OLECO SUMMIT 2022年に学習塾が取り組むべき課題
昨年12月10日(金)、12日(日)、(株)スタディラボ(地福武史 代表取締役、東京都文京区)主催「第9回オレコサミット」がウェブセミナー形式で開催された(協賛/㈱SRJ・教育開発出版㈱)。コロナ禍、少子化の時代に「今、学習塾は何に注力すべきなのか」、示唆に富む多くの講演と、新商品開発について情報発信された。
[基調講演]業界展望「AI・ICT」と「人のふれあい」から考える日本の教育
(株)市進ホールディングス代表取締役会長 下屋俊裕氏は、労働人口の減少、Society5・0を踏まえ、今後の業界展望を述べた。
GIGAスクール構想で、学習用端末の整備がほぼ完了した今、そのキラーコンテンツはデジタル教科書であるとし、これは、学習しながら素早く様々な情報にアクセスできる利便性、検索能力の増大など、学習効率を評価しながらも、効率を追求することが本当にいいのか、辞書、参考書を手で引いて、物事を深く理解すること、また、端末ではなく、紙に書くという作業が長期記憶の習得に大切であることが見落とされるのではないかと警鐘を鳴らした。学習に必ず紙を用意すること、「ここは書きなさい」と先生が子どもに指導することこそが、AIには出来ない肝要な点であることを強調した。
コロナ禍における学習塾業界の状況にも言及し、「全業種に比較すると学習塾業界の売上の落ち込みは少なかったものの、全体として3・3%の下落でした。しかし、特徴を打ち出した塾は業績を伸ばしています。地元特化型、実績特化型、オンライン英会話などのIT教材の活用に重点を置いたハイブリッド型などに、その傾向は強く見られます。特に各地域の〝地元のトップ塾〟の集団指導は、下落した売上を取り戻すのが早かった」とした。
また、コロナ禍において、オンライン授業やICT化が進みはしたものの、利益に結び付く取り組みはまだまだ今後の課題であることも指摘した。
「学びの多様化、自立学習、探求学習の追求、さらには、世帯の経済力や、地域の労働人口の変遷などを踏まえると、AIによる学習補完は必須です」とし、さらに今後、学習塾の提供する価値を深めるには、食育や保護者の子どもへの接し方、SDGs教育など「懐の深い学習塾」を目指していくことが必要であることを強調し、これらの取り組みは生徒、保護者、従業員だけではなく、地域社会との結びつき(エンゲージメント)を醸成していくことが肝要であると述べた。
「AIは当たり前になる。その言葉をみんなが理解し、特別な意味を持って使わなくなる。その根っこは人と人のふれあいです」と結んだ。
[代表講話]2022年に取り組むべき学習塾の課題
続いて(株)スタディラボ代表取締役 地福武史氏が登壇した。
前回の第8回オレコサミットおいて、2030年に学習塾に拡がるテクノロジーをマクロの視点で分析してみせたが、その続編ともいうべき今回は、より具体的に、2022年に学習塾が取り組むべき内容を自社商品の開発状況や、2030年を視野に入れた方向性をもとに指し示した。その論旨は、学習塾の「労働生産性の向上」と「経済合理性の向上」を2本の柱とし、キーワードとしては「LMS(ラーニングマネジメントシステム)」と「つながる」の2点だ。
労働生産性の向上としては、
①「指導システムの全面改変」LMSを利用することで、週7日の学習管理を実現すること
②「指導コンテンツの全面改変」授業に代替するコンテンツを利用することで、先生の業務効率を上げ、子どもと接する時間を日に1時間創出すること
③「授業内容・課題管理の全面改変」ICT教材、自宅プリンター、LMSの利活用で、先生の勤務日、勤務時間を適正に管理すること
の3点を述べた。
経済合理性の向上としては、2022年に過去最高の売上を計上することを目標として掲げ、
①「入塾増」テクノロジーで問い合わせを増やすこと
②「退塾減」生徒指導、接触回数を、テクノロジーで増やすことで週7日の塾生をつくること
③「単価アップ」一人ひとりへの品質を高め、正しく価格転嫁すること
