スタディラボ スペシャルオンラインセミナー
「変わりゆく社会の中で教育業界はどう生きるか?」
9月28日(木)、スペシャルオンラインセミナー「変わりゆく社会の中で教育業界はどう生きるか?」が開催された。主催は、教育ICTコンテンツの開発や学習塾の運営を行う株式会社スタディラボ(地福武史代表取締役社長、東京都文京区)。
同社取締役の横田保美氏が「止められない『少子化』民間教育の使命と可能性」をテーマに、株式会社サイタコーディネーション代表取締役・教育学博士の江藤真規氏が「保護者の『困り感』から紐解く望ましい家庭学習への関与」をテーマにそれぞれ講演。最後に「学ぶ場としての家庭の可能性を探る」をテーマにして、2人のスペシャル対談が行われた。
教育DXが可能にする「5W1H」からの解放
(株)スタディラボ 取締役 横田 保美 氏
「塾業界の多くの方々が口にされるのが少子化問題です。この影響で子どもたちの入塾が減り、高校入試が易しくなって塾に通う必要がなくなり、夏期講習も集まらなければ、通年の塾生募集もうまくいかないという話を耳にします。
子どもにとって受験勉強が重要視されなくなってきたことが、学ぶ意欲に大きな影響を与えてきているかもしれません。そこで、今、教育業界で何が起きているのか、これから何が起きるのかを今日は話をしていきます」
横田氏は冒頭でそう語ると最近の出生数と対前年減少率を示したグラフなどを紹介。小学生の数が2027年から、中学生の数が2030年から、高校生の数が2033年からそれぞれ激減し、これからは3年で子どもが1割減っていくと述べた。
「加速する少子化で、学校が、塾が、受験が消えていきます。こうした変化の一番の被害者となるのは子どもたちです。では、私たち大人はこの未来にどう立ち向かえばいいのでしょうか?」
こう投げかけたあと、横田氏は「旧大陸から新大陸へ」という言葉を、塾や教育の再生に向けたフレーズとして掲げた。
「『旧大陸』というのは、戦後日本を支えてきた受験主義、大衆教育社会です。私たちは塾業界のためではなく、子どもたちの未来のために『旧大陸』に見切りをつけ、教育の平等性や機会均等を創り出していかねばなりません。そのために必要なことは、教育DXが可能にする『5W1H』からの解放です。いつ、どこで、何を、誰から、どのように、何のために学ぶのか。子どもをこの『5W1H』から解き放ち学習者中心の学びに変えていくことが、塾の進化に求められていると私は考えています」
そこで求められるのは、労働生産性と学習生産性の向上であると力説。子どもの通塾負担と講師の指導時間を減らして学習成果を伸ばし、子どもを塾や学校に縛り付けないことが大切であると述べた。
「私たちは家庭という『新大陸』に目を向けるべきだと考えています。そのための武器となるのが弊社の『Study One』です」「Study One」は家庭学習の成果を「見える化」することで労働生産性を上げながら家庭学習をマネタイズできる学習管理システム。家庭学習によって通塾負担をなくし、指導時間を減らして学習成果を伸ばすことができる。
「子どもたちの学びをいかに再生するか。 そのために塾はどのようにして新しい教育価値を創造したらよいのか。 今こそ、塾の原点に立ち返り、これらを考えていくことが私たちの課題だと思います」
今の塾に求められているのは保護者へのエンパワーメント
(株)サイタコーディネーション 代表取締役 江藤真規氏
続いて江藤氏の講演。子育ての孤立化や教育の多様化、情報過多の中で悩める保護者が増加していると述べ、その困り感の一つが「相反する2つの価値観の中で揺れ動いてしまう」ことだと語った。
「特に母親は自分がどういう立場で子育てをしていったらよいのかジレンマを抱えています。例えば、父親と母親の両方がフルタイムで働いていたとします。時短勤務をするのは概ね母親です。そして育休明けに職場に戻ったとします。上司はこんなことをおっしゃるかもしれません。『よく戻って来てくれたね。君は子育て中だから出張がないように配慮したからね』。さて、この言葉はどうこの女性の心に届くでしょうか? もしかすると『第一線から外されてしまった』と思うかもしれません。そして『それなら、私は子育てで成果を出さなければいけない。私が認められるのは子どもの成果なんだ』と思ってしまうこともあるでしょう」
