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(一社)日本青少年育成協会 講演会「バリアバリュー 障害を価値に変える」

2019-07-01
講演に聴き入る参加者たち

講演に聴き入る参加者たち

一般社団法人日本青少年育成協会(増澤 空会長)は5月25日、大和大学(大阪府吹田市、田野瀬良太郎 理事長)にて「変革への2020 100万人へのメッセージ」をテーマに講演会を開催した。講師は生まれつき骨が脆く折れやすいため車椅子で生活を送る垣内俊哉氏。大学在学中、自らの視点を活かし考案したビジネスプランで13の賞を獲得。障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱し、ユニバーサルデザインのコンサルティング事業を行う株式会社ミライロを設立した。
従来、「福祉」や「社会貢献」としてのみ捉えられていたバリアフリー化も経済活動へ置き換えていくことで持続可能となり、結果、誰もが暮らしやすい社会へと変えていくことができる。今すぐ私たちができることは何か? 利益を生むという観点から考えるバリアフリーとは? 参加者の多くが涙を浮かべ聞き入った講演をここでご紹介する。

障害者への対応は無関心or過剰

[左] 日本青少年育成協会・増澤空 会長 [右] 会場となった大和大学の田野瀬良太郎 理事長

[左] 日本青少年育成協会・増澤空 会長
[右] 会場となった大和大学の田野瀬良太郎 理事長

小学校の担任の先生は私に「歩けないのだから、障害があるのだから、頭を使いなさい。勉強しなさい」と告げました。当時は素直に受け入れられませんでしたが、でもリアルで、現実でした。
歩くことを夢見て、手術やリハビリを重ねましたが、それが叶わないと分かったとき、「歩けなくてもできることを探そう」と気持ちを切り替えました。学生の時にアルバイトに採用してくれた会社ではいきなり営業を任されました。ビルの階段やエレベーターのない駅など、訪問件数は他の方より圧倒的に少なくなります。にもかかわらず入社3カ月で営業成績がトップになったのは、訪問先の方が私をよく覚えてくれたからでした。私を営業へ配置した社長から「歩けないことに胸を張れ! 車椅子に乗っているからこそお客さんに覚えてもらえた。それは営業マンにとって、お前にとって大きな強みだ。障害があることに誇りを持て」と言われました。この時から私は「歩けなくてもできること」ではなく「歩けないからこそできること」をしよう!と誓ったのです。

日本における障害者への対応は見て見ぬふりで何もしない、または、過剰なおせっかいのどちらかです。腫れ物に触るような対応をされることもあります。
しかし、一見厳しいとも思われる言葉を言ってくれた担任の先生や営業に送り出した社長。正しく導いてくれる指導者がいたおかげで、私は生きる道を見つけられたと思っています。

バリアフリーが経済効果を生む

講演者の(株)ミライロ・垣内俊哉 社長

講演者の(株)ミライロ・垣内俊哉 社長

日本では利用者が一定以上いる空港や駅はバリアフリー化が義務づけられています。その条件となる利用者数も法改正の度に引き下げられ、今や日本は世界一バリアフリー化が進んでいる国となりました。バリアフリー化に当たってはその費用の高さから二の足を踏むところもあるでしょう。しかし、投資額以上のリターンがあったケースが多数あります。
エレベーターのなかった駅は4000万円をかけてエレベーターを設置しました。結果、今まで利用できなかった障害者、高齢者、ベビーカー利用者等、多様な方がアクセスできるようになり、駅周辺の半径2.5キロ圏内で年間2億円の経済効果を生みました。
レジャー施設では年間来場者のうち8万人が障害者でしたが、大抵が3〜4人のグループ。より喜んでもらえるよう、より多くの方に来場してもらえるよう、そしてより利益を上げられるようにという動機の下でアトラクションのバリアフリー化、そして従業員の教育を進めた結果、障害者の来場は12万人にまで増えました。1グループ4人と仮定するとそれだけで48万人です。
飲食店では店舗をバリアフリー化し、アルバイトにユニバーサルマナー(障害者や高齢者、ベビーカー利用者、外国人など、多様な方々と向き合うための知識や心構えなど)の教育を徹底したところ、健常者で30%、高齢者は50%、車椅子ユーザーの65%がリピーターになっていることがわかりました。車椅子で入れる飲食店は限られているため、差別化となり、喜ばれ、選ばれ、感動を与えることにもつながっていきます。

高齢になると視力や聴覚、握力が衰えてきますから、障害者ニーズに応えることは同時に高齢者のニーズにも応えることになります。投資した分は回収ができ、初めて継続が実現しますが、これらの例をみるだけでも大きなビジネスチャンスだということがお分かりいただけるでしょう。
教育機関のバリアフリー化も大いに意義があります。私が学生の頃、4900人だった障害者の大学進学者は現在3万1000人に増加しました。高等教育を受けることで就職への道も拓けます。従業員数45.5人以上の企業では障害者の雇用が義務づけられていることもあり、大卒障害者は各企業から引っ張りだこです。

私にとっての障害は歩けないことではなく、街中の段差だ

日本青少年育成協会 太田明弘 理事

日本青少年育成協会 太田明弘 理事

私にとって歩けないことは不便ではありますが、障害ではありません。障害は街中の段差であり階段なのです。
障害は人ではなく、環境や人々の意識、情報の不足がつくり出すのだと考えています。このうち、環境については法整備もあり劇的に改善しています。問題は後者二つ。人々の意識と情報の不足です。例えばエレベーターや電動車椅子の充電用コンセントの有無、段差のないルート、点字ブロックやキャッシュレス決済の可否、磁気ループ(補聴器の補助をする放送設備)の有無も障害者が外出する際には必要な情報です。しかし、これまではそれらを知る術がありませんでした。
情報を収集し共有できるアプリ「Bmaps」を開発したのは障害者の外出支援のためでしたが、最近は授業に活用している学校もあります。子どもたちが実際に車椅子で街へ出かけ、バリアフリー状況を調べ、写真や気づいたことを情報提供してくれているのです。教育的観点からみてもとても喜ばしいことです。現在、国内外15万カ所の情報を多言語で提供しています。

懇親会での記念撮影

懇親会での記念撮影

障害者への対応が無関心と過剰に二極化する理由は、多くの人が障害者を「知らない」からです。世の中の「バリアフリー」が一見してわかりやすい肢体障害者向けの対応に偏っているのもそのためです。障害に関心を寄せてもらうために創設したユニバーサルマナー検定は高齢者・障害者への基本的な向き合い方を学び、心地の良いサポートを実践できるようになることを目指すもので、障害のある講師が担当しています。学校や企業でも多く取り入れられ、検定合格者はのべ6万人を超えました。
障害者や高齢者と向き合うことはどこか他人事として捉えられていましたが、これからは特別なことではなく当たり前のこと、自分事と考える人が増えるでしょう。完璧なバリアフリー環境がつくれなくても、意識を変えることは今すぐでもできます。多様な方と暮らす未来を見据え、まずは私たちが意識を変え、行動を変える。それは未来を担う若者にとっても大きな糧となることでしょう。


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