第8回 OLECO SUMMIT 2030年に向けて、いま学習塾が立ち向かうべき課題
7月4日(日)、株式会社スタディラボ(地福武史代表取締役、東京都文京区)主催による「第8回オレコサミット」がオンラインセミナー形式で開催された。 学習塾業界を取り巻く今後の展望を語る講演をはじめとして、販売サービス開始から6年となる「オレコ」を中心とするオンライン英会話教材の勉強会や新商品を紹介する情報共有などが行われた。
■基調講演■
業界展望
学校・民間教育・家庭学習から考える未来の日本
(株)市進ホールディングス代表取締役会長 下屋俊裕氏は、社会の変化を踏まえて昨今の教育業界の総括を述べた。
「生産人口・幼少人口ともに減少が見込まれるエリアでは、ライブ授業に加えて映像授業が必須となります。そして、海外で活躍できる人材を育てるために早い時期から英語に触れる必要性は言うまでもありません。英語に特化したオンライン授業は、大きな可能性を秘めていると思います」
さらにGIGAスクール構想とICTを話題に取り上げ、日本がOECD諸国平均より致命的なまでに遅れていたことを指摘。教職員やICT支援員の不足が懸念され、ICTの利活用を進める上での課題が山積している中、キラーコンテンツとなるのは「デジタル教科書」だと下屋氏は話す。
「中学校における学習者用デジタル教科書の発行状況は、2021年度は25%に対し、2021年度は95%が導入され、飛躍的に伸びています。手で書く記憶と目視だけの記憶の差は明らかですから、わずか2行でも自分の手で書いて長期記憶にとどめるトレーニングをすることで、英語力は格段に上達します。またそこには、学習プロセスを評価する「人」が介在することが重要です」
また英語教育と合わせて、今後は中国語がクローズアップされていくと予想し、「対少子化にあたって、語学サービスを提供する際に重要なポイントになる」と述べた。
■代表講話■
塾を覆いつくすテクノロジーの力
学習塾のICT化、その背景を予見する
続いて、(株)スタディラボ代表取締役 地福武史氏が登壇した。
「これまでの10年と今後の10年は、進化の速度が根本的に異なる」として、2030年に学習塾を襲うテクノロジーを〝破壊的イノベーション〟だと指摘する。
「テクノロジーが融合し、指数関数的な加速が始まっている中で、コストが下がり新しい競争が生まれています。特に量子・AI・ロボットの領域は、職業選択の中軸になると考えられます」
そして、2030年における教育の未来をマクロの視点で次のように分析した。
「いまや、世の中はサービスエコノミーが大半を占めています。古典的とも言える工業的教育制度、つまり画一的教育は崩壊します。また、人智を超えた情報爆発や、世界中で教師不足も懸念されています」
こうした状況下で子どもたちが学ぶべき領域は、「英語とプログラミングをクリエイティブの手段として使いこなすこと」と地福氏は話す。
一方、ミクロな視点では、大前提として〝学習塾はなくならない〟が〝再定義された学習塾〟が生き残ると予測する。
「AR×VR×AIによって、長期記憶に移行して記憶が定着していく可能性もあります。AI教材の目的は、子どもたちを新しいサービスエコノミーに適合させることです。またコーチングの要件にも、想像以上にテクノロジーが参入するのではないかと捉えています」
そして、スタディラボの今後の展望を次のように話した。
「『オレコ』は教材を、『ココラーニング』は授業を、『ミルクラス』は教室をICT化しました。『ミルクラス』の登録者数はすでに7万人を超えています。さらに現在、統合IDによる教育プラットフォームを開発中で、12月にリリース予定です。学習塾のICT化を推し進めるのは、テクノロジーではなく〝戦略〟です。労働生産性も生徒の成績も合格率も、すべて連動していかなければならないと考えています」
「GeT」「ミルクラス」の導入事例
(株)スタディラボ執行役員 杉山拓央氏と峰嶋聡子氏から、昨年ラインナップされた「GeT」と新商品「ミルクラス」の紹介が行われた。
「『オレコ』は1レッスン25分ですが、『GeT』は15分と授業設計しやすく、必修として授業に組み込む利用が増えています。特に低学年に対して、レッスン時間の短さで入口のハードルが下がる効果に期待ができます。どちらも自宅利用ができ、学習塾のカリキュラムに関わらず、指導時間以外にアウトプットの時間を提供することが可能です」(杉山氏)