の3点を述べた。特に単価アップについては、業界全体が意識をして取り組まないと、学習塾自体の価値が下がることになり、民間教育の未来に向けた重要な提起となった。
[定期講話]この先にある塾教育の再生
(株)スタディラボ取締役 横田保美氏からは、「この先にある塾教育の再生」と題した定期講話が話された。
戦後の出生数を4つのフェーズに分け、少子化と言われたこれまでの26年はゆるやかな減少の時代であったこと、2016年4月以降は、出生数が平均マイナス3・3%となり、数年後には『本当のチャイルドショック』が塾市場に到来すると解説された。
少子化という量の変化は同時に、質の変化をもたらすことを丁寧に説き、『これまでの強みが弱みとなり、弱みは強みになる』と表現した。大規模、多教室である塾運営は、その縮減を余儀なくされ、通塾ではなく地域に捉われない新しい形態を模索することや、EdTechを利用して家庭学習をサービス化する施策など、週7日の学習管理を軸に考えていく塾運営はむしろ、小規模、地方の学習塾が得意とするところであり、『差別化(ナンバーワン)ではなく、特異化(オンリーワン)が生き残る時代』と述べた。
さらに公教育では、5W1Hの学習管理を脱却することに時間がかかるが、民間教育ではその設計が自在であり、特に学習塾は24時間のサービス提供に取り組んでいくべきであると強調した。
[スタディラボ]新商品「ワンパス」と「スピーキングテスト対策」
(株)スタディラボ執行役員 杉山拓央氏と、峰嶋聡子氏からは、同社の新商品「ワンパス」の紹介と、基幹商品であるオンライン英会話OLECOの新コンテンツ「東京都立高校入試のスピーキングテスト対策」が話された。
ワンパスは、各社の教育プラットフォームやコンテンツを下支えし、連携(ハブ)を担うLMS機能を搭載した「マイページ」であり、塾現場で利用されるいくつものICTコンテンツをシングルサインオンで一元管理できる。マイページでは、各コンテンツの学習時間などが表出され、子どもたち自身がどれくらい学習したのかを見やすく作られていることが紹介された。
「多くのICT教材が開発、販売されていますが、IDやPWがわからなくなったという、教室への問い合わせはとても多く、先生たちの時間の多くが学習指導以外に使われてしまっています。これは、学習塾のサービス提供という点から考えても、先生たちの労働生産性という点から考えても、非常に残念なことです。シングルサインオンが実現されるだけでも、学習塾に大きなメリットがあると考えています」と峰嶋氏は述べた。
「学習塾を支えたいという想いで商品開発を進めている弊社では、こうした取り組みに賛同いただける多くのパートナー企業と共に開発を進めています。ワンパスは、ICTコンテンツ開発事業者の皆さまの応援とご協力をもとに作られており、学習塾側の費用負担を考えていません。つまり、無料で提供させていただきます。OLECOをはじめ協力会社のユーザー様にはぜひ使い始めていただきたいですね」と杉山氏は話す。
週7日、自宅学習の管理を丁寧に実現し、少子化によるマーケットの縮小があっても、地域で選ばれる学習塾となるために必須のツールだろう。
もう一点、オンライン英会話の新コンテンツとして、「東京都立高校入試スピーキングテスト対策」が話された。学習指導要領改訂で、難しくなったとされる中学英語だが、公立高校入試でも発話に対して点数を付けることが始まった。同社では、音読を主とする問題や、4つの絵を見て表現させる問題など、その出題傾向を分析し、本試験に近いコンテンツを開発している。「スピーキング」と聞いただけで緊張して点数を落としたり、恥ずかしい気持ちから、英語に苦手意識を持っては、そもそも指導要領改訂が無駄になる。試験前に経験することや、英語でコミュニケーションができたという喜びを感じたことがあることが大切だろう。
[座談会]変わる入試 求められる英語力
教育開発出版(株)代表取締役 糸井幸男氏、(株)SRJ代表取締役 堀川直人氏、(株)アビリティ代表取締役 佐藤朋幸氏、プロジェクトリーズ(株)専務取締役 石田栄治氏を迎え、「変わる高校入試、大学入試、求められる英語力」「これからの学習塾」の2テーマが話された。
