2024年SRJ経営勉強会
業界激動を見据えた必勝経営、人材採用
株式会社SRJ(代表取締役社長 堀川直人氏、東京都中央区)は、6月12日(水)、fabbit丸の内にて、会員対象のクローズドなセミナーを開催した。会の冒頭、堀川社長が挨拶し、日々の気づきが得られる「教育百貨店チャンネル」平野夏紀氏を紹介した。その後、株式会社エヌイーホールディングス(愛知・名古屋市)代表取締役社長 佐藤 武寛氏に続き、株式会社ケーイーシー(奈良・生駒市)代表取締役社長 小椋 義則氏・人事部 執行役員 藤田 優子氏が登壇。日本の民間教育を牽引してきたリーダーたちが、常勝するためにいかに尽力してきたか、また、未来を見据えたビジョンを語った。概要を紹介する。
【講演「学習塾の存続戦略を考える」】
株式会社エヌイーホールディングス 代表取締役社長
佐藤 武寛 氏
エヌイーホールディングスの沿革
本日のテーマ、「学習塾の存続戦略を考える」ということで、経営モデルは百社百様、経緯や歴史はそれぞれですが、弊社の歴史が何かヒントになればと思います。
本社は愛知県、現在5塾31教室を運営しています。1974年創業の栄光学園(個別指導)と1976年創業の西塾(集団指導)が2002年に合併して、個別指導と集団指導の株式会社エヌイーホールディングスが誕生しました。Nはにしじゅく、Eはえいこうがくえんの頭文字をとって社名としました。その後、事業部・教室数を増やし成長する中で2023年5月より株式会社エヌイーホールディングス(栄光学園・西塾・進学塾サンライズ・名古屋個別指導学院・コンプリートパス)は、学研塾ホールディングスにグループインさせていただきました。
エヌイーホールディングスの塾経営
5つの事業部(ブランド)があります。西塾は「ふつうの子をトップ校へ」をコンセプトに、東海・滝・南女など中学受験で伝統と実績を誇ります。進学塾サンライズは、小学生および中学生を対象にした集団指導塾で、旭丘や明和などの公立トップ校や、東海や滝、西大和学園などの難関私立高校にも多くの合格者を出しています。東大・京大、名大、国立医学部への合格を目指すコンプリートパス、高校受験・大学受験に強い名古屋個別指導学院、栄光学園は地域の個別指導のパイオニア塾です。西塾の高校受験部がサンライズになり、栄光学園をフランチャイズ化し、それぞれの事業部は専門性を持たせ進化させていっています。指導理念は、創業当初から「子どもたちの未来のために」。まずは地域社会に対して貢献していく。地理的・経済的などの要因で塾に通えない子どもたちへのサービスを考え、まずは、地域社会に対して貢献すべく主に不登校の子ども達に向けたサービスとして来春、通信制高校のサポート校「Gakken高等学院」開校も準備中です。
また、地域外のサービスとして、地域的経済的問題を抱える子どもたちのサービスを考えオンライン学習塾「NEオンライン校」が今春スタートしました。
利益体質企業を目指して
西塾と栄光学園が合併した当初、個別と集団ですから、理解し合うまで時間がかかりました。集団は名門校へ送っているという誇りがあり、個別とは価値観が異なっていたのです。また、「うちの事業部はこんなに儲かっている。おまえのところはどうなんだ」というセクショナリズムもありました。現在は、評価制度を統一して運営。事業部の交流も活発に行っています。
利益体質の企業を目指し、①家賃 ②広告宣伝費(コストが高かった時と抑えている今とで効果を比較したがリアクションはあまり変わらなかった)③人件費のコスト削減を徹底しています。
百社百様の経営モデル
◆人件費(組織マネジメント)
弊社では、少数の幹部による文鎮型組織(ピラミッド型組織と違い、横並び)を採用しています。しかし、内部統制やリスク管理などが厳しい学研グループにグループインしたので組織を拡大していく方向性で考えています。
◆人事評価(現状とこれから)
昔から社内独立制度に似た制度を設計・運用してきましたが、現場で終身、仕事をしたいという方に向け、物心両面に誇れる環境で働き続けられる制度を整えています。待遇改善は必須ですから、今後はベースアップ(R6年4月に実施〈5%アップ〉)やワクワク感のあるインセンティブ(報奨金)など、細かく人事評価をして実施してまいります。
◆学研グループインの衝動
グループインに関しては、社員にどう伝えるかを悩みましたが(昨年4月くらい)、よくも悪くもネガティブなリアクションはほぼなく、粛々とスタートしました。理由は、過去の合併の経験で経験値があったことや、混沌とした時代ですからどんなことにも耐性ができており、変化に鈍感になっているのではないかと思う反面、不安よりも期待の方が大きかったのではないかとも思います。
集団指導の高校受験部門躍進の一考察
