STUDYPLUS AGENDA 2024
いま考えるべき教育と経営の論点【DAY2】
第1回 スタディプラスアジェンダ【DAY2】
少子高齢化を背景に、644万人の労働力不足が予測される「2030年問題」が迫る中、教育機関での人手不足や生徒の学習環境・意欲の変化、高校・大学入試形態の多様化などが進んでいる。このような環境を背景に、教育業界も新たなビジネスモデルや技術の活用、教育ニーズの変化に対応し、今そして未来の子どもたちに教育サービスを提供し続けることが求められている。
スタディプラスでは、2日間にわたって教育業界の方々と課題や具体的な戦略を共有。前号に続きカンファレンス2日目の内容をダイジェストで紹介する。
Youtube はこちらから
https://www.youtube.com/@StudyplusAgenda
Session 2-1
スタディプラスが考える教育と経営のこれから
モデレーターを務めたのはスタディプラス株式会社 取締役COOの宮坂直氏。スタディプラスは2010年創業。個人学習者向けの「Studyplus」、教育機関向けの「Studyplus for School」2つのアプリを運営する教育データ専業のプレイヤー。個人学習者向け実績でのメインユーザーは中学生と高校生。中1生ぐらいからユーザー登録が進み、高3生頃には年間アクティブユーザーとして、大学受験生6割がスタディプラスを利用。法人・教育機関向け実績は、学校、学習塾、通信制高校やサポート校、フリースクール、社会人スクールなど全国2600教室で利用いただいている。官公省庁との取り組みも多い。宮坂氏は同社に2017年入社、事業部長として「Studyplus for School」を統括したあと、2018年3月に取締役就任。同社参画前は株式会社カカクコムにて食べログ本部でネット予約・予約台帳事業責任者として事業を牽引。
SPEAKERは、株式会社安藤塾代表、スタディプラス株式会社社外取締役、公益社団法人 全国学習塾協会会長の安藤大作氏。1991年安藤塾を開設。2009年、社会福祉法人「むげんのかのうせい」を設立し、幼児教育から子どもの人格経営に取り組む。公益社団法人全国学習塾協会会長、経済産業省「未来の教室」とEdtech研究会オブザーバー等を歴任し2018年6月よりスタディプラス株式会社社外取締役に就任した(敬称略)。
宮坂 多様化する子どもたちの価値観と、一方でますます進む生徒募集難、人材採用難をどうするか。あるべき教育と経営についてお話しできればと思います。
安藤 人口減少時代というのは、格差拡大時代ともいえます。特に受験においては都市と地方の差は甚だしい。人口減少している地域はすごい勢いで減少しており、維持しているところと比べてその格差は拡大しています。その格差を埋めるのがデジタルであり「Studyplus」というサービスが子どもたちの笑顔を増やす。特に地方の子どもたちの笑顔につながると思います。
子どもたちを元気にさせる人が足りないならば、何をもって誰がどうやって元気にさせるのか。デジタルをうまく活用することで1人が3倍の力で効果・影響力をもって子どもたちを元気にさせることができます。夢や希望を持たせるために必要なのは情報です。都会と田舎で2極に分けるわけではないですが、都会ではどんなことをやっているのか、どんな世界が広がっているのかを知らず、また、それを知らせる人もいない中で時間だけが過ぎていく。空間を越え、時間の有効性を高めるというのは非常に有意義なこと。「Studyplus」のサービスをどのような視点・観点・信念をもって活用していくかに可能性がありますね。
Studyplus for Schoolの取り組み
宮坂 大手進学塾の事例ですが、1つの画面にすべてのサービスデータを集約。チューターが迷わず使いこなせる構造になっています。こうしたデータの一元管理により、成績が向上した生徒の傾向やチューターの可視化が進み、上手な活用例は全国の全スタッフと共有。標準化し足並みを揃えて指導に活かしています。学生チューターも職員も生徒一人ひとりの学習動向を全把握、効果的なタイミングでの声かけや面談により個別最適化も進んでいると聞いています。学習管理は、意外と時間がかかります。個別指導をなくしたのに面談で1時間かかってしまっては本末転倒。自立学習型の成功の秘訣は学習管理をいかに効率化するかだと思います。学習意欲・通塾意欲、学ぶ意義を高めるためには先生方とのコミュニケーションが大事です。生徒の学習記録を先生と共有し、先生はそれを見てコミュニケーションを図る。もともと熱心な先生方がいる塾の事例ですが、超多頻度コミュニケーションという号令を塾長がかけ、いっきに非同期コミュニケーションが進みました。結果として年間退塾率も半分以下になり、国公立大合格も伸びたそうです。
