第32回 実用数学技能検定「数検」グランプリ表彰式典
第32回実用数学技能検定「数検」グランプリ(以下、「数検」グランプリ)表彰式典が7月31日(水)、学士会館(東京都千代田区)で開催された。主催は、実用数学技能検定(以下、数検)や算数検定を実施している公益財団法人日本数学検定協会(東京都台東区、髙田忍理事長)だ。「数検」グランプリは、積極的に算数・数学の学習に取り組んでいる個人・団体の努力を称え、今後の学習や指導の励みとする目的で、成績優秀な個人・団体を表彰する制度である。今年は2023年度における受検者の中から計24団体112人が各賞に輝いた。なお、最年少の受賞者は7歳、最年長の受賞者は78歳だ。
喜びを胸に受賞者たちが臨席
「数検」グランプリの個人賞には「金賞」「文部科学大臣賞」「会長賞」がある。令和5年4月から令和6年3月に数検を受検した合格者の中から優秀な方々に対して「金賞」が、さらに卓越して優秀な方々には「文部科学大臣賞」が、また、ご家族やご高齢の方などで優秀な成績を収めた方々には「会長賞」が贈られる。
昨年度1年間の数検志願者数は約30万1000人。その合格者の中から今回、「金賞」に19人、「文部科学大臣賞」に7人、「会長賞」に5組7人が選ばれた。
このうち今回の式典に臨席したのは、14組16人。なお、「文部科学大臣賞」を受賞した7人のうち6人が小中学生であり、若年層の活躍が際立つ結果となった。
団体賞については、昨年度1年間の中で、数検を実施した団体の中から優秀な成績を収めた団体を4カ月ごとに選出し、「奨励賞」として表彰。その「奨励賞」を受賞した団体の中からさらに審査を経て「金賞」を選定する。その「金賞」の中で6つの部門から卓越して優秀な団体に対して各部門1団体ずつに「文部科学大臣賞」が贈られる。6部門とは「高等教育」「高等学校」「中学校」「小学校」「公教育団体」「一般団体」。
また「文部科学大臣賞」と「金賞」を受賞した団体の中から長く数学の指導に携わって成果を挙げた先生方には「生涯学習功労賞」が贈られる。
昨年度1年間の数検実施団体は約1万6000。その中から今回、「金賞」に18団体が、「文部科学大臣賞」に6団体が選ばれた。
このうち今回の式典に臨席したのは「文部科学大臣賞」を受賞した6団体の先生方だ。なお、「生涯学習功労賞」には79人の先生方が選ばれた。
数学はどの分野でも必ず役立つ
「今、パリではオリンピックの熱戦が繰り広げられています。今朝のニュースで、柔道の永瀬貴規選手が2大会連続で金メダルを獲得したことを知りました。6歳から自己研鑽を積んでいった成果だと聞いています。
皆様も数学に興味関心を持って自己研鑽に励んだ成果として、今日、この場にお集まりいただいています。学生の皆様は今回の受賞を糧にこれからの人生を切り拓いていただきたいと思います。社会人やシニアの方はこれからの人生をさらに豊かにするためのパートナーとして数学と長くつきあっていただきたいと願っています。今日は、本当におめでとうございます」
(公財)日本数学検定協会理事長の髙田忍氏がこのように開会の挨拶をしたあと、同協会会長・東京大学名誉教授の甘利俊一氏が次のように挨拶した。
「AIが時事刻々と進化しています。私がAIにユークリッドの定義について聞いたところ、きちんと答えてくれました。これから、みなさんはこのAIを使いこなし、考える喜びや楽しみをさらに高めていってほしいと思います。数学はそのためにちょうどいい題材になるでしょう。みなさんが全員、数学者になるわけではありませんが、どの分野に携わったとしても、数学が大好きだという心は必ず役立つはずです」
生涯学習の振興にも非常に有意義
続いて文部科学省 総合教育政策局 生涯学習推進課 リカレント教育・民間教育振興室室長の西明夫氏が来賓として次のように祝辞を述べた。
