創立100周年に向け大改革を実施「神戸山手女子中学校高等学校」
今こそ、校塾連携のとき
求められる協働的ビジネスモデル
平井正朗 校長 記
海と山に囲まれた異国情緒溢れる神戸に神戸山手女子中学校高等学校の前進「山手学習院」が設立されたのは今から97 年前のこと。高等女学校の数が足りず義務教育終了後の進学先に困る女生徒を憂いた神戸市民らの要望で設立されて以降、名門女子校として名を馳せ、卒業生は2万人を数える。
近年は生徒数が減少傾向にあったが、昨年、関西国際大学を擁する学校法人濱名学園と合併。今年4月には私立学校改革で多くの成果を上げてきた平井正朗氏を校長に迎え、本格的な学校改革へと乗り出した。2024年に迎える100周年に向け同校がどのように変わっていくのか。その取り組みを伺った。
教職員がワンチームとなりベクトルを合わせる
着任にあたり教員研修を行った平井校長は「教員一人ひとりは真面目で能力も高い。しかしそれを発揮する場がなく、教員自身もどのように活かせばいいかわかっていないようだった」と話す。そのため、まずは学校の育成指標として「未来型リーダーシップの女性育成」をおとしこんだ。従来の進学校化ではなく、卒業時に生徒たちが「この学校に行ってよかった」と心から思えるような進路満足度100%を目指す。各コースのコンセプトも明確にし、中学校は「未来探究コース」に一本化。高校普通科には国公立大学や難関私立大学を目指す「選抜コース」、保育や看護、観光や教育系など、生徒たちに人気の職業に直結する学部・学科を持つ系列の関西国際大学や学校推薦型選抜を含む有名私立大学への進学など幅広い進路に対応する「未来探究コース」、芸術系大学や音楽大学への進学を目指す「音楽科」の3つに明確化した。カリキュラム・マネジメントによって学校が向かうべき方向性を示したことで教職員に一体感が生まれたという。
入学後にしっかり伸ばし、育てます!
大学入学共通テストは教科書の内容が理解できていれば得点できるようになっており、中でも中学と高1、高2での学習が非常に大きなウエイトを占めている。そのため中学3年間では共通テストでの8割得点を目指すべく基礎、基本を徹底的に学習する。高校の選抜コースでは校内予備校「アドバンス講座」や夏、冬の補習を実施。AI教材を用いた個別最適化学習や20時までの自習室解放など、建学の精神である「自学自習」と「情操陶冶」の下、生徒たちを自律へと導く。定期考査や模試の分析会、学習を振り返るリフレクションアワーも設け、分析結果はコーチングを通じ生徒や保護者にも開示する。生徒と保護者にはシラバスも公開しており「開かれた学校づくり」を進めていくとのことだ。
今後、ますます重要度が増していく英語についてはネイティブ講師2名を常駐させたイネグリッシュルームの設置や、英語での音読やディベート、ニュージーランドの学校とのオンライン探求学習など日常的に英語を使える環境を整えている。
また、学力面以外では産学連携によるキャリア教育や環境保護、社会問題への取り組みを通し、グローバル的視点で積極的な社会・他者への貢献に喜びを感じる、豊かな人間性を育むことへも力を注いでいる。クラブ活動に参加する生徒の方が成績も良いとのデータから、同校では「全クラ」を推奨しており部活動への加入率は約8割。今年度はプログラミング教室や世界をリードするエンジニアの育成を目指した宇宙エレベーターロボット競技会などにもチャレンジしていく「データサイエンス部」が新設された。
平井校長がこれまで改革を手がけた学校は軒並み実績を上げ、偏差値も急上昇している。受験時の偏差値はそれほど高くなくても、入学後確実に伸ばしてくれる、いわゆる「お得な学校」になることは必至だ。「塾不要」を謳う私学もある中、平井校長は「校塾連携派」。生徒のことを一番に考えながら、学校と塾の両者がお互いを高め合いながら補完し合える関係を望んでいる。
