誰でも 楽しくラクに 覚えられる!唱えて覚える 「ミチムラ式漢字学習法」
漢字は書いて覚えるもの。その固定概念から、漢字を覚えるための教材の多くは何度も書かせるドリル形式で、いつの時代も子どもたちは机に向かってひたすら漢字を書いてきた。この「当たり前」を覆すのが、「ミチムラ式漢字学習法」だ。そのコンセプトは「唱えて覚える」。
漢字嫌いの子どもたち、読み書きが苦手な子どもたちも楽しくラクに学べるという学習法について、開発者であるかんじクラウド株式会社・取締役会長の道村静江氏に伺った。
盲学校での指導経験から、書かずに覚える方法を考案
道村氏は、元小・中学校の教員。盲学校で視覚障がいをもつ子どもたちの漢字教育に携わったことがきっかけで、ミチムラ式漢字学習法が生まれた。
「視覚障がい者は音で聞いて言葉を覚えるので、形に意味があり同音のものが多い漢字という文字は、覚えるのがとても大変なんです。例えば、写真の〝写〟も自動車の〝車〟も、音で感知している子にとっては同じ〝しゃ〟です。頭の中での漢字変換が誤っているがために、大きくなってからも言葉の意味を勘違いしている子もたくさんいました。文字を書いて覚えることが難しい視覚障がいの子どもたちが漢字を正確に覚えるにはどういう方法がいいかを考え、試行錯誤して編み出したのが、書き方・読み方を唱えて覚える、という方法でした」
「漢字は組み合わせでできている」と道村氏。例えば「空」は「ウルエ」、「見」は「め、ひとあし」など、ミチムラ式漢字学習法では漢字を部品に分解して唱えて覚える。1年生で習う漢字をカードにした視覚障がい者用の教材を手作りしたところから始まり、教員として指導にあたる傍ら、2年生、3年生とカードを増やしていった。4年生の教材を作っていたとき、ふとあることに気がついたという。
「あれ、なんか作るのが簡単だな、と感じるようになったんです。4年生くらいになると習う漢字自体は複雑になっているし数も増えているのだけど、一つひとつの漢字は3年生までに習った漢字の組み合わせなんですよね。これは視覚障がいの子だけでなく読み書きが苦手な子にも使えるんじゃないかと思いました。4年生くらいから漢字が嫌いになって成績もガクンと落ちてしまう子が増えるんです。実際、盲学校の次の赴任先で4年生を担任したときには、4月の時点では漢字が嫌いだという子がほとんどでした。聞いてみると、やっぱりたくさん書かされるのが嫌だ、面倒くさいと。そこで、唱えて覚える漢字学習法を試してみたら、みんなあっという間に漢字が大好きになりました。
好きになったら意欲も湧いて、読める・書けるようになる。これはいい学習法だと確信し、一般の子ども向けの教材作りを始めました」
漢字は細部まで正確に書くことよりも、読めることの方が大事
こうしてできたのが、「ミチムラ式漢字カード」だ。道村氏が作成した小・中学校の21362字の常用漢字のカードがそのまま製品化されている。表面には、漢字の組み合わせ方が載っている。例えば、「教」は「おいかんむり(?)、こ(子)、のぶん(攵)」。
「喜」は、「じゅう(十)、まめ(豆)、くち(口)」。唱えながらその通りに書くと、あっという間に正確に書ける。覚える際には、まずはこれを何度も唱えて、頭に焼き付ける。「口で覚える」という感覚だ。漢字の部分さえ書ければ、その組み合わせ方を覚えるだけ。漢字に使われている単漢字や部品は3年生までに登場したものが何度も使われているので簡単なのだ。
また、裏面の上段には、必ず覚えてほしい読み方が音読み熟語とセットで、「きょう室のきょう、おし- える」、「キ劇のキ、よろこ- ぶ」と書かれている。さらに、下段には低学年で知っていそうな言葉が、高学年では今までに習った同音異字が記載されている。
道村氏は「読みこそが重要」と強調する。「低学年の頃は訓読みが中心ですが、高学年になると音読みを組み合わせた言葉(漢語)がたくさん出てきます。できる子にとっては何でもないことですが、漢字嫌いな子や特性があって読み書きが苦手な子にとっては、訓読みでしか覚えていない漢字が音読みで出てくると、読めないんです。学校では正確に書かせることに重きを置きすぎて、漢字を読めるようにすることの指導意識が低いんです。3年と4年の間には「漢語の壁」があって、そこを上手に乗り越えて漢語だらけの高学年の本が読める、意味がわかる、適切に選択できて使える、という力こそ育てるべきなのです。
とめ・はね・はらいなんてどうでもいい。国がそう言っているんですよ。個人の書きグセや多くの書体があっても、その漢字だと認識できればいいんです。細部にダメ出しをして何度も書かせることで、子どもはよけいに漢字が嫌いになってしまいますから、本当に悪循環だと思います」
漢字に興味をもつことで、無理なく楽しく覚えられる
ミチムラ式漢字学習法のもう一つの、そして最大の特長は、楽しく覚えられる、ということ。「何度も書く」という苦行から解放されるという意味合いだけでなく、ワクワクしながら学べるのだ。
「漢字を部品に分解しますから、そもそもの漢字の成り立ちや部首の意味を知ることができるんです。漢字にはエピソードがいっぱいあります。「教」は、老人が子どもに、手に棒を持って何かをしながら(攵)教える。「喜」は、台付きの器(豆)に、ご馳走を山盛りにして(十)、それを食べようとする(口)と喜ぶ。そんな話は面白くて印象に残り、もっと知りたいと思うはずです。意味ある部分が組み合わさった世界で唯一の表意文字の漢字に興味をもつことで、知的好奇心をくすぐる学びにもなるんです」
視覚障がい者向けの漢字教材作りからスタートし、「漢字を調べ尽くして、中学漢字まで読み書きに必要な要素を体系化し、なおかつ子どもにわかりやすい方法に仕上げるまでに15年かかった」という力作を使って、実際に多くの子どもたちが漢字嫌いを克服してきた。「エビデンスは揃っている」と道村氏。一人でも多くの子どもたちが楽しくラクに漢字学習に取り組んでもらえるように、学校現場での導入を持ちかけているが、「旧来の、漢字は書いて覚えさせるものだ、という固定概念はなかなか変わらない」という。
「すべての子が学びやすいユニバーサルデザインの学習法なんですが、特に漢字で苦労している子には、こういう選択肢もあるんだよということを教えてあげたいですね。漢字で苦手意識をもってしまうと、他の教科にも影響が出てしまいます。読み書きの基礎を培い、楽しい学びに発展させられるツールとして、ぜひこのカードを広く活用していただきたいと思います」
道村氏の著書『口で言えれば漢字は書ける』(小学館)、『唱えて覚える漢字指導法』(明治図書)は、指導者や保護者の間でも話題になっている。ミチムラ式漢字学習法は、今後さらに注目を集めそうだ。
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