「このたびの受賞は数学の基礎となる数量・図形に関する知識から、知的活動の基盤となる数学的思考力や表現力に至るまで、皆様が数学の技能を確実に身につけてきた成果であり、学ぶことを通じて未来を拓こうとする強い意欲の証となるものです。文部科学省といたしましても、多くの方がこの検定にチャレンジされていることは、生涯学習の振興を図る上でも非常に有意義なことであるというふうに考えています。
東京には完璧に美しく高層ビルが建ち並んでいます。私はこの街並みを見るたび数学や建築、測量に対する畏敬の念を感じざるを得ません。数学は素晴らしい学問です。皆様には人々を幸せにするという目的を念頭に置き、これからますます数学のスキルを高めていただきたいと思います」
最後にNTT ExCパートナー取締役 教育ICT事業部長 国立大学法人大阪教育大学理事産学連携担当の西田文比古氏が来賓として次のように祝辞を贈った。
「数検の頭には『実用』という言葉が付いています。これは普段の生活や仕事、また学校での学びに役立つことを意味していると私は解釈しています。試行錯誤を繰り返しながら、問題の答えに辿り着くということがいかに重要かは、私が40年間仕事をしてきて実感したことです。皆様には、これからもいっそうの努力をしていただきたいと思います」
受賞が勇気と希望を与えてくれた
そして、いよいよ表彰式へ。まず「文部科学大臣賞」の団体賞から。名前を呼ばれた団体の代表者6人が登壇し、西氏から賞状と副賞として記念の盾を受け取った。
続いて「文部科学大臣賞」の個人賞。対象となる階級は1級から5級までの7つの級で、各級から1人ずつが選ばれる。今回は6人の受賞者(3級の受賞者1人が欠席)が登壇し、同じく賞状と副賞として図書カードを受け取った。
次に「会長賞」。2組4人が臨席し、甘利氏から賞状と図書カードを受け取った。
表彰式のあと、受賞者を代表して3人が挨拶。
「文部科学大臣賞」の団体賞を受賞した雲雀丘学園中高等学校の井上雅喜氏は次のように述べた。
「本校では20年にわたって年1回、数検の受検を実施してきました。この間『金賞』や『奨励賞』をいただくことができ、生徒たちにとっては大きな励みとなっています。生徒たちは数検を通じて明確な目標を持ち、自主的に数学に取り組んでいく姿勢を獲得しています。この姿勢は大学生や社会人になっても自ら何事にも挑戦していく礎になると信じています。今回の『文部科学大臣賞』受賞は生徒たちに、努力を続ければ必ず報われるという希望と勇気を与えてくれました」
「文部科学大臣賞」の個人賞を受賞した新井直也氏は次のように語った。「私は中3の時に3級と2級を受検し、高校では数学オリンピックに出場して成績優秀者になりました。そして社会人になってからもう一度、数検を受検したいと思い、1級にチャレンジして合格しました。
ここ数年でAIをはじめとするテクノロジーが急速に発展を遂げるなど、従来の常識が通用しない時代になっています。そんな今、どんな変化にも対応できる論理的思考力がますます求められていると思います。思考力を鍛えるためには数学の学びが必要です。しかし、その重要性がまだまだ認知されていないと感じています。
そこで私は去年、会社を辞め、数学の教育に関わる事業を始めました。この仕事を通じて、少しでも人々の数学力の向上と社会の発展に寄与できたらと考えています」
「会長賞」を受賞した井口順二氏は喜びを次のように口にした。
「私は今、72歳です。70歳を過ぎて、こんなにも華やかな舞台に立てるとは夢にも思いませんでした。私が数検を受検しようと決めたのは69歳で、47年間のサラリーマン生活を終えた時でした。何かを始めようと考え、かつて数学が好きだったことを思い出して勉強を始めたのです。そして一昨年は3級に、昨年は準2級と2級に合格できました。今年の秋には準1級に挑戦する予定で、75歳までに1級に合格することが目標です。
こうして目標を掲げると張り合いを感じ、充実した時間を過ごせるようになりました。どうもありがとうございました」