第10回 オレコサミット
2030年に向けて学習塾がいま解決すべき課題
去る2022年6月26日(日)、(株)スタディラボ(地福武史 代表取締役東京都文京区)主催「第10回オレコサミット」がウェブセミナー形式で開催された。利用者増と共に、徐々に参画するベンダーも増えている「ワンパス」を中心に据え、「ワンパスサミット第1回」を併称し、初期参画する各社代表からもその意気込みが語られた。DXが騒がれる今、学習塾は何に取り組むべきなのか、示唆に富む講話の数々と共に新たな企画の展望が発信された。
[基調講演]業界展望
(株)市進ホールディングス代表取締役会長 下屋俊裕氏は、一般企業と学習塾業界を比較しながら、コロナ禍によって加速した社会の変化、今後の学習塾業界の課題を述べた。
「ここ数年のオンライン化、IT化の波は、社会において、機能の変化、非接触の生活、遠隔、必要な時に会社に行けばいいなど利便性が増し、導入当初は生産性が下がったが、通勤困難やラッシュの解消、経費節減なども相まって、満足度も上がってきている。これに比べて教育業界では、学校の休校措置に伴ってやむを得ずオンライン対応が始まり、当初の子どもたちは学習しづらい状況だったが、「学びを止めない」という多くの対応がなされ、今は慣れてきたと言えるだろう。通塾は、その行為そのものが「学びの準備」であって、学習の起点になる。オンライン学習にも疑似的空間を共有することが必要だろう」
また、経営面についても、「オンラインを手段として持っていると、今後の経営に安心感があることや、より積極的に、オンラインを通塾圏外の子どもを集める手段として新たなビジネスにできないかという期待が高まっている。デジタル化の進展、普及に伴って、自宅で家族と過ごす時間が増えており、地方移住もできる、ネット一つで仕事も食生活もOKとなった今、リアルな体験をどうつくっていくのかが、今後の課題にもなってくるだろう。」と指摘した。
地域の過疎化、少子化に対する取り組みにコロナが加わり、デジタルコンテンツへの取り組みが加速していることについても言及し、「デジタル化で見落とされる点は何か。手の記憶は目の記憶に勝ると思います。GIGAスクール構想のキラーコンテンツ『デジタル教科書』を利用しながらも、書籍から得る、読後のあれ何だっけ?という気持ちや、辞書で調べる際のブラウジング効果がなくなってしまうことをどう教育に取り入れるのか、辞書を引いた記憶、書きまくった記憶、筆圧が記憶に結びつくことをよくよく考え、デジタルコンテンツは、目の記憶を定着させることが課題でしょう」と結んだ。
[代表講話]
2030年に向けて、今学習塾が解決すべき課題
続いて、(株)スタディラボ代表取締役 地福武史氏が登壇した。
経済産業省「令和2年2月28日付DXレポート2」の、DXの3段階(デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーション)を、学習塾業界に置き換えて解説し、現在はその第2段階「デジタライゼーション」の位置にいることを述べた。
(サミット 代表講演資料より)
オンライン化が加速した昨今、ICTコンテンツも数を増し、教育の現場ではその取捨選択が進んでいる。同社では今春より「ワンパス」をリリースし、提供するすべての商品の入口を「ワンパス」に一元化。多くのICTコンテンツ提供会社との連携を図り、デジタライゼーションを大きく推進していく戦略を描いている。
「自塾におけるOS(オペレーティングシステム)は何かを考える、『それがあれば全てにつながっていく』という環境を作り出すことが重要です。DXの初期段階では、労働生産性の向上、経済合理性の向上ということを考えましたが、DXの第2段階では、『学習生産性の向上』つまり、学習塾の根本である『学習をどうするのか』に取り組んでいくべきだと考えています。教材を教えるではなく、教材で教える。書かないこと、書けないことは実現しない。書くことは大切で学習の根本だが、その管理はデジタルで行える。子ども部屋をDXすることを考え、『家庭学習を楽しいもの』にしたいですね」と述べた。
