記憶定着のためのプラットホーム「Monoxer(モノグサ)」
日本全国3,600教室が導入
「モノグサ」は、AIが生徒一人ひとりの記憶状況から得意・不得意を把握。英単語から漢字、数式まで憶えたい内容をその生徒にとって最適な形で出題し、学習の個別最適化や定着度の可視化を実現するeラーニングシステムだ。大手塾をはじめ、国内47都道府県の約3,600教室(2022年2月時点)に導入され、小中高生の成績を伸ばし、高い評価を得ている。
開発のプロセスや今後のビジョンについて、モノグサ株式会社 代表取締役 最高経営責任者 竹内孝太朗氏に伺った。
解いて憶えるアプリの開発に着手
憶える苦しさを子どもたちから取り去ってあげたい。そう思ったことがきっかけで解いて憶える「Monoxer(モノグサ)」(以下モノグサ)を開発しました。例えば、子どもたちはゲームの数多くのキャラクターを憶えることができます。人間は先天的に記憶する力を持っているのです。にもかかわらず「英単語を1000個憶えてください」と言われると「何から憶えよう」「忘れるんじゃないか」というストレスを抱えてしまう傾向にあります。こうした不安をどうすれば取り除けるか。現在、弊社の代表取締役CTOを務める畔柳圭佑と思案を巡らせていました。私と同じ高校の同級生であり、東京大学大学院情報理工学系研究科を修了した畔柳は当時、グーグル社でエンジニアをしていました。その畔柳と2012年から週1回ミーティングを開いて開業の準備を重ねていき、2016年に弊社を共同創業したのです。
記憶についての研究論文を読むと「テスト効果」といって、思い出す作業をすることが、長期記憶化につながることがわかります。つまり、テストで問題を解くというアウトプットが、実はインプットに最適なのです。そこで解いて憶えるアプリの開発に着手しました。
開発にあたって重視したのは、子どもたちに思い出すことを諦めさせないことでした。人間は無理だと思うと頭の中で思考停止してしまい、思い出すのをやめてしまうからです。こうして誕生した「モノグサ」は英単語から数式をはじめとして、5教科の問題を解いて憶えられるのですが、解いていく中で子どもたちの記憶の度合いによってヒントの量が変わる、つまり難易度が変わるようにしています。択一問題になったり自由入力の問題になったりして、頭の中で思い出す行為を諦めさせないようにしているのです。そして最終的には「気づいたらノーヒントでも解けた」という成功体験を積み重ねて記憶を定着させます。
AIが一人ひとりの忘却速度を算出
もうひとつ人間の記憶の特色として、人によって簡単に憶えられることと、なかなか覚えられないことが挙げられます。忘れるスピードも個人差があります。そこで、「モノグサ」ではAIが一人ひとりの忘却速度を算出します。この仕組みを発展させたのが「学習計画機能」です。「2カ月後にこの500個の英単語を覚えてもらう」と塾の先生方が期限を決めると、その日までの毎日の学習計画をAIが立ててくれます。塾の生徒さんはその計画通りに勉強していれば、すべての情報を憶えた状態でその日を迎えられるのです。
弊社は教育のすべてをICTが変えるわけではないと考えています。弊社は子どもたちの成績を上げるために生まれた会社です。学校の先生方にも「モノグサ」を使っていただいていますが、もともとこのアプリは塾様に向けて開発したものでした。日本のあらゆる教育機関の中で塾の先生方が最も生徒の成績を上げることに真摯だと感じたからです。この数十年で日本の塾の教育や指導のノウハウは世界的に見ても、ますます研ぎ済まされてきたと私は実感しています。参考書や問題集などの紙の教材も同様です。これらをすべてICTに変えたら、子どもたちの成績は伸びなくなるでしょう。
弊社では、子どもたちの成績を上げるためには「理解」「定着」「活用」の3段階があると考えています。「理解」は、わからなかったことがわかる体験です。塾の先生方でないと生徒さんに「理解」させることはできません。例えば、授業では、生徒さんがすでに持っている知識に置き換えて理解させます。分数ならピザやケーキの切り方に置き換えるのです。どの生徒さんにどんな例え話をしたら共感してもらえるか、機械であるAIには考えられません。人である先生方でないとできないのです。声かけも同じです。AIに褒められたり、励まされたりしても生徒さんの心には響かないでしょう。
次の段階である「定着」が、弊社の守備範囲です。「定着」させるには、主に反復学習が必要ですが、これは自学自習で済ませられます。ですから、英単語を憶える授業などないわけです。塾の先生方にはこの自学自習を「モノグサ」に任せていただきたいとお伝えてしています。
この自学自習によって手に入れた素材を使って難しい問題を解いたり思考したりすることが「活用」です。こうした発展的な学習も先生方の心の通った指導力が必要です。そこで「モノグサ」によって先生方の負担を軽くし、その分「理解」や「活用」に時間を割いていただけたらと思っています。
また、問題を解くのには紙が向いている教科もあります。数学の途中式を書くなら、iPadよりも紙のほうが解きやすいと感じる子どもたちが多いはずです。
10~15年かけて人の記憶量を10倍に増やしたい
「モノグサ」の機能のさらに充実させ、今まで以上に多くの塾様に導入していただくことを目指します。弊社は生徒さんのご家庭での学習状況の可視化や、塾の先生方のご指導や声かけによって、成績が上がると考えています。これらによって、生徒さんの態度変容が促され、自学自習にも変化が生まれるからです。塾の先生方と力を合わせ、これまで家で勉強しなかった生徒さんを家で自学自習させるようにし、その変化をともに喜んでいきたいと思います。
さらに重点課題として、モノグサのマーケットプレイスの拡大が挙げられます。これにより、出版社様の紙による教材をより価値のあるものにしていくお手伝いができると考えています。まず、プラットフォーム上に出版社様の問題集や参考書を掲載していただきます。そして、そのコンテンツを塾様が購入できるようにします。これらを塾様は生徒さんに配信できるようになります。こうして出版社様の事業が拡大していくわけです。
また、これまでの紙の教材では、教材による学習効果を比較・分析することは難しいことでした。一方、「モノグサ」は生徒さんが解いた問題を自動的に丸付けする「小テスト機能」が備わっているため、正答率から学習効果を測定できます。この技術を活かして、将来的にマーケットプレイス上に掲載していただいた出版者様には教材で学習したことが模擬試験に対してどれだけ有効だったのかといったデータを弊社からご提供できると考えています。マーケットプレイスの拡大によって、出版社様ととともに、より良いコンテンツを創り上げていきたいと考えています。
長期的なビジョンとしては、大それたことですが、これから10年から15年かけて、人の記憶量を10倍に増やせたらと考えています。10倍と聞くと驚かれると思いますが、江戸時代に農業に携わっていた人々の記憶量の平均値と、今の日本人の記憶量のそれを比較すると、10倍に増えているはずです。明治時代に入って義務教育が生まれ、紙と鉛筆を大量に生産できるようになって知的作業も増えました。当時と比べたら圧倒的に語彙が豊富になっているでしょう。幕末から現代に至るまで150年以上かけて、日本人はここまでの記憶量になったわけですが、今ならAIの力を借りて10 年から15年で可能になると私は確信しています。
子どもたちの記憶量が10倍に増えれば、全員の成績が上がり、進路選択の幅も限りなく広がります。今後、保護者の方々の協力も仰ぎながら、塾の先生方と心をひとつにしてこのビジョンを実現していくことが大きな目標です。