語彙数の増加だけでなく、意味を理解して使える単語を増やすことの大切さや、発話は「発表」と「やり取り」の2種類を意識して学習すべきことなどが語られ、学習塾の現場からは、「これまで学習塾の英語は、入試のための英語と考えられてきたが、今後はもっとその先、社会に出てから通用する英語力を育てることが保護者の信任を得るポイントになるでしょう」と佐藤氏は話した。
石田氏からは、「入試問題では、長文の文章量がとても多くなった。読みながら情報処理する能力を育てることが必要であることがわかります。これに対して学習塾が取り組むべきは、日頃からSRJコンテンツで読解力を養うことと、OLECOを使って英語の音を日常のものにしてあげることだと考えています。さらには、教育開発出版のCLIL(クリル)教材で、中学生が英語で書かれた数学の問題を学習することなども、塾ができる英語教育だと思います」と、サミット関連各社にも大きな自信を与える話が述べられた。
堀川氏は、「コロナ禍において、子どもの学習環境のICT化は加速したと言えますが、少し落ち着きだした昨今、大人の方が、『やっぱり対面指導で』『オンラインはもうやらないかも』と、コロナ以前に戻りたがる傾向を感じます。英語がICTと親和性の高い教科であることは、多くの人が感じています。今一度、後戻りすることなく、取り組む必要があると考えます。また、求められる英語力が高くなればなるほど、母国語の能力が問われることを強く感じます。母国語の理解力、発信力が英語力につながります。特に小学校低学年に、『国語力を養うことが大切である』と、伝えることこそが学習塾に必要なことではないでしょうか」と、強い提起でまとめた。
[座談会]これからの学習塾
2030年の学習塾をどう考えるかが話された。石田氏は、ICTコンテンツの特性を見極め、自塾にどう取り込んでいくのか、少子化の時代に、より多くの学力層に対して選ばれる塾であるためにはどう商品設計をしていくのかが肝要であると述べた。また、糸井氏は、そもそもなぜ、学習塾に通うのか、ということを再検討する時期であると提起した。「1970~80年代に学習塾が飛躍したのは、学齢人口の増大もあるが、実は、高校進学率が7割から急激に上がったことがあります。つまり受験の技術を教われば少し良い高校に行けるという社会情勢だった。今後の学習塾というのは、家庭の学習をどう捉えていくかということが鍵になると考えています。いわゆる科目の勉強だけではなく、問題解決能力を高める、自己肯定感を高めるということが大切です」と話した。
佐藤氏は、「やはり英語。これは、今後一番、学力格差を生んでしまいかねない。ICTを利用して、どう商品設計していくかが、今後の塾の安定経営につながっていくと思います。また、80年代には200万人いた子どもが、現在は80万人を割る状態。3分の1になる国力で、日本の未来は暗いとする論調も多々ありますが、教育で一人当たりの生産性が2倍にも3倍にもなるような価値創造こそが、本来教育に求められることだと考えます。子どもたちの能力をどう引き出せるのか。少子化によって、画一的ではない時代、新たなトレンドを創る時代、楽しい時代が始まったと考えたいですね」とまとめた。
[事例研究会]
オンライン上の会場をウェビナーからZoomに移し、オンライン英会話のユーザー同士が、互いの顔を見える場で情報交換を行った。英語嫌いにならずに小学生が取り組めるよう様々な工夫を凝らした「個個塾」、個別指導塾に必修授業としてオンライン英会話を組み込んだ「創造学園」、小学生向けのオンライン英会話を早期から導入し、地域の生徒・保護者から支持される「総合学習室アビリティ」、それぞれのグループに分かれて事例の共有会が開催され、各参加者からの質問や感想、自塾の取り組み紹介など活発な意見交換が行われた。参加者全員が積極的に参加する場となり、第9回オレコサミットは好評のうちに終了した。
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