また、その手段として、大手プリンターメーカーのEPSONと共同開発した「StudyOne」が紹介され、今後の学習塾業界の取り組みを示唆した。
[定期講話]
この先にある塾の再生2
(株)スタディラボ取締役 横田保美氏からは、前回テーマの続編が多彩な資料、データと共に話された。
学習塾業界の推移、現況をライフサイクル理論に照らし合わせながら、現在、通塾率という観点からは普及の限界がきていることを明示した。そのほか、衰退原因として学習塾のコモディティ化(市場価値が低下し、一般化すること)と、大手フィルムメーカーのコダックを事例に、テクノロジーの進化について言及した。
さらに、市場の変化を「チャイルドショック」と表現し、年3%の出生数マイナスが続くと、どれほどの市場の縮小を見越さなくてはならないのか、その結果起こる、大衆教育の終焉と、価値観の変化について、ICTをどう活用していくのかが話された。「家庭学習をマネタイズする」をキーワードとし、今後多様な学びの場を作ることが肝要であり、学習生産性の向上と、塾経営のコストダウンを両立させることが、今後のDXに必要であることを示した。
ワンパス紹介・ベンダー座談会
(株)スタディラボの峰嶋聡子、杉山拓央 両執行役員からは、「すべての学習塾に最新のマイページを」をコンセプトとする、同社のデジタライゼーション戦略商品「ワンパス」が操作説明を含めて案内され、初期の参画ベンダーとして、教育開発出版(株)代表取締役 糸井幸男氏、(株)SRJ代表取締役 堀川直人氏、(株)学書 代表取締役田村茂彦氏の座談会として今後の期待や展望が話された。
糸井氏からは、「学習塾業界の活性化」「家庭学習市場の開拓、活性化」が強い期待と共に話され、「非通塾生はまだまだ700万人いる、通塾生500万人にも当然、家庭学習市場を開拓したい。『コーチング』は、学習塾の得意とするところ、多くのLMSや良質なコンテンツを導入して、きちんと月謝をいただく。そのことがとても重要で、業界を元気にしたいというのが私の夢です」と話された。
田村氏からは、大手学習塾の決算状況を示しながら、タブレット学習の進むところが強いように見受けられるとして、DX推進の必要性が説かれた。
「子どもの入退室の履歴、学習の履歴が取れるLMSが開発されてきたことで、良質な動画教材も増えてきている。これらは、学習場面の多様化を生んでいることは明らかであり、今後は、企業の枠を越えて取り組むことで、子どもたちにとって学習の利便性が上がっていくだろうと考えます。ワンパスもその一つですが、良質なLMSができたからこそ、家庭学習を市場として取り込めると考えています」と述べられた。
堀川氏からは、「むしろ、子どもたちのITリテラシーが先生よりも上がってしまっているケースも多く、その一つで通信制高校などの生徒数増が考えられる。こうした中で家庭学習はより大切になると思います。つまり、授業の概念、通塾に対して課金するのではなく、学習管理、学習習慣に対して価格を設定していくことが大切ではないでしょうか。ICTの導入は、私の肌感覚では、全国学習塾の60%強ほどが取り入れているだろうと感じていますが、『ICTコンテンツの数は1つだけ』という塾は少なく、一度そちらに舵を切ると、いろんなものを取り込んでいく宿命みたいなものを感じます。このことにワンパスの取り組みはとても役に立ちます。通塾のLTV(ライフタイムバリュー)という観点からも、『卒塾後も家庭と繋がっていける強力な価値』を感じています。みんなそのことに、まだまだ気がついていないかもしれない。ワンパスの今後がとても楽しみです」とまとめた。
三社代表は、「DXで新しい学習塾の形態が生まれる。デジタル、アナログというよりも、どう学習管理を可視化するかが大切であり、家庭学習を市場として取り込むことに乗り遅れないようにしたい。今後も良質なコンテンツを作って、楽しい学習塾をつくっていきたいですね」と結んだ。