安藤 企業、学校、塾のいずれも、新しい人材を育てる時間が不足しています。日本は事務の時間が多いので、そこをフォローして人を育てる時間を創出したい。入試においては、倍率が低下しているからやり抜く理由がない、そこまで頑張らなくていいし、選択肢も広がっています。かつては、やり抜く意欲、根性という美徳がありましたが、根性は理由になりません。目には見えない価値や頑張る理由をつくってあげないといけません。気にかけてくれる先生がいると志が生まれたり、頑張って喜んでもらいたいと思う。偏差値などの外発的な理由を内発的なものに。デジタルを活用して引き出すことに可能性があります。
例えばダイエットに成功する人は毎日体重計に乗っています。「いいぞいいぞ」と、自分で自己成長していくことを面白がることが大事。それが自分を好きになりやり抜く力になっていく基本だと思います。
Session 2-2
超人手不足時代における本部機能の考え方
ここでのSPEAKERは2名。1人は、学校法人信学会 学び事業部課長の細谷智彰氏。細谷氏は長野県を中心に幼児教育から大学入試まで幅広い活動を行う。中高・予備校生の受験指導を担当。同組織の次世代教育開発部Nextpass(現システム情報部)に所属し教育系アプリ開発に携わる。予備校担任、高校生塾部門の統括を経て、学び事業部にて信学会組織のサービス設計に従事している。
もう1人は、株式会社創造学園 第二事業部統括代理の廣瀬平八氏。廣瀬氏は2023年、株式会社創造学園入社。個別指導ブランドの高校部責任者として、指導カリキュラムやシステムの整備・構築を統括している。前職では、関西の進学塾で高等部(集団指導)・個別指導部を立ち上げ、教材作成から人事採用まで全般的な運営に従事した。
宮坂 日本全体として深刻な人手不足へ。少子化の打ち手として高校生指導の伸びしろはいかがですか。
廣瀬 弊社は集団クラスで中学生の指導を行っているのですが、高校に行ってからも勉強を続けたい、自分の目標があるからそれを達成するために行きたいというニーズが増えています。私は兵庫県在住ですが、人手不足は県内でも差があり、質的な人手不足の面もあります。対面個別指導を続けていますが、映像授業で補完し、学習管理に力を入れることで人手不足をカバーしています。
細谷 いくつかの拠点で授業をすることが増えています。移動が増えると教室にいないことが多いので生徒と接点をとって勉強を進めていくためにオンラインを活用しています。年内入試、総合型選抜、それを組み合わせた国公立型受験、学校推薦型公募制などの対策に戦略を立てるのは時間がかかります。どの大学を選ぶのか、課題の作文、面接、情報収集など対面コストもかかります。人材不足は深刻です。
宮坂 継続の難しさや取り組みについて教えてください。
廣瀬 中3から高校生に進級するときに指導形態が集団授業なのか、個別指導の中でも対面なのか映像メインのコースなど、選択肢を数多く用意。個々の生徒が大事にするものを提供する形で進級活動をしています。中学部の先生が親身に指導されている中で「あなたに合う受講スタイルはこれだよ」「こういうやり方をすれば高校に行ってもうまくいく」という提案をします。中学と高校で共通のプラットフォームや共通のサービスを軸に、コミュニケーションの頻度を落とさず、「高校に入るとこうなんだな」と理解を深めていきます。
細谷 弊社では、幼稚園、小学校、中学、高校、予備校の、つなぎ目のところにミッションを達成するプロジェクトリーダーという役職を配置しています。また、それぞれのブランドがあり、ブランド責任者がいます。ニーズが多様化しているので、中学生部門からICTを使うラインナップを増やし、地域ごとの特色もあるので地域統括を置いて拠点を守る先生、エリアを守る先生たちが現場の実情に合わせて即応できる体制を整えてあります。
宮坂 高校指導、中高継続を法人全体で動くことになったとき、どのように束ね、浸透させていますか。
廣瀬 高等部、中高連動で指導しますが、高校生活に馴染んでスタートダッシュできるよう気を配ります。日頃の学習管理を教室と本部が共有し、「ここに気をつけたほうがいい」など「Studyplus」のアナリティクス機能を活用しています。紙で管理していたら見えないところもあるし、数値化できるものとできないものもあります。
細谷 情報が本部に集まっているので「地方の独自性に合わせた対応をしましょう」「組織全体、現場の人と話をしていきましょう」「各統括は話に行ってください」「経験部門が違っても関係をつくっていきましょう」「解決するためにはこれがあるね」と具体化しています。ちょっとした変化に気づくことができ、コミュニケーションをとり、本部と現場の方が同じ目線で考えていることが大前提です。
宮坂 スタディプラス(*)の導入の背景は?
