NEA主催 教えてDX 学習塾のDXとは
2021年前期 一般社団法人 教育アライアンスネットワーク(NEA)シリーズ学習会
コロナに負けない! 学習塾運営 攻めと守り 教えてDX 学習塾のDXとは
学習塾にもデジタルの波が押し寄せ避けては通れない中、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」というキーワードが話題になっている。
一般社団法人教育アライアンスネットワーク(NEA)の今回の学習会では、第1部で株式会社学研ホールディングス執行役員 渡辺 悟氏がDXの基本と学習塾のDXについての講義を行い、第2部では株式会社グランシップ代表取締役社長福原健太郎氏が、実際の学習塾におけるDX活用例についての講義を行った。DXの基本的な知識を身につけ、学習塾がどうあるべきなのかを考える。
第1部
DXの基本と学習塾のDX?DXで何を変える? 何を変えない?
渡辺 悟 氏/(株)学研ホールディングス 執行役員
そもそもDXとは?
私は、学研ホールディングスのデジタル事業本部および人事戦略室で、全社のデジタル変革を推進しています。デジタル事業本部ができたのは1年半前。そのときの学研IDは2万ほどでしたが、現在22万人。10倍になりました。〝デジタルで変えるんだ、変わるんだ〟と思えば1年ちょっとあれば変わると実感しています。
DXとは、デジタル・トランスフォーメーションの略(英語ではTransをXと略す習慣がある)。ITをきっかけに、広く産業構造や社会基盤に影響を及ぼす変革を起こすことです。
例えば、2011年に始まった「東ロボくんプロジェクト」というのがありました。2021年度の東京大学入学試験突破を目指したものですが、2016年に研究は凍結。しかしプロジェクトにより、人間にしかできないクリエイティブなことや新しい価値創造の意義を浮き彫りにし、個々の開発者による研究は継続中で、AI開発や教育政策に役立っています。
現在、大学、高校、義務教育は、教育改革のもと大きく変化しています。これまで必要とされていた能力と、今後必要とされる能力そのものが変わっている。塾としても、そこをどう捉えていくか。DXというと、学び方をどう変えていくのかと捉えがちですが、中長期的な観点に立ち、AIの能力を踏まえ考えていくことが重要です。機械に任せられるものは機械に任せ、我々人間は機械に任せられないものに集中すべきなのです。
DXで何を変えるのか?
デジタルで顧客体験が大きく変わった例として、タクシー配車アプリなどの例があります。全国47都道府県・約7万台をネットワークし多言語対応(英語・中国語・韓国語)、ユーザビリティを最適化するものです。煩わしい配車の手続きがスムーズになり、顧客は便利さを実感、裏で働く人たちの仕事内容も変わりました。DXが進むと職がなくなるのではなく、職がトランスフォームし、人が果たすべき役割が変わります。
分身ロボット「Orihime」は、視線による文字入力を組み合わせたイノベーションです。手足が自由に動かせなかった方が、これまでできないと思われていたことができるようになる。テクノロジーによって社会そのものの可能性を拡張できるのです。
学習においては学び方を変えるにとどまらず、学ぶ内容自体を変えるべきタイミングに来ています。学習塾においてもアプリを使って学習効率を上げ、個別最適な学びができるようになると、先生の役割が変わります。Gakken ONAIRでも、ビデオチャット機能を活用して、学研塾講師検定のSS級講師による授業がオンラインで受講できます。
ITサービスにより、商圏は広がり利用してもらえるチャンスも増えます。ITだからこそできる基盤を構築するために、アプリケーションを用意することは塾の経営に必須です。
DX、デジタルを導入することが目的ではありません。顧客や従業員のハッピーを満たすというシンプルな話。ITや塾はどんな役割を果たさなければならないかを意識し、自社の改革を進めていただきたい。教育アライアンスネットワークの会員さまや全国の学習塾がいろいろな知恵を出し合って互いに切磋琢磨しながら、変革の時代に勝ち残っていきましょう。
第2部
学習塾のDX活用を考える~オンライン授業に関する弊社の取り組み
福原 健太郎 氏/(株)グランシップ 代表取締役社長
映像授業を使って授業を作る
2013年、広島県福山市にて弊社個別指導塾グランアシストを開校。タブレットを使った一斉個別指導を行い、5年目には福山市内で9教室を運営するまでになりました。ITの活用(デジタルアナログ融合)や暗記トレ(できない問題だけ出題)などでは、このシステムが形になり、全国規模で使っていただいています。業界紙に取り上げてもらったり、NEA主催オンライン・オンデマンド授業コンテストではスペシャル授業賞を受賞しました。
1対2の個別指導をやろうと塾を立ち上げたのですが、地元に大学が少ないためアルバイトの講師が集まらず、映像授業を取り入れました。しかし、小中学生の集中力・やる気が続かず成績が上がらない。そこで、新単元にそれぞれプリントを作り、PCで新単元を学習したら、学んだ単元の問題演習をやることを徹底。そして講師が採点&解説、承認するという学びのサイクルを作りました。映像授業を使って授業そのものを作り上げていったのです。
そうした中、既存の参考書類は一斉個別には向かないと判断し、映像授業を使って運営する授業のための参考書と映像授業を、独自に作りました。工夫したことは、解説動画を10分前後に、短いものでは5分にしたことです。さらにテキストとテストを一体型にし、テキスト1冊で弊社の学習サイクルが達成できるようにしました。
学習塾運営すべてにDXが活用できる
学習塾運営に関わる業務には、生徒(顧客)管理、顧客コミュニケーション、成績(継続)管理、教材関連(商品開発)、実際の授業などがありますが、DXはそのすべてにおいて活用できます。授業にフォーカスしがちですが、管理面でもオンラインサービスに助けられています。問題作成、テキスト誌面のレイアウト、動画収録などの実務は、インターネットを介して、いろいろなサービスや人の力を借りることにより実現させてきました。
「教科知識を伝える塾であり、顧客(保護者・生徒)の願望達成のサポートをします」という弊社の方針を明確にする中で、助けてくれたのはデジタル技術です。自分の塾はどこに軸を置き、お客様にどういうサービスをしていくのか、何が必要でどういう手段が大事かを考え、取捨選択していくことが重要です。