NEA主催 英語学習会「児童・生徒の英語力育成にどう関わるか」
英語学習会「児童・生徒の英語力育成にどう関わるか
─小・中・高等学校外国語教育改革の流れの中で─」を開催
4月15日(木)、英語学習会「児童・生徒の英語力育成にどう関わるか―小・中・高等学校外国語教育改革の流れの中で―」が会場参加とオンライン視聴のハイブリッド形式で開催された。主催はNEA 一般社団法人 教育アライアンスネットワーク(下屋俊裕代表理事)、共催は公益社団法人 日本英語検定協会だ。
2020年度の小学校英語必修化に続き、新学習指導要領が21年度には中学で、22年度には高校で施行される。生徒や保護者がこの流れにどのように対応していけばよいのか、英語学習の教育現場で何が課題となっているのか。愛知県立大学外国語学部教授の池田周(ちか)氏に語ってもらった。
4技能から新たに5領域へ
「今の子どもたちが社会に出た時に、どうすれば英語を使えるようになるか、私たち民間教育機関は積極的に考えるべきです。そこで、小・中・高等学校の英語科教員養成課程に長く携わり、JES小学校英語教育学会愛知理事も務めておられる愛知県立大学外国語学部教授の池田周先生にお越しいただきました」
NEA事務局の柳裕樹氏がこのように述べた後、池田氏の講演が始まった。
「本日、みなさまにお見せする資料は、学校の先生方の研修でも使っているものです。これらを学校の先生ではなく、学校外で子どもたちに関わっている皆さまに向けて、民間教育の視点に立ち、お話をさせていただこうと思っています」
まず、池田氏は新学習指導要領の方向性についてまとめた資料を紹介した。
「学校で学んでいる子どもたちに最低限身に付けさせたい内容が示されているのが学習指導要領です。この中で子どもたちは学校の中だけではなく、社会の中で育てられているという考え方から、『社会に開かれた教育過程』という言い方がなされています。そのために、各教科の見方・考え方も記されています。
外国語によるコミュニケーションの見方・考え方は『外国語で表現し伝え合うため、外国語やその背景にある文化を、社会や世界、他者との関わりに注目して捉え、コミュニケーションを行う目的・場面・状況に応じて、情報や自分の考えなどを形成・整理・再構築すること』と述べられています。すなわち、外国語の知識だけを教えるわけではなく『外国語を使ってコミュニケーションを行う資質や能力を身につけよう。授業で実際にコミュニケーションを行おう』という思いがここに現れています。
その一環として、新学習指導要領では、『CEFR』(外国語の学習・評価・教授のためのヨーロッパ言語共通参照枠)を参照し、これまでの4技能から新たに5領域の考え方を採用しています。『Speaking』『Writing』『Listening』『Reading』の4技能のうち『Speaking』を『Spoken Production(発表)』と『Spoken Interaction(やり取り)』に分けたのです。これで5領域になりました。実際に英語の授業を見ると、生徒が何かについて発表したり、自己紹介したりするなど一方向で「伝える」ことしか行われず、双方向の「やり取り」が行われていなかったという背景があります」
こうした変化を踏まえた上で、生徒が「目的に応じて情報を精査したり、相手に応じた話の内容、表現、構成などを選択するとともに、伝える内容を自らが的確に理解し、自分の言葉として表現したりできるようにすること」と新中学校学習指導要領には記されている。5領域の言語活動を通して、英語による思考力、判断力、表現力などを養うことも目標に含まれている。
場面設定などから文法を理解
「今年度、中学校の教科書が変わりました。実際に私もこの仕事に関わってきました。編集作業の中で、最初から言われていたのが小中接続です。そのため、中学校外国語の新たな検定教科書を見ると、1年生の始めが小学校の内容を引き継ぎ、中学校の学びへと移行する接続期間になっています」
池田氏が示した新中学校学習指導要領の文法事項の資料を見ると、高校の範囲から中学校に移った学習内容がある。その一つが仮定法だ。「この新しい学習指導要領の方向性が打ち出された時、『中学校で仮定法を学ぶの?』と話題になりました。これは小学校で外国語が教科化されたから前倒しになったというのではありません。中学生の認知発達段階では『もし…なら』という仮定の話題を「学習内容に含まれないから」と英語の言語活動で避けるのは不自然だからです」
一方、新小学校学習指導要領を見ると、「文」の項目に文法のようなものが入っている。しかし、これは細かい文法を教えるのではなく、場面設定や対比などから、なんとなく『文』の意味がわかるようにするものだ。
「2学期の始めの授業で先生が小学校6年生に『みんな、楽しかったよね』といって夏休みの話をします。そして『I went to the mountain.』と英語で言った後、『今、先生、なんて言ったかわかるかな?』と聞きます。生徒は過去形の概念や表し方を知らなくても、すでに終わった夏休みのことなので『私は山に行く』ではなく、『私は山に行った』という意味だとわかるでしょう。これが小学校6年生の『文』の理解です」
英語を通しての人間教育を目指す
続いて、池田氏は令和元年度の全国学力・学習調査報告書(中学校英語)に出題された問題をいくつか紹介した。その一つが次の問題だ。
「カナダにホームステイ中のあなたは、友だちと山登りをすることになりました。これから山登りに詳しい人が、次の図を見せながら、あなたに事前のアドバイスをしてくれます。その人が一番伝えたいことはどのようなことですか? 1から4までの中から1つ選びなさい」
英語で述べられた事前のアドバイスを聞いて、生徒は答えを選択する。しかし、4つの選択肢はどれも聞いた内容に合っている。求められているのは〝その人が一番伝えたいこと〟を読み取る力なのだ。池田氏はこの調査結果を踏まえて学校の教員たちに与えられた学習指導への助言を紹介した。そこにはこう記されている。
「指導にあたっては、文章全体を漫然と読ませるのではなく、繰り返し用いられている語(句)や問いかけなどの手がかりを基にして、最も大切な語句や文を選ばせたり、各段落の働きを理解させたりすることが重要である」
次に『Speaking』の問題。まず、ネイティブの先生と生徒のやりとりを聞かせる。次にその内容を踏まえて会話が続いていくように即興で質問ができるかを見る。前述の5領域の中の「Spoken Interaction(やり取り)」の力を問う問題だ。いつ自分の発話機会が訪れるかわからない状況で、話されているやり取りを聞きながら、即興で応じることができないと、この問題には答えられない。
「では、生徒たちの即興性を高めるためにはどうすればよいでしょうか。答えは一つ。先生が子どもたちに即興的に話しかけることです」
こうした「やり取り」だけでなく、「Spoken Production(発表)」の力も高める言語活動の一つとして、小学校の外国語の授業では「スモールトーク」が実践されているという。
「既習表現を最大限に活用して、相手が言ったことを繰り返したり、感想を言ってあげたり、質問したりして、会話を継続・発展させる力を育むのがスモールトークです。ぜひ、日々の指導に取り入れてください」
続けて池田氏は小・中・高等学校の抜本的教科のイメージについて解説した後、大学共通テストの問題作成の方向性などについて語った。次に前もって募っていた英語教育に関する多くの質問に答え、このような言葉で講演を終えた。
「日本の英語教育はEnglish Education であり、人格形成の側面が含まれます。必ずしも完璧なバイリンガルの育成を目指してはいません。英語に向き合い、コミュニケーションを楽しいと感じる姿を認めたら、ぜひ力いっぱい褒めてあげてください。そして多様性の中で、グローバルな視点を身に付けることを高く評価してほしいと思います」