細谷 10数年前に「次世代教育開発部」ができたときから学習記録を残せるアプリを探しており、「Studyplus」に辿り着きました。集団授業で〝もう一つの強み〟を作りたかったという思いもあります。
廣瀬 映像授業を始めてから学習管理を「Studyplus」で徹底しようということになりました。授業だけの対応では足りなくて24時間1週間、どう関わっていくか。生徒の動きをリアルタイムに把握でき後押しできるのが魅力です。
(*)スタディプラスは学習記録のデジタル化とコミュニケーションのプラットホーム。タイムラインの画面は、日々の投稿の学習記録版、先生方はいいねとかコメントでフィードバックできつ。もうひとつはアナリティクス画面。一目で可視化できます。
Session 2-3
超人手不足時代におけるデジタル教材の可能性
SPEAKERは2名。株式会社ウイングネット代表取締役社長、株式会社市進ホールディングス常務取締役の荻原俊平氏。株式会社学研ホールディングス上席執行役員、株式会社学研塾ホールディングス取締役ほか、学研グループ(株)文理および(株)学研メソッドの代表取締役会長、市進グループのジャパンライム(株)会長、(株)アイウイングトラベル取締役、2016年(株)ウイングネット代表取締役就任。映像授業「ウイングネット」「ベーシックウイング」「スーパーウイング」を3000拠点を超える幅広い教育機関に提供している。
もう1人は株式会社スタディラボ代表取締役の地福武史氏。地福氏は大手進学塾を経て2015年にスタディラボを設立。数多くの民間教育企業の経営改革や成長支援に関わる。日本最大規模の子ども向けオンライン英会話「OLECO」を企画・販売。中学受験の講師としても活躍し、開成をはじめとした御三家中に500名以上の合格指導実績を誇る。(株)エデュライン代表取締役、(株)ライトエデュケーション取締役、公益社団法人全国学習塾協会常任理事、会員制難関受験専門塾elio代表でもある。
宮坂 人手不足の対策としてICTツールを導入したが「ICTツールを社員や講師が使いこなせない」「生徒のICTコンテンツの学習継続ができない」などの声があります。人手不足とデジタルの関係性、成功例と失敗例、これからの展開についてお話ししたいと思います。
地福 私は25年ほど教鞭をとっていましたが、自分のやっていた時代と今の時代の違いは如実にわかります。短時間で革新的に時代が変わっていく中、超少子化における最大の課題は市場がシュリンクすること。10年あると構造は大きく変わります。9年前に起業しオンライン英会話は8年になりますwi-fiやタブレットも当たり前になり生産性が向上しました。10年、20年、30年、教育業界を見てきて、まったく違う世界観で生産性を上げるために自信を持ってICTの利活用を進められます。
荻原 塾の市場は1兆円規模。このノウハウをいろいろな方向に展開できる可能性を感じています。Z世代がZ世代に教える時代、ICTも使いこなせる。この世代に産業で活躍していただくにはリカレント、リスキリング、デジタルは不可欠です。一方、便利になるということは人間が弱っていくことに繋がりかねません。生成AIをコントロールし、人間の力を強めるためにICTをうまく使う必要があるでしょう。
地福 コロナが起点になり、新しい商品の開発をしてまいりました。パソコンがなくてもプリンター1台あれば自由に教材を打ち出して回収できるビジネスは好調です。自動印刷されたプリントを解き、スキャンするだけで先生に送信可能。学習ログとしてデータが蓄積され管理も簡単です。一番勢いがあるのは、管理型SNSeポートフォリオツールです。生徒が毎日日記を書いていくことにより経験が刻まれ、ポートフォリオ化して総合型選抜などにも送信できる仕組みです。大学受験の変化に対して人気があるというよりも、自己肯定感の向上、新しいスタイルだと思っています。
荻原 速さなのか正確さなのか。子どもの緩やかな成長にどう合わせていくのか。ダイバーシティ、いろんな人が日本の教育に関わっていくことが重要です。ICTがあるおかげで働き方に多様性が出てきます。これから探究型の学びが進んでいくと思いますが、標準化するところはICTを使い、基本や土台をつくることが重要です。
荻原 教材は目的別に作ると使いやすくなります。提供する側と使用する側がゴールを共有し、プロセスを確定、それらを緻密に積みあげていく必要があります。弊社の映像授業では、いろいろなバリエーションで価値の提供をしています。「この学年はこれ」「この学部に行く人はこれ」といった個別最適化におけるパッケージ料金提案をしています。飛び出た部分、へこんだ部分に、デジタルを使うのがいいと思います。
これからの展望
地福 個別最適性をここ10年考え続けてきました。新しい塾の定義が欠かせないと考えています。AIが人間の知能を超え個別最適性から「個性最適性」へ。一人ひとりの個性をグッとつかんで100通りの指導スタイルを提示するようになると考えます。教育機関の小さなベンダーが創造するのは不可能。メーカーと組み、たくさんの技術により実現していく。個性最適性を文脈化していかにマネタイズするか。そのような仕組みづくりに携わっていきたいと思います。
荻原 デジタルの良さは同時性、スピード、正確性。それらを校務支援には大いに活用したいところです。例えば教室で水漏れがしていた。決定権のある上司に伝えるまでに伝言ゲームになってしまいますが、動画を撮って送れば一目瞭然です。低学年のお子さんの塾での学びの様子も動画に撮って保護者に送る。なんのためにやるのかが大事。これからの塾は活気があり、にぎわいがあり、子どもたちはピカピカに輝いて帰ってくるので、それを見た親は喜ぶ。そのためには先生が承認して指導し評価することが大切です。スピード感をもって今までとは違うスキームで取り組む必要があります。
宮坂 Studyplusは、ウイングネット・OLECOとシステム連携をしています。ICT事業者みんなでひとつの大きな絵を実現するために皆様とご一緒させていただければと思います。