(一社)日本青少年育成協会「アクティブラーニング実践フォーラム2019」
学習者の10年後、20年後につながる「主体的な学び」を実現する
一般社団法人日本青少年育成協会(日青協)は9月22日(日)と23 日(月・祝)の両日、京都大学にてアクティブラーニング実践フォーラムを開催した。私学や学習塾のみならず、公立校からも多数の参加希望があり、会場は満席で立ち見が出るほどの盛況ぶり。
2日間の延べ参加者は440 名。1日目は「様々な教育実践を学ぶ」、2日目は「より以上の教育実践のために」がコンセプト。日本を代表するアクティブラーニングの研究者・実践者3名による講演やポスターセッション、分科会、リフレクションワークなどが行われた。
1日目 9月22日(日)
アクティブラーニング(AL)はどこへ向かうのか?
増澤氏が問いを投げる
2012年の中教審答申で示されて以降、教育界に急速に広まったAL。新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」と表現されているが、その解釈も実践度合いも学校や教員によってまちまち。成果にも大きな違いが生じているのが現状だ。このAL実践フォーラムはそんな状況を打破するべく理論や事例の理解にとどまらず「実践」にこだわり、2015年から開催されており今年で5回目を迎える。
開会の挨拶に立った増澤氏は多くの人がALを実践していることを喜びつつも、「皆が主体的、対話的に深く学んだ先にあるのは何か? ALは何を目指すのだろうか? ALの実践で相互理解が進む中、皆が仲良くなった先にあるのは何なのか?」と問いを投げかけた。また、人間は壁にぶち当たることで成長へとつながるため、その壁はしっかりしたものでなくてはならない。心理学者の河合隼雄氏の言葉を引用し、その壁の存在を抑制者= インヒビターといい、血も涙もある人間がなっているからこそ意味があるという。
最終的には子どもたちが自立するよう促すのだが、ファシリテーターが子どもたちとどう向き合うのか、ALをより深化させていく時期に来ていると述べた。
基調講演 小山英樹 氏
「協働する個を育む3つの〝Ref〟」授業者の「問い」の質を問い直す
教育の成果と影響に関する情報への関心が高まり、 OECDは個人に必要な能力「キー・コンピテンシー」を定義している。
「異質な集団で交流する」、「自律的に活動する」、「相互作用的に道具を用いる」の3つだ。どうすれば3つのキー・コンピテンシーを育めるのか? どうすれば知識・技能、思考力・判断力・表現力、学びに向かう力・人間性を育めるのか。そのためにはALで行う主体的・対話的で深い学びとこれから話すRefメソッドが最適なのだ。
まずRefの人間観とは何か? 人はもともと「個」であるということ。「個」とは必要なものがすべて揃っている状態(=総)であり、あらゆる資質・能力・特性を持っているということ。これがいつのまにか「固」になってしまう。「固」は凝り固まった状態。過去の自分(古)が「無理だ」「できない」という信じ込みの枠(口)の中にいる。勇気が必要な新たな学びや出会いを避け、努力が必要なチャレンジを避け、安心安全な選択をしている状態だ。「固」は「人」が寄り添うことで本来の「個」となる。
人との対話を通して自分自身を客観視し省察することができる。これがReflection だ。次に先ほどの省察に基づき、概念フレームを発見・離脱し、主体的、自律的に変容する段階がReframing。そして過去を過去に置いて本来の自分を改めて認識する。これがRefveshmeutだ。「固」から「個」へ至るまでプラクティショナー(実践者)が起こすアクションは傾聴、承認、質問、反映、提示の5つだが、そのうち質問が非常に大きな役割を占めている。
質問にはあらゆるものを引き出す力があり、大きく10種に分類できる。「昨夜の夕食は?」といった記憶を引き出すものから、観察を引き出すもの、「もし?なら」と観点・視点の転換を引き出すもの、推論や想像を引き出すもの、単純思考、論理的思考、創造的思考を引き出すもの、省察を引き出すもの、そして意欲、心の解放を引き出すものだ。こうした質問の積み重ねこそがキー・コンピテンシーを育むことになる。先生が質問を工夫することで、次は子どもたちの間でも互いに質問が出てくるようになる。これが対話的な授業へとつながるのだ。
多種多様な事例発表、ポスターセッション
今年の事例発表では13名(14名の予定だったが1名は病欠)が発表に臨んだ。今年は複数の発表を同時に行い、参加者が自ら聴きたいと思う発表者を選ぶというスタイルを試みた。発表者にはあらかじめ発表内容を紙にまとめてもらいフォーラム開始前から会場に掲示。参加者は会場に入った時から誰の発表を聴くかを考えるという仕掛けだ。
