「塾と教育」2022前期セミナーin 名古屋
『秋からの集客』
[基調講演]
「これまでの塾」と「これからの塾」
本格的な少子化の時代を迎えて
「教育改革」という変革期を背景に、新型コロナウイルスの感染拡大による様々な変化を迫られている教育現場。加速するICTの活用、受験人口が減少する一方で学部・学科の新設や私立大の入学定員増など、様々な動きが見られる中、学習塾はどうあるべきなのか。生き残るためには何をすべきなのか。7月10日に開催された「塾と教育」2022年前期セミナーin名古屋では、こうした時代にあって、『秋からの集客』をテーマに、有識者による講演会を開催した。その中の基調講演 PS・コンサルティングシステム 代表 小林弘典氏の講演では、学習塾を取り巻く現状を分析し、打開策について言及。説得力のある内容に、来場者は聞き入っていた。主な内容をご紹介する。
学習塾業界が直面する4つの時代変化
冒頭、小林氏は、先に実施された参議院選挙や前年の衆議院選挙で、「教育改革」が争点になっていたことに触れながら、コロナ禍が追い風となり新しい時代の教育を考える上で重視すべき時代の潮流を、①少子化の進行 ②ICTの進化=DX ③学校教育・入試制度の改革 ④家庭の経済格差の拡大、という4つの課題に分けて説明した。
少子化について、小1生~高3生対象人口の推移(人/厚労省「人口動態統計」)、中学校卒業者の推移(人/厚労省「人口動態統計」)、都道府県別中学校卒業者数の変化(人/%/厚労省「人口動態統計」)を見てみましょう。中学校卒業者数の変化を見ると、例えば2022年に愛知県は6万9999人だったのが10年後には91・8%、15年後には77・0%まで減ります。いずれ全国の人口は3割減、約9000万人になると考えられています。
けれども、これまでも少子化だったわけですが、通塾率は以下の通りそれほど減っていません。市場規模も20数年間、それほど変わってない。これはどういうことかというと、客単価が上がっているからなのです(以上、文科省「子どもの学習費」)。
だからといって、客単価はこれ以上上がることはありません。ここ20数年間、所得が上がっていないためこれから先どうなるか、業界としてどう対応できるのか。
90年代半ば、専業主婦と有職主婦の割合が逆転したことと、団塊ジュニアの成長とともに「個性重視」が強調されるようになったことから、「個別指導塾」が興隆しました。つまり、時代(=外部環境)が変われば塾のあり方も変わります。時代の変化に対応できなければ廃業の恐れもある。
私自身、30数年間、〝どうやったら学習塾は生き残れるのか〟というテーマにずっと取り組んできました。最近、業者さんの集まりなどで「方法はもうないんじゃないのか」「先がみえない」という声が聞こえてくるようになっています。ひとつ言えるのは「これまでのやり方では無理だよね」ということです。
「これまでの塾」を脱却するために
では、対応策を考える前に、『これまでの塾』とはなにかを改めてみてみましょう。
これまでの塾の定義(塾として成立する要件)は、①初中等教育段階の児童・生徒を直接の顧客対象として ②指導者と児童・生徒とが直接対面する形で ③児童・生徒が学校で教授されている、主に知育分野の教科の学習支援を、補習的にあるいは上級校への進学対策的に行う民間の施設、または事業を営む民間の施設と言えましょう。
要件は足枷でもありますから、①②③のいずれか、あるいはすべてを取り去れば、「新しい教育サービス業」「別次元の学習支援業」になるのではないかと考えます。しかも「第4次産業革命期」を迎え、イノベーション人材への需要が急増中。何らかの専門的能力や突出したスキルを持っている人材が求められています。新たに勉強しなければならないことが増え、〝勉強したい人〟と〝教えたい人〟とをマッチングさせる新しいサービスを生み出す可能性は広がっているのです。
すでに始まっている「これからの塾」
まずは、顧客である児童や生徒に対面型の授業を行うという、「いままでの塾」から脱却しなければなりません。そのためには、顧客対象を幼児・保育・留学生、技能実習生、一般外国人・社会人(リカレント)・資格取得を目指す人などに広げていく。そして、地域・対面の枠を超え、オンライン・ICT活用の自立教材を活用した指導を行っていくことが重要です。
また、従来の「教科」の枠にとらわれず、プログラミングやロボット製作、速読、探究学習、キャリア教育、企業研修など、「指導要領」の枠から外れた分野において、強みを発揮できる「指導塾」に移行する方法もあります。さらに、今後は生まれつき突出した才能を有するギフテッド(Gifted)の児童・生徒を対象にした塾、金融リテラシーを身につける金融教育、「学び・遊び・生活を英語のコミュニケーションで行う預かり施設」である英語学童などといった多彩な塾がすでに動き出しており、幅広い「学び」の提供への多様化は加速しています。
「特徴」と「特長」のある塾が未来を拓く!
すべての学習塾に共通する対応策はありません。きちんと学習塾を経営していこうと思えば、現状を保ちつつ上向かせながら、対面とオンライン指導を併用するよう上手にシフトしていく。例えば、週1回対面授業を行い、他の日はオンラインで指導する方法もあるでしょう。目指すのは他塾にないものを持っている「特徴」のある塾であり、他塾にはあるが一番優れている「特長」を持っている塾です。
大学入試改革の目的は「学力の3要素」をバランスよく測る入試へのシフトですから、今後は難関大学でも「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」が盛んに実施されるようになり、今後ますますより多くの観点で評価する入試となっていきます。つまり、中小塾はより専門型へと変わることが求められるのです。最終的に生き残るのは、専門性のある塾だと言っても過言ではありません。立ち止まっていたら明日はありません。すぐにでも一歩踏み出す勇気を持ちましょう!
◎小中高生数 96年度 1708万人
18年度 1290万人(418万人減)
◎通塾率 96年度 公立小41.3% 公立中75.0%
公立高39.8% 私立高42.5%
18年度 公立小 39.1% 公立中69.3%
公立高37.8% 私立高38.2%
◎通塾者数 96年度 855万人
18年度 601万人(254万人減)
◎塾業界の市場規模 96年度 1兆4768億円
18年度 1兆3806億円(962億円減)