また、「オレコ」を通して高校生で英検準1級の合格者を続々と輩出している導入塾の事例が報告された。
学びを管理するLMS(ラーニング・マネジメント・システム)の「ミルクラス」も、コロナ禍の1年で急速に注目を集めた。
「学習塾での使い方は2つのパターンが想定されます。1つは対面指導の時間を最大限活用するために、チェックテストや宿題提出など授業以外の内容をシステムで対応すること。もう1つは、生徒以外の対象、例えば保護者や教師に情報を届けてその閲覧状況を確認するという使い方も可能です」(峰嶋氏)
そして、対面授業以外の活用法や業務改善にもつながった導入事例が紹介された。「『ミルクラス』はすべての機能が基本料金で利用できるため、使えば使うほどコスパが上がるのもメリットです。今後も、皆さまのご期待に応えていけるよう鋭意精進してまいります」(峰嶋氏)
■講話①■ 新しい教育世界に立ち向かう学習塾の戦略
(株)スタディラボ取締役 横田保美氏は、少子化への危機感を次のように述べた。
「2016年から急減期に突入しましたが、出生数の減少が学習塾市場に反映されるのは、生まれた子どもが中学受験に直面する約10年後、つまり2026年から塾業界をダイレクトに直撃します」
さらにコロナ禍が覆いかぶさり、一般的な想定よりも少子化危機は10年前倒しになりかねないと分析されているという。この状況を横田氏は〝かつて経験したことのない市場シュリンク〟と位置づける。
「新たなサバイバルの時代は、改善主義では生き残ることができません。いわゆる塾らしい塾が閉鎖・廃業する時代には、差別化ではなく〝特異化〟こそが求められる戦略です」
さらに、米中冷戦が教育にもたらす影響についても、横田氏は指摘する。
「宇宙・IT・医学・情報・金融などの分野で米中が対立する中、サイエンスに対する投資競争で、各国が集中的に資金をつぎ込む時代が訪れます。やがては世界の教育が分断されるかもしれません。ビジネスのためだけではなくサイエンスのための英語力を高める、という発想が重要です」
■講話②■ 英語教育~追い風を掴む経営戦略~
(株)SRJ代表取締役 堀川直人氏は、今春の大学入試共通テストを踏まえ、英語入試や教育改革について言及した。さらに、教科書改訂による授業内容の変化に対し、一歩踏み込んでどこまで自塾の強みにできるかが、今後の課題だと話す。
「アフターコロナによって、学習塾として英語教育やICT普及は今こそアップデートするチャンスです。まさに、自塾のグランドデザインを見直す岐路に立たされています。英語教育を武器にする際、ポイントになる要素は『小学生に対する母国語の必要性』『5(3)教科+付加価値』『持続的サービス(小中高)』の3つです。
まず、学習の土台を形成する母国語の4技能をどれだけ小学生が体得しているか。そして、〝付加価値は6つ目の教科〟というスタンスで、強みを訴求すること。さらに最も重要なのは、持続的サービスの提供です。中高受験がゴールではなく、その先を見据えた指導やカリキュラムを構成し、グランドデザインを示すことが求められています」
大学入試改革元年である2021年。教育開発出版(株)代表取締役 糸井幸男氏が注目したのは、英語に思考判断や情報処理能力が求められている点だ。
「内容を間接的に判断し、文章全体を聴いて思考すること。センター試験は〝聴きとれるかどうか〟でしたが、大学入学共通テストは簡単な文章だが〝考えさせる問題〟が出題されました。ポイントは英語による思考です。日本語に変換することなく、英語で素早く情報処理をする能力が求められています」
これまでの英語は〝語学の勉強〟だが、これからは〝第2言語〟として使いこなすことが求められる、と糸井氏は強調する。
「小中学生から英語による日常的なコミュニケーションの習慣が大切です。生徒の自己肯定感や学習意欲を高めることができるオンライン英会話こそ、まさに英語指導のトレンドだと言えます」
講話後には学研プラスや学書、文理、好学出版、教育開発出版、SRJ各社から夏期講習向けの教材や、デジタルツールなどの提案が行われた。