集団指導の高校受験部門では、躾や挨拶、道徳などを細かく社員が指導し、長時間学習が特徴です。確認テストに受かるまで残って勉強するという昔ながらの泥臭いことをやっています。
特筆すべきは、コロナ禍で過去最高益を更新したことです。
コロナにより臨時休校となり、自宅待機で傷んでいく子どもたち、行動制限により居場所を失い迷走する子どもたちを見てきました。コロナだからしょうがないという風潮を経験し、成長を阻害された子どもたちに何ができるのかを考え、休校はせず対面での通塾スタイルを貫きました。週1回の検査は徹底し、安全管理に努めた上で責任を果たそうと思ったのです。厳しい意見と同時に感謝の言葉もいただき、結果としても、生徒が増えました。
◆集団指導における事業部方針
学習塾に求められることは、本質の徹底的な追及をするということ。競合大手とどう差別化して戦っていくか、やることを決めてシンプルに実践することです。
最重要活動として、集団指導の高校受験部門では最難関の旭丘高校合格を全校舎から出すのをテーマにしています。今春の結果は29名合格(愛知県で3番目くらい)、30名超えを狙い戦います。また、中学受験大学受験における集団指導においても、地域トップ校の合格にこだわった戦略・方針を取っております。
大手集団塾との差別化において、教材はいいですが、社員採用では敵わない部分も多く、且つ、校舎・設備に関しても見劣りしております。校舎開校日数、指導時限数は大手ではできませんし、社員の在校時間・準備時間はできるまでとことんやるのをさらに強化。質より量でカバーしているのが現状です。今後は人を採用・育成し教室展開をしなければならないと考えています。
「半世紀の伝統を継承し輝く未来へ」。ロゴも一新し、ミライへ向けスタートしています。
【講演「採用戦略・事例紹介」】
株式会社ケーイーシー 代表取締役社長 小椋 義則 氏
人事部 執行役員 藤田 優子 氏
KECグループについて(小椋代表)
今まで決して順風満帆だったわけではなく、いろいろなチャレンジをして失敗し、それでもめげずにひたすら突き進んでまいりました。
売上高推移(ゼミ、個別、東進)では、ゼミが13年間で213.3%伸長、個別が13年間で409.3%伸長と、16期連続の増収。新規投資にもチャレンジしています。1000億企業を目指して教育業界の社会のインフラになりたい!という思いで業種問わず様々な業界ナンバー1の企業を見学させていただき、ネットワークの構築を努めながら徹底的に研究。ノウハウを吸収しています。
Purpose(パーパス)として掲げているのが、『学びと「生きる」をつなげる。「生きる」と社会をつなげる』生きていく力を生かす、社会に生かし貢献することを考えています。
勉強を行う中でただただ勉強しなさい!ではなく、きちんとゴール(夢や目標)を作り自ら意思を持つことの大切さを伝えています。そしてゴールから逆算して、計画を立てやりきる力を育むことが将来につながる力につながると考えています。またこれまでの学業だけに留まらず、プログラミングなど実務に関わる内容を、例えば入口をゲームにして〝好き〟から取り組めるような仕掛けを作ることで子どもたちの好奇心が実務や将来の仕事にもつながる教育コンテンツを作っていきたいと考えています。
2024年度からはHR(Human resource)事業部を立ち上げ。アルバイトの評価ランクを5段階に分け、就職時にアピールできる仕組みを構築中。小~高校までが学びの期間ではなく、大学生こそが〝働く〟という実践を通じた学びがあるはずです。大学生アルバイトが本気になることが自社にとっては業績や顧客満足に直結しますし、大学生にとっては次の就職活動にもつながるはずです。こういった好循環を日本中に広げていくことができないか?と考えています。
採用戦略・事例紹介(人事部執行役員 藤田優子氏)
本日は、KECの採用手法の手の内を明かします。弊社は、リンクアンドモチベーション主催の従業員モチベーション調査でランクイン。2010年から取り入れ、従業員のモチベーションを重要指標にし、従業員の偏差値・スコアをあげることを追いかけています。
関西経営品質賞(*)においては、2022年に金メダルを受賞。KECの①「人間大事の教育」の実現に向け、G-PDAを核とした取り組み ②重厚な採用プロセスから始まる心理的安全の確保、組織力の強化 ③計画的に進められている次世代のリーダーの育成、この3つの強みを評価いただきました。また、神戸大学MBAの授業にてKECの組織運営についての研究・講義を行いました。
*関西経営品質賞は、「〝良い経営〟を通じて関西から世界に誇る企業・組織を輩出する」ことを使命として関西経営品質協議会によって創設された賞制度。
「優秀な人材確保」採用戦略
KECでは、2019年から新卒内定承諾者数20名前後を安定的に採用。その戦略について解説します。
①ターゲット学生を変える
