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    川合正先生による記念講演
    「言葉を届ける 声掛けひとつで子どもは変わる。」

全日本私塾教育ネットワーク 第20回 塾長・職員研修大会
川合正先生による記念講演
「言葉を届ける 声掛けひとつで子どもは変わる。」

2023-06-01

4月23日(日)、全日本私塾教育ネットワーク(以下、私塾ネット)主催による第20回塾長・職員研修大会が、きゅりあん(品川区立総合区民会館)で開催された。
第1部は参加者のグループワークと自己紹介による情報交換会。第2部の研修大会では、学校法人東洋大学京北幼稚園園長・文京区私立幼稚園連合会会長の川合正先生による記念講演「言葉を届ける声掛けひとつで子どもは変わる。」が行われた。川合先生は各地の教育委員会や小中高校などの要請で、これまでに500回以上の講演を行い、親子のコミュニケーションの大切さを訴えている。

「未来の子どもたちに伝えたいこと」

[左] 私塾ネット  最高顧問 谷村志厚氏  [右] 私塾ネット  会長 鈴木正之氏

[左] 私塾ネット 最高顧問 谷村志厚氏
[右] 私塾ネット 会長 鈴木正之氏

第1部の情報交換会は私塾ネット会長の鈴木正之氏(いぶき学院学長)の司会で幕を開けた。続いて私塾ネット最高顧問の谷村志厚氏(AIM学習セミナー代表)が「3年ぶりに皆さんと対面で研修会を開けることを本当にうれしく思っております」と挨拶。次に鈴木氏が情報交換会の進め方について説明した。会場の入口で参加者に配られた用紙に「A」から「H」までのアルファベットが記されている。これが座席番号になり、同じテーブルになった参加者同士がグループを組んでディスカッションをするのだ。また、用紙に「リーダー」と記されていた参加者がグルーブのリーダー役となる。
「グループごとに話し合っていただくテーマは『未来の子どもたちに伝えたいこと』です。この情報交換会は、第2部の川合先生のご講演の序章として企画しました。また、これを機会に多くの方とお知り合いになられることも目的としております。初めてお目にかかる方もいらっしゃると思いますので、名刺交換をしながら話し合ってください。時間は約15分です。リーダーになられた方は、グループの意見をまとめて1分ほどで発表してください。その後、お一人おひとり、会場の皆さんに向けて自己紹介をしてください」(鈴木氏)
発表では次のような意見が出てきた。
「この3年間、コロナで満足できる学校生活を送れずに不登校になった子たちも増えています。こうした子たちに『目の前にあることを頑張れば、将来、必ずよいことが待っている』と伝えたいと思っています」
「子どもたちを取り巻く環境をつくっているのは、まわりの大人たちなので、何を伝えるかを考える前に、私たち大人が多くのことを学べば、未来は変えられるのではないでしょうか?」

会話が弾むチェーンインタビューを

情報交換会の様子

情報交換会の様子

情報交換会の後は、第2部の研修大会へ。まず、主催者である私塾ネットセンター理事長の田中宏道氏(LAPIS鎌ケ谷代表)が挨拶。続いて私塾ネット研修部長の仲野十和田氏(ナカジュク塾長)が挨拶した。次に来賓である全国学習塾協同組合理事長の森貞孝氏が祝辞を述べ、その冒頭部分にあえてChatGPTを使ったことを明かした。
「私は間もなく90歳になります。新しいAIによって突然、このような文章が20秒ほどでつくれるようになりました。こうした驚くべき経験がこの年になってできてよかったと思っていますので、もうしばらく頑張るつもりです」

[左] 私塾ネット 研修部長 仲野十和田氏 [右] 私塾ネット 理事長 田中宏道氏

[左] 私塾ネット 研修部長 仲野十和田氏
[右] 私塾ネット 理事長 田中宏道氏

そして、いよいよ今回のメインイベントである川合先生の講演へ。先生は登壇すると、園長を務める幼稚園でのほほえましい日々について語ったあと、会場の参加者に向けて「私を生徒だと思って質問してみてください」と呼びかけた。すると参加者から「川合先生はなぜ幼児教育の大切さに気づいたのか教えてください」「先生はご自身の経験をベースに子育ての本を書いていらっしゃるのですか?」といった質問が寄せられた。川合先生はこれらの質問に答えたあと、次のように述べた。

