(一社)日本青少年育成協会
教育コミュニケーションフォーラム2024開催
アクティブラーンイングで人と社会の未来を
(一社)日本青少年育成協会主催、(一社)日本教育メソッド研究機構主管で教育コミュニケーションフォーラム2024が10月20日(日)、大阪大学中之島センターにて開催された。このフォーラムは全国の教育関係者に向けて毎年秋に開催しており今年で9回目。テーマに沿った様々な分野のフロントランナーを講師に迎え、分野の壁を越えた学びや受講者同士の交流を図るといったもの。
今年は「私たちの教育は、学習者の『非認知スキル』を高められているのか」をテーマに計9名が基調講演や分科会の講師を担当した。開会の挨拶に立った日本青少年育成協会会長の増澤空氏は「誰かに何かを『伝える』際、相手はそれを受け止め、合意し、納得に至ると思うが、教育においては合意や納得を越えた相手の心を揺さぶるような感動がないと単なる『会話』に終わってしまう。どのような伝え方をするか、しっかりと考えなければならない。このセミナーで学んでほしい」と述べた。
■基調講演■
オール1の落ちこぼれ、教師になる
作家・元高校教師
基調講演 宮本 延春 氏
宮本氏は愛知県出身。体が小さく大人しい性格だったことから小学校低学年からいじめのターゲットにされていた。のちに親や学校の知るところとなったが学校は加害者に謝らせ、互いに握手して仲直りさせたのだった。今の時代の教育者ならこの対応が悪手だということがわかるだろう。結果、いじめは加速することとなった。いじめを子どもだけで解決するのはほぼ不可能だ。子どもがSOSを出せる場所は大きく分けて3つ。家庭、学校、地域の大人しかない。誰がSOSを受け止めてくれるか、子どもの嗅覚はとても敏感だ。残念なことに彼の周りには助けを求められる大人がいなかった。唯一、愛情深く育ててくれた母には却って言えなかった。母が傷つくと考えたからだ。父は「やられたらやり返せ」としか言わず、黙って耐えることを選んだという。そもそも子どもは自分の気持ちを言葉にするのが苦手だ。どうして欲しいのかもよくわかってないことが多いのだ。
「今ならわかります。共感的理解という立ち位置から接して欲しかったのです。例えば『そうか、よく話してくれたな。お前は悪くない。お前がいいというのならお父さんは学校にだって乗り込んでいくから。いつでもお前の味方だ。何かあったらすぐに話してくれ』と父に言われていたら仮にいじめが解決しなくても私は勇気を持って学校に行けたと思います」
共感的理解のポイントは⑴コミュニケーションの基本は必ず肯定から始めること、⑵自分の価値観を押しつけないこと、⑶ありとあらゆる想像力を働かせて察することの3つだそうだ。一番いいのは鏡をイメージすること。青いボールを受け取ったら青いボールを返す。悲しいと言われたら「悲しいね」と返す。楽しいと言われたら「楽しいね」と返すだけ。簡単なように見えるが、意外と親はできていないことが多い。「やられたらやり返せ」と言われてもできない子どももいる。また、「悪口を言われた」「物を隠された」「仲間はずれにされた」など、いじめの一つひとつを切り取ると大したことじゃないと思われがちだ。しかし、いじめで心が傷ついているところへの追い打ちは致命傷にもなり得るのだ。
彼は学校でできるだけ目立たないよう、息を潜めて過ごすようになった。身の安全が第一!学校の勉強はどうでもよくなった。九九も全部言えない状況に両親は「勉強しろ」と言うが、勉強の仕方が分からず、闇雲に努力するも成績は上がらない。次第に努力すらしなくなっていった。中学校で最初にもらった通知表はオール1。卒業までじっと耐え続け、中学卒業後は大工の見習いとして働き始める。16歳で母を、18歳で父を亡くし、父の借金だけが残った。扱いが酷かった大工の仕事も2年ほどで辞めてしまい、アルバイトで食いつなぐも生活は不安定なまま。電気や水道が止まった状態で生活することも多かった。転機が訪れたのは20歳の頃、友人が紹介してくれた建設会社で働きだしたことだった。その会社の社長が親切で天涯孤独となった彼を何かと気にかけてくれたのだ。正社員になり、生活が安定しテレビを娯楽として楽しめるようになった頃、NHKの特番「アインシュタイン・ロマン」に出会う。物理が何かもわからないまま相対性理論に触れ、「この世界の仕組みを知りたい」と知的好奇心が湧き出した。物理を本格的に学ぶには大学だということで、働きながら通える定時制の高校に入るための猛勉強を始めた。小学3年生のドリルからのスタートだった。
