来年45周年の学研教室
子どもたちや保護者の「一生の担任」であり続ける
学研グループの創業者・古岡秀人氏は、戦争で荒廃した日本を見て「戦後の復興は教育をおいてほかにない」という強い信念を持ち、学習研究社を興した。満足な教科書を持たない子どもたちのために教材を作りたい─。という思いから『学習』という雑誌が生まれ、教育雑誌、学習参考書、辞書、辞典等教育関係の出版を中心に出版社として大きな発展を遂げた。これらの教材を使い、直接的に子どもの学習をサポートする方法として学研教室が開設されたのは1980年のこと。来年、45周年を迎える学研教室のあゆみや今後の展望を(株)学研エデュケーショナルの代表取締役社長・川端篤氏に伺った。
地域のコミュニティとして、一生の担任として、子どもたちと関わる
学研は学習雑誌や参考書などの出版事業からスタートした会社です。学校での販売や各家庭へ直接お届けする訪問販売を経て、直接的に子どもたちをサポートする方法として学研教室が開設されました。当時は男女雇用機会均等法ができる前で、女性の社会進出が難しい時期でした。家庭に入った女性が自宅で地域の子どもたちに勉強を教えるということでスタートした事業でした。当初はご自宅の一室に開設するケースが多かったのですが、女性の社会進出も進み、世の中が変化していくに従って、ご自宅ではなく公民館などの施設を借りるケース、テナントとして場所を借りて行うケース、ショッピングセンターの中での開校や、スイミングスクールやそろばん教室との提携、幼稚園・保育園に先生を派遣し教室を開くなど、いろいろと形を変えながら展開を続けております。対象は、幼児から高校生。様々な年齢に対応する指導ノウハウを持つことから、昨今は学習塾の中に学研教室を取り入れてくださるケースも少しずつ増えています。幼児から小学生を学研教室、中学生からはその学習塾の本科へ進む形です。現在は全国の小学校の近くに1つは学研教室があるような状況にまでなりました。
かつて、子どもは地域のコミュニティで育てるものでした。何か悪いことをすればおじいちゃん、おばあちゃん、地域の大人が叱ってくれる。地域でしつける、叱る環境がありました。核家族化が進んだ現在では学研教室の役割も変わってきています。子どもたちだけでなく、子育ての悩みや迷いを抱える保護者へのアドバイスなど、これまで地域のコミュニティが担っていたことを求められています。
学研教室では学習の習慣づけや生活のリズムを整えること、そして自ら計画を立てて学習することを全教室で徹底しています。やるべきことをきちんとやる。自立や自己管理といわれる部分ですが、社会に出ると「学習」が「仕事」に代わるだけで、絶対に必要なことです。異学年が同じ部屋で学習することも大きな効果をもたらしています。幼児がいて、小学生がいて、中学生や高校生もいる。先輩が学習する姿から学び、後輩の面倒を見る。または手本となるよう少しばかり格好つける。この特徴的な空間がしつけの面でも大きな役割を担っているのだと思います。
小学校では担任の先生がほとんどの教科を担当しますが、内容が高度になる中学校以降は教科ごとに専門の先生が教えるようになります。小学校と中学校以降では担任が関わる頻度に大きな違いが生じます。これは学校だけでなく学習塾もそうです。学研教室では同じ指導者が幼児から中学生や高校生まで担当するため、一人の指導者が長く子どもや保護者と関わります。そのため、大学生や社会人となっても「先生、元気?」と気軽に顔を出しにきます。卒業生が教室のアシスタントとしてサポートしてくれることや、親子どころか三代に亘って通ってくださるご家庭もあります。学研教室の指導者を私たちは「一生の担任」と呼んでいるのですが、保護者や子ども達からは第三の親のような存在と認識されているようです。
変えていくことと、変えてはならないことを大切に全国で毎月、研修会を開催
45年の歴史の中で、ゆとり教育があり、脱ゆとりがあり、大学入試改革があり、学習指導要領にもずいぶんと変化がありました。その度に私たちも教材を改定し、指導者にも改定した教材全部を勉強してもらっていました。ただ、ゆとり教育で学習内容が3割カットされた際には、教材から外すのではなく「学校では学習しないけどできる子はやってみよう」と注釈をつける形で残していたところ、その後の改定で復活したのですから私たちの判断は間違っていなかったと思います。
時代と共に変えていかなければならないことは多々あり、特にここ数年はその変化のスピードがとても速くなっています。教科系はもちろんのこと、非認知能力や子どもの可能性をどれだけ引き出せるかについても期待されるようになり、コーチングのスキルも求められています。現在、全国に設けた69の事務局に地域のスタッフを配置し、各地域で先生方に向けた研修会を毎月実施しています。コーチングのスキルについてはICF(国際コーチング連盟ワシントンDCチャプター)の会員ライフコーチであるボーク重子さんに協力をいただき、専用のプログラムを作成しました。指導者も時代の変化に合わせながらずっと学び続けています。45年も続いてこられたのはひとえに指導者の子どもたちに対する情熱があるからだと思います。子どもたちが自立して生きる力を身につけること。その理念はだけは絶対に変えてはいけない私たちの理念であり、信念です。
海外では学研教室展開を加速、国内は乳幼児部門を強化へ
現在、マレーシアやベトナム、ミャンマーなど8カ国で展開する海外の学研教室を2030年までに35の国と地域に広げ、会員数を40万人規模へと目指す考えです。日本は教育で伸びた国です。アジア諸国の中にはかつての日本に近いと感じる国もあり、戦後の日本が辿った成長の軌跡を模倣しながら科学雑誌で培ってきた科学系コンテンツやプログラミングを取り入れ、STEAM教育を実践してまいります。
国内では乳幼児の部門の強化を図ります。2020年には(株)小学館集英社プロダクションより「小学館アカデミー」、「イーコラボ」を、2021年には(株)綜合教育センターより「知育教育めばえ教室」を事業譲受しました。また、0歳から2歳児と保護者を対象にした親子参加型の教室「0・1・2PetitPas(プティパ)」を2018年から開講しています。保護者の悩みは年齢が若くなればなるほど出てきますので、親子レッスン型のコースから始めて、買い物のついでに子どもたちが勉強していくような幼児教室を目指していきたいと思っています。ほかにも学研幼児教室というブランドもありますが、こちらは幼稚園の正課や課外に組み込んでいくパターンで人気があり、近々の契約数は過去最高となりました。日本の国力を上げていくにはやはり「人」です。少子化だからこそ、一人ひとりを大事に育てることが大切です。良い先生、良い教材、良いカリキュラムが人財育成の基盤となるでしょう。学研にはその全てが揃っています。
2023年度の日本民間教育大賞で日本の民間の教育に貢献された75歳以上の方に贈られる「民間教育最高功労賞」を学研松原教室の指導者、清水逸子さんが受賞しました。清水さんは学研教室が始まった年に指導者となった1期生で、今もなお現役の指導者です。お年を召され、ご主人を亡くされてから心が内向きになっていた時に地域の方から「続けてください」と望まれ、教室を続けたそうです。学研教室から受賞者が出たことに社内でも教室の指導者の方々もとても嬉しそうに話していました。こういう指導者が弊社にとっての誇りでもあり財産でもあります。今後も世界中の子どもたちのために努力し続けてまいります。