祝辞を述べる、全国学習塾協同組合 理事長 森貞孝氏

祝辞を述べる、全国学習塾協同組合 理事長 森貞孝氏

「これを調査的インタビューと言います。しかし話すのが苦手な子どもにとって、このような質問に答えるのは難しいことでしょう。そこで、子どもたちに質問する時には、相手の言葉を使うチェーンインタビューをすることをお勧めします。会話が弾むからです。
チェーンインタビューは子どものお母さんにも使えます。例えば私の幼稚園でこんなことがありました。園児のお母さんが『うちの子が大変なことをしてくれたんですよ』と嘆いていたので、私は『どう大変なんですか?』と聞き返したのです。するとお母さんは『だってね。私のアイロンを使ってビニール袋を張り合わせようとしたんです』と答えたので、私は『アイロンはどうなりました?』と聞くと『もう使えなくなりました』と答えました。そこで私は『探究心のあるお子さんですね。どこかで見て、試してみたかったのでしょう。お子さんは将来伸びますよ』と言うと、お母さんは喜びました」

結果ではなく、プロセスを褒めること

インタビューの話をして会場の雰囲気を和ませたあと、学校法人東洋大学京北幼稚園園長・文京区私立幼稚園連合会会長 川合先生のファシリテートによるワークショップに移った。近くの席に座った参加者が数人のグループを組んで、子どもたちの行動に介入する時の留意点を考えるのだ。参加者は次の①から⑥までの順番に介入について話し合い、まとめた意見を発表した。
①自殺など命の危険や万引きなど犯罪の危険がある「危機介入」②泣いたり物を壊したりする「SOS発信」③ゲームがやめられないといった「習慣化の怖れ」④教室のガラスを割ってしまうなどの「うっかりミス」⑤暴言を吐くといった「思春期の反抗」⑥「親や教師への不満」である。
例えば、あるグループは②「SOS発信」に関して「頭ごなしにこうなのだと決めつけたり、先回りし過ぎて大人が答えを言ったりしないことが大切だと思います」と発表。これに対して川合先生は「そうですね。先回りするよりも、子どもをよく観察することが必要です」と述べた。
④「うっかりミス」に関して、あるグループは「子どもがガラスを割ったら、まず『大丈夫だった?』と聞きます。そして、『夢中で遊んでいて、割っちゃったの?』と子どもの気持ちになって質問してあげたらよいと思います」と発表。これに対して川合先生は「さすがですね。その通りです。まず、ケガをしなかったかを聞くなど、相手を気遣うことが教師としての基本姿勢です」と語った。
⑤「親や教師への不満」に関して、あるグループは「まず、何に対して不満があるのかを子どもに聞きます」と発表し、川合先生は「上から目線ではなく、対等の立場で話を聞くことが重要です」と述べた。ワークショップを終えたあと、川合先生は「怒る」と「叱る」は大きく違うことを、「ブラックエンジン」と「ホワイトエンジン」を例にして述べた。「ブラックエンジン」は、恐れやプレッシャーなどの動機だ。
「かつては運動部の監督に怒られるのが怖くて、部員たちが勝つために猛練習するというケースがありました。これでは今の子どもたちは監督についていけません。これが『ブラックエンジン』です。一方、『ホワイトエンジン』は感謝や貢献、信頼からくる動機です。愛情を持って叱ることで、子どもは努力しようとします」
そして川合先生は「感情的に」ではなく「理性的に」、「自分のために」ではなく、「相手のために」、「過去に焦点を当てる」のではなく「未来を見据えて」、「怒りと勢いで」ではなく、「愛と勇気で」、「自分の言いたいように」ではなく「相手に伝わるように」、「感情にまかせて」ではなく「試行錯誤しながら」、「相手を批判するように」ではなく、「相手を認めながら」声がけすることの大切さを説いた。
「では、褒めれば子どもは伸びるのでしょうか?そうではありません。褒め過ぎると、将来、社会に出た時に打たれ弱くなったり、自信過剰になったりする傾向があります。褒める時は、結果ではなく、プロセスを褒めましょう。子どもがテストで100点を取れたことを褒めるのではなく、毎日、夜遅くまで勉強したことを褒めるべきです。また、ダメなものはダメと毅然とした態度で子どもに接しましょう」