学校と学習塾をはじめとする民間教育が協働して、様々な教育活動を実践することを「校塾連携」という。以前から予備校講師が学校の課外講座として大学受験対策を担当する「校内予備校」の存在は知ってはいたが、「校塾連携」という言葉を耳にしたのは関西で初めてで、学習塾を上場させた森本一先生から。校内予備校の成否については温度差があるものの、一定、定着した感がある。
現在の勤務校である関西国際大学を併設する女子中高では、大手予備校で実績のある講師をヘッドハンティングし、受験対策「アドバンスト講習」を担当していただいており好評を得ている。教員の中には積極的に授業見学し、スキル・アップのための情報交換に努める者もいて、ある意味、OJT(On theJob Training)が具現化されているといえる。両者からはいずれも「楽しい」との感想が出ている。
校塾連携のあり方も変容を帯びてきた。近年では、民間教育が開発したEdTech教材による「個別最適化学習」がキーワード。本校は経済産業省の「先端的教育用ソフトウェア導入実証事業」としてのEdTech補助金を得て、個別最適化学習が可能になった。メリットは、教材準備の負担減とパンデミック対策。コロナ禍では「学びの継続」に向け、教育機器の普及がより一層加速したが、学ぶ側にはモチベーションの維持と学習習慣の定着が課題となっている。教える側の課題、機器への習熟とティーチャーとファシリテーターのバランスだ。いち早く、データを一元管理して学校運営にあたってきた欧米に比べ、紙ベースが主流を占めていた日本の学校のビハインドは否めない。だからこそ、組織的な取り組みが必要なのである。本校では、ガバナンス強化に向けて、学校評価に紐づくカリキュラム・マネジメントを実践している。
校塾連携は、教学面だけではない。少子化の中、生徒募集はどこも厳しい。
私立中高には、多少名称は異なるものの、入試広報を専門に扱う部署がある。入試広報担当者らは皆、日々学習塾を訪問し、自校の入試イベントの案内等を行っている。学習塾も入試担当者から得たオープンスクールなどの情報を塾生に案内したり、学校説明会を開催したりするなど、情報提供だけでなく進路指導のツールとしている。大切なのは「あの学校ならきっと育ててくれる」という信頼関係だ。
入試広報担当者には教員が多いが、職員もいる。本校では、職員の入試広報担当者が週に数回、様々な授業を見学し、広報に役立つ取り組みをキャッチ、それを自分の言葉で伝える努力をしている。これは教員と職員が同じ目線で校務をこなす「教職協働」の基盤になる。他方、予備校の進路担当者に来校してもらい、大学入試改革に伴う傾向と対策、受験計画などをご講演いただくこともある。コロナ禍ではオンラインを活用するようになったが、こちらも評判がいい。
また、入試広報の役割が入試情報のみならず教育実践の進捗状況や成果を外部に広く発信していくものであるという点を鑑み、本校は「入試広報センター」を校長室直轄とした上で別途新設した「ICT教育推進部」とも連携させている。本校における様々な取り組みを広く知っていただくことはカリキュラム・マネジメントにおける重点課題の一つとしているからだ。
教育のあり方がめまぐるしく変化する中、外部リソースの活用は新学習指導要領でも謳われている。ステークホルダーの多様化に伴い、校塾連携のビジネスモデルも変容すると考えられる。両者が望むのは、ウインウインの関係の中、生徒一人ひとりをどれくらい伸ばしてくれるかにほかならない。生徒と共に過ごした時間は何よりも尊く、苦楽を共にした教え子がどのように成長しているか聞かせてもらえる喜びに勝るものはない。コロナ禍という危難の中、世界中が英知を結集し、その克服に向けて創意工夫を重ねている。初等・中高教育においても協働による「全体最適」が結果的には「個別最適」につながるのである。日本の小中高教育現場は〝超〟多忙化の一途。教職員の「働き方改革」が指摘される中、学校と民間教育の相互補完的な役割をより精査していく所存だ。