教育業界を志望している人はもちろん、「人」に関わる業界を志望している人もターゲットにしています。人が好き、一流のサービスへの興味、マネジメントをしたい成長意欲の高い学生が対象です。
②ターゲット学生が入社したいと思う「会社」をつくる
優秀な人に入社してもらうために、様々な文化の醸成や制度の構築を図ってまいりました。年2回の従業員モチベーション調査(良い会社のKPI)やエンゲージメントサーベイの項目に合わせて整えている制度を紹介します。
◆成長機会(キャリアアップや学習の機会)
「給与は自分で決めまっせ~プレゼン」では、内定者時代に頑張っていたことを入社時に経営陣にプレゼンする→教室長になる人もいます。「ベクトル共有勉強会」では、毎月、代表や経営幹部の研修動画が配信され、ベクトルの摺り合わせを行います。「社員合宿」は、年に1回の全社員合同研修会。毎年のテーマに沿った研修とチームごとの成功事例を共有します。仕事の仕方や時間管理のさせ方などを習得させるために、「オリジナル手帳『ロードマップ』」を配布。逆算志向を鍛えます。
◆職場環境(職場の雰囲気や人間関係)
採用のために(笑)「学生が働きたくなる大阪オフィスあべのハルカス」をつくりました。また、本音や夢を語り合う憩いの場として「サウナ」を設置。いろいろな社員と交流してほしいという思いから公式の「サークル制度」を考案(活動費を会社が負担)。全社員で新人を歓迎する「新人歓迎会」、学期に1回、会社が飲み会代金を負担する「のみにけ~しょん制度」(参加すれば評価にも含まれる)などを整えています。
◆業務内容(仕事の内容、達成感)
半年に1回、各チームで目標達成に向けて戦略を練り、業務整理と役割分担を実施する「経営計画達成シート」。「業務マニュアルや社内ルール」では、自分の役割に応じてやるべきことを可視化。迷った時の判断軸になり、数年後のキャリアも描きやすいです。
◆リーダーシップ(上司やリーダーのサポートがあるのかどうか)
「本気の日報」では、入社時や異動時は最低3カ月間、期待値の確認と目線合わせのため、上司と1対1の日報やり取りを実施。マネジメントのハンドリングを行い、目線合わせをします。月に1回上長とのミーティング「1on1MTG(ロードマップMTG」で進捗確認やモチベーションの確認も実施します。
◆報酬と福利厚生(給与や評価表彰の納得感)
「Kick off Meeting」は、年1回、3時間の方針共有と5時間にわたる表彰式。アルバイトも含め活躍した人を徹底表彰します。年1回「社員合宿表彰式」では、チーム・人を徹底表彰。成功事例をプレゼンします。「給与のルール説明」は入社時に徹底。1時間かけて摺り合わせします。また、目標数値達成の場合、代表・幹部から「メッセージつき決算賞与」を支給。「在宅勤務の導入」、「企業主導型保育園」(新卒の7割ほどが近年は女性)など、長く働ける制度が充実しています。
③ターゲット学生にだけアタックする
KECの採用フローは一般と同じですが、最初の会社説明会くらいまでに採用したい人材に狙いを定め、効率的に採用しています。
なぜそんなことができるのかというと、性格やパフォーマンスを可視化しているからです。本選考が始まるまでに、できるだけ早いタイミングで「性格・適正テスト」により能力や性格、思考性を定量化します。「性格テスト」は自社で開発しており(東京大学との共同開発)、社内での「欲しい人材」を徹底解析したところ6つの特長がありました。6つの要素を持った人を指標化しているため、母集団形成時に基準を満たす場合はマーキング。「採ると決めて」クロージングに向けてストーリーを描きます。
④内部の優秀な学生講師にもアタックする
アルバイト採用時にも性格テストを受けてもらい、学生講師にはタイミングを見て声を掛けます。相互理解や組織(一緒に働く仲間)へのロイヤリティを向上させるために、グループディスカッションやワークショップを実施。楽しみながらKECに馴染んでいく施策を実施しています。学生の普段の頑張りもしっかりアウトプット&可視化。「優秀な学生」を発掘して性格テストとセットにして評価。そしてハンティングします。
採用コンセプトは「My life is like a movie」〝人生は映画のよう〟。一人ひとりの人生と会社のビジョンが紡がれ交わる。人の可能性は学歴や書類だけでは絶対にわかりません。そんな想いのもと、引き続き頑張ってまいります。
閉会の挨拶(SRJ 堀川代表)
学んだことを次の一歩へ。英知を集約し、何ができるかを考えてみていただきたい。スピード感、やり遂げる力が確実に塾の力になってくると思います。客観的に足りてない部分、強みなどを捉えていくことも大事。SRJはコンテンツだけでなく、会員様同士のつながり、ネットワークも強みです。それを活用していっていただきたい。皆さま、長時間ありがとうございました。