ペップトークが心に火をつける

講演する川合正先生

講演する川合正先生

続いて川合先生は「信頼関係がすべての始まりである」と力説。「YOUメッセージ」を「Iメッセージ」に変えるだけで、教員と生徒、親と子の関係は劇的に変わると述べた。
「『君はどうして毎日、遅刻するんだ?』が『YOUメッセージ』です。『毎日、遅刻するから、先生は君のことが心配なんだよ』が『Iメッセージ』です。では、会場の皆さん、練習してみましょう。いつもはクラブを終えて18時までには帰ってくる中2の娘さんがいます。今日は20時になっても帰ってきません。困りましたね。事故にでも遭ったのか心配で、玄関でウロウロしていると、ガチャッとドアが開いて娘が帰ってきました。あなたならこの娘さんにどう声をかけますか?」 この声がけについて参加者が発表したあと、子どもの相談に乗るためのワークショップに移った。
「子どもが『あ~あ、学校に行くのいやだな』と子どもがポツンと言いました。あなたはこの子どもにどのような言葉かけをしたらよいと思いますか? グループを組んで、生徒、教師、生徒、教師という順番で会話を考えてみてください」
あるグループは次のような会話を発表した。
生徒「あ~あ、学校に行くのいやだな」
教師「誰だって学校に行きたくない時はあるよ。先生もそうだったんだ。何がいやなの?」
生徒「言いたくないよ、先生には」
教師「言いたくないのか? でも、心配だからさ、他に言える先生はいるの?」
生徒「保健の先生なら言えるかも」
教師「じゃあ、勇気をもって話してみようよ。先生も一緒に行くから」
生徒「じゃあ、保健の先生と話をさせて」
教師「わかった。放課後一緒に行こう」
生徒「わかった、行くよ」
こうした発表の講評を述べたあと、川合先生はペップトークについて語った。ラグビーなどのスポーツで監督が、試合に出る選手たちを励ます声がけである。
「例えば、明日、大事な入試があるとします。教室では、みんな緊張して顔がこわばり、いつものような明るい笑い声もありません。教師はこの子どもたちにどのような言葉がけをして試験場に送り出せばよいでしょうか?
まず、ペップトークでいう『寄り添う人』になりましょう。『明日の試験で、行く高校が決まるんだ。緊張するのは当たり前だよ』と子どもの気持ちに寄り添うのです。次に気づきを与えます。『だけど、君たちはこの1年間、一生懸命勉強したじゃないか。それにまわりを見てごらん。クラスにはこんなに仲間がいるんだ。全員、君たちの応援団だよ』と気づかせるのです。最後に未来に導きます。『合格したら素晴らしい高校生活が待っているぞ』や『どんな結果であろうと、君たちが努力したことは、両親もクラスの仲間たちもみんな認めてくれるはずだ。そして今日まで努力したことが、将来、君たちの力になるんだよ』と、その先が明るい未来であることを伝えるのです。ペップトークはこのように子どもの心に火をつけます」

未来を切り拓くダイアローグ

講演会の様子

講演会の様子

次に川合先生は、未来を切り拓く対話として「ダイアローグ」を紹介した。
「こんな場面を思い描いてください。ある人と話していたら『ロシアは正しい。 ウクライナのゼレンスキーが早く降伏すればいいのだ』と言いました。私は、ロシアが悪いと考えていたので驚いて心の中で、この人とは話せない。早く席を立ちたいと思ってしまいました。このような場面ではどのような会話をすればいいのでしょうか。 このまま突き放してしまったのでは発展がありません。
しかし、意見や感覚の違う人とでも建設的な対話ができれば、未来を切り拓く可能性が出てきます。そのための方法のひとつが『判断評価』の保留です。自分は席を立ちたい気持ちだけれど、それは保留して、相手がなぜ、こんなことを言ったのかを傾聴するのです。よく聞いてみると、この人はロシアがミサイルを打ったら、地球が滅びると思って『ゼレンスキーが降伏すればいい』と口にしてしまったのです。すると、自分の判断も変わってきます。これを『学習と変容』といいます。
もうひとつ『リアルタイムリフレクション』という方法もあります。自分の内面を客観的に振り返るのです。すると、彼と話したことによって、視野も広がり、少し違う見方もできるようになったことに気づけます」次に子どもの相談に乗る時の態度を点検するようにアドバイスした。
「子どもの目を見て、笑顔で相槌を打ちながら笑い、『へーすごいね』と感心しつつ、身を乗り出して聞きましょう」
そして最後に川合先生はイギリスの哲学者と政治家の言葉を紹介した。
「もし我々が、今日の子どもたちを昨日までの子どもたちと同じように教えているなら、それは彼らの未来を奪うことになるだろう」(哲学者 ジョン・デューイ)
「教師になるためには預言者でなくてはならない。なぜなら彼は30年ないしは50年先の未来のために、生徒を準備させているわけだから」(第74代首相のジェイムズ・ゴードン・ブラウン)
2人の言葉も、川合先生の言葉とともに参加者の心にしっかりと届いたはずだ。


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