もう一つの困り感が「子どもの勉強が気になる」ことだ。江藤氏の周囲には育休復帰後にすぐに職場に戻ったにもかかわらず、子どもが小学校に上がるタイミングで仕事を辞める人たちが少ないという。
「かつて親が子どもの勉強を見ていました。しかし、このような習慣はこれから減少していく傾向にあると思います。もちろん、子育ての責任は親にあります。しかし、家庭だけに任せることには限界があります。家庭学習を充実させるためには、人的環境や物的環境の変化、新しい発想が必要ではないかと私は強く思います。
例えば、保護者の言葉が変わると、子どもの勉強に対する姿勢が変わります。『ぐずぐずしていないで、今日の宿題をやりなさい!』という言葉が『お疲れさま。宿題をやるのにどのくらい時間がかかるのかな?終わったら一緒にお茶を飲もうね』という言葉に変わるだけでも子どもの気持ちや姿勢は変わってくるのではないでしょうか。
学習塾の先生方も『お母さん、頑張ってください。勉強をさせてください』というような働きかけだけでは、なかなか家庭学習はうまく回っていきません。ですから、今こそ、家庭との連携がとても重要だと心から思います。今、塾に求められているのは、勉強の成果を出すことだけではなく、保護者をエンパワーメントとすることではないでしょうか。子どものことを自分以外に知っている先生がおいでになるからできること。これが塾の圧倒的な強みであると私は感じます。
学校や塾からは宿題を出したり、様子を伝えたりしながら、家庭への支援をなされているでしょう。しかし、この支援は一方向であり、見えない壁が2つの間にあるのかもしれません。この関係を双方向にすることはできないでしょうか。もし少しでも家庭と学校、塾の関係が双方向になっていくならば、子どもたちの学びというのはもっと豊かになり、壁が取り払われた時に保護者の困り感は薄まるのではないでしょうか。
子育てが深刻な悩みになっている保護者がたくさんいます。保護者を気にかけてください。保護者の声を聞いてください。保護者に働きかけてください。そして、保護者から『先生ちょっといいですか?』という言葉を引き出してください。子どもが学校や塾で頑張っている姿、闘っている姿を保護者に伝えてください。そうすれば、家庭学習の器は大きくなるはずです。これが塾の家庭学習への望ましい関与だと思います」
未来はもっと豊かでワクワクする社会になる
横田氏・江藤氏によるスペシャル対談
横田 これまでの塾には子どもたちを塾の中に閉じ込めてしまったという反省があると思います。
江藤 私たち大人が想像する以上に子どもは伸びていきます。そこで、家庭という場の伸び代をもっと増やしていくために子どもを信じて、楽しく伸びていくような環境を塾だけでなく家庭内にも整えていくとことが重要だと思います。
横田 塾で多くのことを教え、授業が終わったあとも子どもを自習室で勉強させることは、受験を考えれば効率的かもしれません。しかし、教える側の都合ばかりを優先することが子どものためになるのか疑問です。そこで、自主的な学びの場として塾が家庭に注目しなければならないと思います。
江藤 私は学ぶことが子どもにとって非常に重要だと思っています。学ぶプロセスを通して、悔しかったり、悲しかったり、嬉しかったりと、様々な感情体験できることに大きな価値があるからです。その学びの定義が大きく変わってきているので、家庭で何をすればよいのか迷っている保護者がたくさんいるのです。
横田 確かに今は保護者が経験したことのない学びが子どもに押し寄せてきています。英語を学ぶ目的も、今の子どもと親世代とは違います。プログラミングも、親世代は経験していません。子どもから相談されても、保護者はどうしていいかわからないでしょう。ですから、江藤先生がご講演の中でおっしゃったように塾と家庭との強い連携が必要だと思います。
江藤 「大変な時代がやってきた」というお話を教育に携わる方々からよく耳にするようになりました。しかし、小さい頃から英語が話せるようになったり、プログラミングを学ぶことができたりして今の子どもたちはハッピーだと思うのです。少子化などネガティブな出来事は起こっていますが、塾と家庭が共同連携をし、教育を通して子どもたちからもアイデアをもらえば、未来はもっと豊かでワクワクする社会になるのではないかと感じています」