24歳で定時制高校に入学。自宅から通える距離で物理学科のある名古屋大学を志望校に決めた。常識的に考えれば無謀な挑戦だが、先生の協力もあって成績は少しずつ伸びていった。3年後、名古屋大学に合格。大学院に進み一時は研究者を志すも、子どもの頃の辛い経験が子どもたちのためになると考え、学ぶ楽しさや夢を持つことの大切さを教えてもらった母校に恩返しがしたいと母校の教師になったのだ。
「大人は子どもたちに『夢を持て』と言いますが、私の場合、いじめや職場での暴力がなくなり、生活が安定し、自分のことを認めてくれる、気にかけてくれる人が現れ、初めて夢を持つことができました。アメリカの心理学者アブラハム・マズローは、人間には5段階の欲求があり、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、評価(承認)欲求の4つが順に満たされてこそ、自己実現欲求が出てくるのだと言っています。教育に携わる者は『夢を持て』という前に、4つの欲求が満たされているのかという〝問い〟の目線を持たなければなりません。評価欲求には他者評価と自己評価があり、子どもの精神年齢が低ければ低いほどこれらは表裏一体になります。評価方法は大抵2つです。Doing何をしたかとHaving何を持ってるか。でも、子どもの自尊心が一番満たされるのはBeing。存在自体を肯定される時です。テストが0点でも失敗しても、何があっても愛してもらえる時。このことを忘れないでください」
午前、午後で計8つの分科会を開催
最後は互いの学びを教え合うリフレクションタイムを実施
基調講演のあとはプレミアム分科会が開催された。午前中は「多様なテーマを探究する」として4講座。午後は「コミュニケーションメソッドを体感する」として同じく4講座が開講された。分科会終了後は、自らの学びを振り返るリフレクションタイムが設けられた。参加者らの名札には参加した分科会に応じて色分けされたシールが貼られており、フォーラムの実行委員長でもあり日本教育メソッド研究機構代表理事・小山英樹氏が「名札の色ができるだけ被らないようにチームを組んでください」と声をかけるといくつものチームが作られた。参加者は分科会で学んだことを語り、お互いに学び会うスタイルだ。
閉会の挨拶に立った日本青少年育成協会副会長の木村吉宏氏は、フォーラムの前夜祭にて聞いたという西大和学園が開校時に新卒の教師ばかり採用した件や基調講演で講師を務めた宮本氏のどん底からの逆転人生に触れ、「こうあるべきだとか、こんなことは無理だとか、絶対に不可能だとかいう常識は一旦横に置いて、全てのことに可能性があると信じて明日から行動してみてください。何かが変わるかもしれません」と述べて締めくくった。
■プレミアム分科会の講師とテーマ
多様なテーマを探求する
・ユマニテク短期大学学長 鈴木建生氏
「脱学校化社会と私教育(民間教育・家庭教育)の価値」
・チャイルドライン支援センター専務理事 関戸真紀氏
「チャイルドラインから見える子どもたち」
・ケイ.イー.シー.株式会社代表取締役 木村剛氏
「『向き合える』人財育成と仕組み作りを探究する」
・元群馬県高崎市教育センター所長 永井智幸氏
「チーム学校で取り組む非認知能力の育成」
コミュニケーションメソッドを体感する
・「教と育」研究所代表 内藤睦夫氏
「多様な子どもたちと創り出す対話的な学習」
・東京都立八王子北高校主幹教諭 鈴木高志氏
「組織におけるミドルリーダーの役割とは」
・進学塾イーボック塾長 岡清和氏
「保護者との対話を深化させる」
・対話型クリエイター 増田乃美氏
「面談を通じて対話型組織を構築する」