
私教育を1つの力に
映画『ダーティー・ユー』に託した想い
ニワトリが先かタマゴが先か 作家 高嶋哲夫
小中高の節目で一歩立ち止まり、自分と社会を見つめよう
大学入学共通テストが終わった。学生たちは四年間大学で勉強し、企業を選び就職する。しかし、せっかく努力して入学、入社した大学や企業を短期間で辞めてしまう人が少なからずいる。だが彼らは幸運だ。ミスマッチだと気付いたのだろう。費やされた時間と費用はムダではないと思うが、次の計画は立てているのだろうか。
昨今の日本が直面している状況はかなり悪い。少子高齢化、東京一極集中、多発する自然災害など。特に経済。日本企業の状況は数十年前に比べ、大きく後退している。これは「教育」のせいだと言うのは的外れだろうか。大学の学部選択を起点にして、企業選択のミスマッチで若者たちの能力が十分に発揮されていないのではないか。そもそも彼らは自分自身を知っているのだろうか。おそらくそんなことを考える暇もなく知識を詰め込み、目先のコースを歩んできたのではないか。僕がそうだったように。
ではどうすればいいか。小中高校の節目で一歩立ち止まり、自分自身を考え、社会の状況を正しく見て将来を考えるべきなのだ。少なくとも高校を卒業する時点で、もっと自分を知ってほしい。それを手助けするのが教育なのだろう。
このあたり、プロの教育者、学者には様々な考えがあるのだろうが、日本の「教育」は、内容、システム共にもう古い。発展途上国用の教育システムなのだ。根本的に義務教育を考え直さなければならない時期に来ている。現在書き続けているこのエッセイには、それが出来ると願いを込めている。大きく変えるには、今までとは別な方法をとらなければならない。
『ダーティー・ユー』映画化に込めた願い
「なぜ『ダーティー・ユー』の映画化にこだわるのか?」と尋ねられることがある。その答えは明確で、「いじめをなくしたいから」だ。映画には、本を越えて多くの人々に届く力がある。特に子どもたちに与える影響は大きく、視覚や聴覚を通じて心に直接訴えかけると思うからだ。
この映画を通じて、子どもたちが「いじめはよくない」「優しい心を持ちたい」と感じてくれるなら、いじめを減らす大きな一歩となると思う。シナリオライターや監督には、「映画を見る前と後で、心が変わる作品を作ってほしい」とお願いしている。映画が子どもたちの心を動かし、未来の行動につながることを信じている。と、いうのが一つ。
さらに映画を核にして、「いじめを考える日」を制定し、私教育の力を一つにして日本の教育を変えたいという思いがある。
「日本の教育を変える」→「私教育をまとめる」「一般社団法人 未来を創る新教育推進会」→「〈いじめをなくす〉は共通の目標」→「『ダーティー・ユー』を映画化し、目玉にする」→「〈いじめを考える日〉を作る」→「日本の教育を変える」一つのループを形成したい。
さて、ここで大きな問題がある。
「『ダーティー・ユー』の映画化」→「お金が必要」→「企業から社会貢献費、CSRを求める」→「企業が納得できる材料、PRが必要」→「日本中の小中高校で〈いじめを考える日〉にいっせいに上映する」→「参加校を募集する」
「企業からCSRを募集するのに必要なものは、」「協賛する学校の名前」「企業のメリット」「一般社団法人の設立、実績」「子どものいじめは、大人になってからのパワハラに通じる」「将来のパワハラを減らせる」などだ。
つまり、いじめ問題は子どもたちだけにとどまらず、職場でのパワハラやセクハラといった大人社会の問題にもつながっていると考えられる。いじめを防ぐことは、社会全体を健全化するための第一歩でもある。
映画『ダーティー・ユー』の制作、上映には、全国の私教育、賛同する公教育、さらに企業や社会の協力が必要だ。「いじめを考える日」に日本中の子どもたちが、一つの映画を見て議論する。僕は社会を変える素晴らしい力となると信じている。
私教育の連携、新しい未来のために
日本の教育には多くの課題がある。少子化が進む一方で、いじめや不登校といった問題は増加の一途をたどっている。公教育だけでは対応しきれない現状を支えているのが、フリースクール、通信制学校、学習塾や私立学校、教材制作企業など、私教育だ。しかし、年々ひどくなる少子化の中、私教育の現場は厳しい競争の中にあり、連携が取れているとは言い難い。2023年のデータでは、日本のいじめの認知件数は年間73万件を超えている。さらに、自ら命を絶つ子どもも後を絶たない。こうした中で、「いじめをなくそう」という共通の目標を掲げることは、私教育が一つにまとまる大きなチャンスになると信じている。
皆さんは子ども時代に読んだ本、見た映画でずっと心に残っているものはないだろうか。僕にはいくつかある。
映画は、「見る」「聞く」「感じる」を同時に体験できる媒体だ。普段、「いじめ」に関心がない人にとっても、考えるきっかけとなるのではないか。そのチャンスを作るのが、「いじめを考える日」だ。この日、日本中の子どもたちが同時に映画を鑑賞し、その内容を討論することで、自らの行動や価値観を見直す契機となる可能性がある。
「いじめを考える日」は、新しい教育への第一歩
「いじめを考える日」が全国的に実施されれば、日本中の小中高校生が学校を通じて、一斉にその日を共有することになる。現在は、インターネットを使い、それが可能な時代なのだ。この取り組みを通じて、いじめだけでなく、不登校、ヤングケアラー、発達障害、虐待といった幅広い問題に光を当てることができる。
教育の本質は、単に知識を増やすことではなく、子どもたちの心を育むことにある。自分を知り、将来に備える時期でもある。才能を見つけ、伸ばすことこそ真の教育だ。大切なのは、才能とは勉強ができる、音楽や絵画、スポーツなどだけではなく、優しさや根気強さ、器用さなど、各自が持つ個性も立派な才能なのだということを知ること。そして社会がそれを認め、援助することだ。
映画を通じて子どもたちに「もっと優しく」「もっと強く」といった価値観を届けることは、社会全体にとっても大きな意味を持つと考えている。この取り組みは、教育界だけでなく社会全体を巻き込む変革のきっかけとなるはずだ。
このエッセイが出る頃には、「一般社団法人 未来を創る新教育推進会」が立ち上がっています。ホームページは以下です。
https://sites.google.com/frame-ke.net/msk/home
おそらく、まだまだ言葉足らずの状態で、「何をバカなことを」「夢の話だ」と思う人が多いと思う。少しずつ具体的にしていきたいと思う。「ビジョンハッカー」この言葉を調べてほしい。
作家 高嶋哲夫 氏
教育関係の著作 「いじめへの反旗」(集英社文庫)「アメリカの学校生活」「カリフォルニアのあかねちゃん」「風をつかまえて」「神童」「塾を学校に」「公立学校がなくなる」など多数。
https://takashimatetsuo.jimdofree.com/