13名を半分に分け、半数が自分の持ち場で発表を行ったあと、残り半数と交替した。発表者は時間内に同じ内容を2度3度発表をすることになるが、少しでも多くを得ようとする参加者らも興味のある分野・取り組みをじっくり絞り込んでいる様子だった。発達支援から幼児教育、小学校、中学校、高校に専門学校、大学や一般企業まで発表分野は多岐にわたったが、いずれも盛況に終わった。
2日目 9月23日(月祝)
●自己と他者
2日目のオープニングは日青協副会長の木村吉宏氏からの「ALは普及段階に来ており、これからは質が問われることになる」という力強くも大きな問題提起からスタート。
続いては特別講演。講師は学校法人桐蔭学園理事長の溝上慎一氏だ。言わずと知れたアクティブラーニング理論の第一人者であるとともに、実践者でもある氏からは、「自己と他者の観点から見た学習~あの子は大人しいけど成績はいいんですよね!をどう見るか~」と題して、熱のこもった講演が行われた。
「自分を問うことは他者を問うこと。他者を問うことは自己を問うこと。他者無くして自己無し」、「グループワーク等が苦手な生徒でも、話す力が弱いなりにどんな努力をしてきたかが大切」、「ペア・グループワークにおける自己・他者の構図とは、他者の考えを通して自己をつくっていくこと」「他者との対話を説く人は必ず自己との対話を説くが、この2つは本質的に同じことを言っている。他者の考えを通して自己をつくっていくのだ」、「『振り返り』という語はリフレクションを十分には言い表していない。リフレクションは自己内対話なので、次につながる事象を選んで、まとめて、文章にしていくという活動が必要。何を拾うか、どうつなげるかが重要」など、学習における自己と他者との関係性やリフレクションの重要性が示された。
●フロントランナーの実践から学ぶ
次いで、日本青少年育成協会の主席研究員・主任研究員及びユマニテク短期大学の鈴木建生氏が講師となり、6つの分科会が開催された。
分科会の講師陣は、単にセミナーだけを行う講師ではなく、生徒や保護者を目の前にして実践をし続けている本物のフロントランナーである。理論だけでなく教育現場から導き出された実践的な内容の分科会は毎年大好評であり、今年のアンケート集計の結果も満足度5段階TOP2Box(満足・ほぼ満足)で98.1%を獲得している。来年度も実施されるとのこと。未体験の方が見えたら、ぜひとも受講していただきたい。
● まとめ
分科会の次は、授業研究の第一人者である国立教育政策研究所総括研究官の千々布敏弥氏による特別講演。
「教師が子どもを認めるだけでは不十分。友だち同士が支え合う関係ができているだけでも不十分」、「目指しているのは子どもの主体的な学びと教科内容とを両立すること。とはいえ、授業改善の流れとしては、講義形式→活動の導入→主体的・対話的で深い学び、という順」、「活動あって学びなしから深い学びに移行するためには、ワークシートのレベルアップがカギを握っている」など、学びの深さを追求することの重要性とそのための方法論にまで話しは及んだ。
ここからは、1日目と同様に全体でのリフレクションタイム。3段ピラミッドを活用して学びや気づき、そこからどう行動を起こしていくのかをリフレクションした。
最後は、2日間全体を振り返る映像と音楽。そして、参加者・スタッフ全員が、自身とお互いへエールをおくる雄叫びで2日間のフォーラムは幕を閉じた。
本フォーラム参加者が「3つの〝Ref〟」を通して学びを深め、協働し、実践を高めていくことから、子どもたちの学びが深まり、豊かな未来が実現していくことを切望している。
<分科会講師(敬称略)>
①知る・分かる・覚える力を育む(習得型授業・スタッフ育成)
講師:福本佳之(株式会社Vi Pass 代表)
②使う・深める・生み出す力を育む(活用・探求型授業・プロジェクト活動)
講師:峯下隆志(三重県立石薬師高等学校教諭)
③認め合う・高めあう・支えあう力を育む(クラス運営・組織運営)
講師:内藤睦夫(「教と育」研究所代表)
④挑む・繋がる・引っ張る力を育む(部活運営・リーダー育成)
講師:石田正寿(三重県立桑名西高等学校教諭)
⑤見据える・認める・切り拓く力を育む(キャリア教育・社会教育)
講師:鈴木建生(ユマニテク短期大学学長)
⑥やる気と能力を引き出し自立を支援する(教育相談・面談・対人支援)
講師:増田乃美(日本青少年育成協会理事)
本フォーラムの分科会登壇者が講師陣を務める、(一社)日本青少年育成協会が認定する「アクティブラーニング実践講座」。プログラムがさらに深化し、「AL 実践講座Pro.」、「AL実践講座Gen.」としてリニューアルスタート。深い学びの神髄を体験から学ぶ講座として、全国で開催されている。
●お問い合わせ先
TEL:075-366-3513 もしくはe-Mail:info@jemro.jp へ