2021年NEA後期学習会 2021年度公立高校入試分析
正答率分析による公立高校入試の攻略法
キーワードは「共通テスト」「新教科書」「SDGs」
[講師]株式会社 エデュケーショナルネットワーク
R&Dセンターチーフアナリスト 上野 伸二 氏
2021年、新学習指導要領が中学校で施行され、2022年度は高等学校で新学習指導要領が実施される。この動きと連動して全国の公立高校の入試も大きく変わろうとしている。
NEA教育アライアンスネットワーク(下屋俊裕理事長)では、10月14日(木)株式会社エデュケーショナルネットワークの上野伸二氏を講師に招き、2021年度公立高校入試分析のセミナーを開催。2022年度春入試に向け、教科書改訂に伴い何が求められるようになってきたのか、正答率の観点から入試対策可能な良問を厳選した『精選全国高校入試問題集』を資料に、上野氏が解説した。
高校入試の変化におよぼす3つの要因
高校入試の変化におよぼす3つの要因がある。一つ目は「共通テスト」だ。初年度の共通テストはソフトランディング傾向だったが、時間内で解答するには難しい問題も散見された。最も変化したのは「英語」である。英語に関しては、「教科書改訂」とともに「英語教育改革」の影響もあるため入試問題は予断を許さない状況だ。
二つ目は「新教科書」。新教科書の使用が高校入試に大きく影響するのは、3年間新教科書を使った授業を受ける中1生だが、中2・中3生も無関係ではない。特に中3生では、英語で仮定法や現在完了進行形が加わり、理科の化学の単元では「ダニエル電池」が扱われるなど、次年度入試に関わりのある変化が生じている。これらの単元や内容は過去問では取り扱いがないため、入試対策問題等での補足説明や復習量の確保が不可欠である。
新教科書が「見方・考え方」を重視する内容に変わったことで、公立高校入試では知識や用語の丸暗記で対応できる問題は減り、日常生活の一場面について、読解力や思考力、状況整理力を求められることが予想される。
三つ目は、「SDGs(持続可能な開発目標)」。公立高校入試では、新教科書の使用に先駆け、SDGsを題材とした問題が見られるようになっており、似通ったテーマがいろいろな観点から問われるため、教科の壁を越えた学習が必要である。
2021年度 公立高校入試の全国的な傾向
◆数学
三平方の定理の活用を避けた影響からか、2次関数と図形をからめた問題の出題が急増。日常生活をベースにした問題はシンプルな良問が見られた。データの活用(代表値・確率)は思考力問題への発展が顕著であり、情報整理力が問われる。関数の文章題は長文化に歯止めがかかり、状況整理や場合分けが必要な問題も見られるようになった。
◆英語
時事(レジ袋有料化)、新教科書(防災)、SDGs(環境問題)など最新テーマに関する英文読解・英作文が目白押し。読解力重視傾向が強まり、リスニングは難化が進んでいる。共通テストの影響もあり、日常生活で目にする、図や表などの資料を読み取る問題が充実。情報量が多く、計算や状況把握が必要な問題も増えてきた。
◆国語
出題が増えていた資料要約系作文が減り、従来型の意見作文が出題のメインに。九州のみ依然として資料が主流。難易度は昨年に比べ、大きな変化はないが、メモやノート形式で内容を整理する出題は定番化。全国的に漢字の読み書きや言語事項はやや難化傾向にあり、語彙力を重視する動きが強まっている。
◆理科
中2内容からの出題が目立った。完答で正解になる問題や正しい組み合わせを選ぶ問題は定番に。難易度は県によって大きく異なり、出題単元による平均点の変動も大きい。半数近い県で、長文化の勢いが加速。実験・観察の過程や考察を書かせる記述問題や、地学の計算問題は難化傾向が続いている。
◆社会
東日本を中心にオーストラリア関連の問題が一気に増加。課題解決の視点につながる記述問題は解答の自由度が高いものも多く、難化が進んでいる。扱うテーマは、数年ごとに流行があるため、時事や新教科書の内容を反映した題材には要注目。 複数の資料や文章の比較が必要な問題も多く、処理力も重要である。
2022年度 入試に向けた対策各教科の注目ポイント
◆数学 「見方・考え方」の重視、文章の長文化が加速
新出内容への対応は不可欠。「累積度数」「反例」「四分位範囲と箱ひげ図」は、教科書レベルの基本問題を入試直前に復習しておくことが重要である。正答率が低い、数や図形の性質、定理などを説明する〝理解の確認〟問題には注意が必要。正答率数%の最難問が文章をしっかり読み込まないと解けない問題に変わってきているのにも注目。
正答率30~40%の問題などを中心に実践的な演習を繰り返し、対策をとることが大切である。
◆英語 英文テーマと意見作文は課題解決に直結
リスニングは難化傾向にあり、標準英語で聞き慣れておくことが重要。放送回数の変更にも対応できるようにしておきたい。新出内容の「原型不定詞」「仮定法」「現在完了進行形」は、文中での扱いになると思われる。語順整序問題は正答率が低いため、文法事項のフォローは必要である。レシート、取説、ポスターなど、身近な題材や図版の読み取り問題にも注意。
SDGs関連英文、英作文対策は万全にしておきたい。テーマ性の強い英文読解と意見英作文はセットで取り組む。
◆国語 新傾向・教科書改訂への対応が必須
現代文では、素材文に資料の読み取りが加わり、メモやまとめノート形式で要点を整理する問題も見られる。語彙力の強化は新教科書の重要観点。漢字の難化や語彙に関する問題の増加に要注意。古典は、2つの素材文を比較する出題が増加傾向。
作文・表現では、「会話文+資料+意見作文」の形式は全国的に増えており、ディベート形式など「資料の読み取り+文章化」に重点が置かれる入試も見られる。
◆理科 より正確な知識の理解と定着が問われる
新出内容は中3に集中しているため、次年度入試から出題可能。「ダニエル電池」は教科書や問題集等でフォローしておく必要がある。過去問演習の際は「顕性・潜性」「イオン式」に要注意。〝完答での正解〟や〝正しい組み合わせの選択肢を選ぶ〟問題の対策に力を入れる。
知識の理解を徹底した上で、実験の手順や思考過程を説明する記述問題、対照実験の条件設定など、〝流れ〟を重視した問題への対応が必須。
◆社会 キーワードは「資料」「近現代史」「SDGs」
記述は、地理や公民は資料重視、歴史は知識重視と傾向が分かれるため、各県の出題傾向を見極めた対策が求められる。「歴史総合」につながる近現代史を強化しており、全国的に難度が上がっているため、年表を使って背景や流れを抑えながら出来事を〝理解する〟ことが重要。
新教科書はSDGsに重点が置かれているため、環境問題や国連などの動きに関する用語は特に注意が必要。