活躍できる人材を育てようということになった。そして大学入試では、学力に加えて学びへの意欲や姿勢が問われるようになる。塾も、生徒をいかに志望校に合格させるかではなく、生徒をいかに社会で活躍できる人材へと育てるかにシフトチェンジする必要がある」と述べた。
さらに、新たに始まる大学入学共通テスト(新テスト)について、「試行テストでは正答率の低さが問題視されているが、おそらく現状の方向性・難易度のまま実施されるだろう」とし、その一番の理由は「(高校の)授業を変えるため」と断言。「従来の授業のままだと、思考力・判断力・表現力が求められる新テストの問題に太刀打ちできない。すでに高校では授業が変わりつつある。塾も変わるべきときが来ている」と指摘した。そして、従来の「How型(どうやって解くか)」から、「Why型(なぜそうなるのか)」への転換、そして量から質の転換が不可欠だとした。
また、「これからは塾と学校とが共に認め合い協力し合う共存の時代」だとし、「人間性の育成を含めた生徒指導ができる塾、どういう人材を育てたいのかという明確な教育理念を持ちそれを実践している塾、つまり、〝本物”だけが生き残っていくだろう」と述べた。最後に「公私の垣根を取り払い、お互いの良いところを取り入れつつ、日本の教育をより良くしていくことが大事。それが、生徒のためにもなる。自分もそこに尽力していきたい」と力強く語った。
塾の集客は、コンテンツマーケティングの時代へ
3人目の登壇者、新井光樹氏は、2016年に教育スタートアップ企業を創業した新進気鋭の教育者・塾経営者。Webマーケティングの知見をもとに、「高等部マーケティング戦略 自己満足のブログ更新もうやめにしません?」と題して講演した。
塾におけるWebでの集客というと、SEO(検索エンジンにかかりやすくなるようキーワードなどを選定・最適化する手法)やリスティング(検索キーワードに応じて検索結果上に表示される広告)、塾長・スタッフブログなどが思い浮かぶが、新井氏は「SEOやリスティングはもう終わり」と断言。しかし、厳密には地域差があると言う。
「都市部では大手塾・予備校がリスティング広告に予算を割くようになって価格が上がり、個人塾には手を出せないのが現状なので、絶対にやめたほうがいい。一方、茨城県、神奈川県西部、千葉県東部など都心部から少し離れた地域では、リスティングの効果がジワジワと出てきている。塾の数が多くないエリアについては、ここ数年はチャンスかもしれない」。
そして、SEOやリスティングに代わるマーケティング手法として挙げたのが、「コンテンツマーケティング」だ。どのような手法なのかについて新井氏は、「発信するコンテンツ、つまり〝中身”に戦略の軸を置く手法」と解説。「ペルソナ=誰に見てほしいのか」、「ゴールイメージ=見たときにどうなってほしいのか」、「強み=他の塾とどこが違うのか」の3つが重要であるとし、「ブログを書くにしても、自塾のどんな強みを、誰のために、どんな影響を与える目的で書くのかを明確化することが重要」と述べた。さらに、最も重要なこととして、「継続すること」を挙げ、「新しいことを学び、最新のトレンドをキャッチアップしていかないと、塾は生き残れない。竹内先生の言葉にもあったように、これからは本物だけが残る時代」と締めくくった。
その後のパネルディスカッションでは、生徒指導のあり方や具体的な指導法、高校の予備校化、大学入試改革など幅広いテーマについて、それぞれの経験に基づく三者三様の意見が交わされ、6時間におよぶセミナーは大きな拍手のなか幕を閉じた。