
石川学習塾(岡山)
子どもたちの目が輝く「アドベンチャー活動」
自然から学ぶ「生きる力」
20数年前、学校が週休2日制になったとき、石川学習塾(岡山県津山市)の石川富民氏は、土曜日に野山に出かけて自然体験を満喫する「アドベンチャー活動」を立ち上げ、現在に至っている。
そのきっかけや経緯、効果などについて手記で著していただいた。
開設以来51年目を迎える石川学習塾
私は岡山県津山市で石川学習塾という学習塾を続けています。塾開設以来51年目を迎えました。還暦を迎えるとき、分教室はすべてそのまま講師の先生方にお譲りし、現在は1教室を私一人でやりくりしています。最近は3代目が塾に通ってくれるようになりました。ずっと以前にその子の祖母・母親を教えたことがあります。
日頃は体験できない活動を通して「生きる力」を育みたい
今から20数年前、学校が週休2日制になったことを受け、小学生の塾生を対象にして、土曜日に野山に出かけて自然体験を積む「アドベンチャー活動」を立ち上げました(基本として参加費は無料)。
学校が週休2日制に移行するとき、文科省から全国学習塾協会を通じて、「趣旨を理解し、土曜日の午前中の授業は自粛してほしい。できれば、『生きる力』が身につくような独自の取り組みをやってほしい」旨の異例の通達がありました。
私は、当時から子どもたちが野山などで遊ぶことがだんだん少なくなってきていて、自然の中で過ごす楽しさをあまり知らないことや、動植物などに対する知識も乏しいことが気になっていて、機会があれば、何か楽しい自然体験を通して自然に親しんだり、自然から様々なことを学んだりしながら、自然や科学に興味や関心がもてるようにしてあげたいという希望を持っていましたので、ちょうどいいきっかけになりました。
日頃は体験できないような様々な活動を通して、自分の生活を見直したり、生活の幅を広げたりすることに役立てたり、それらの豊かな体験を通して生きる力を育んだり、学習意欲の向上にもつながっていけばよいと願っていました。
禁止の言葉は極力少なく、子どもたちの自主性に任せる
この20数年間、子どもたちの要望を取り入れながら、季節に合わせて毎月1回以上土曜日にお弁当をもって、小学生たちと野山に出かけ、様々な自然体験を積んできました。野外での行動については危険が伴うために、前日か前々日には必ず下見に行って危険な箇所のチェックを行い、当日も必ず現地でまず行動上の注意をし、行動中の監視も強めて、事故のないように細心の注意を払ってきました(おかげさまで、いまだに大きな事故は一度も起きていません)。
しかし、現場では「これをするな!」「あれをするな!」とか「ああしなさい!」「こうしなさい!」はできるだけ言わないようにしています。子どもたちの自主性に任せ、判断力を育んだり、安全に対する意識を育てることも大切なことだと思っています。
アドベンチャー活動ではおやつは自由です。家族と相談して決めることになっています。原則として、いつお茶を飲んでもいいし、いつおやつを食べてもよいことにしています。すべて本人の判断に任せています。
リュックサックの中には必ず7つ道具を入れておくこともルールです。その7つ道具とは、①新聞紙 ②ビニール袋 ③ポケットティッシュ ④軍手 ⑤カットバン ⑥タオル ⑦小銭 のことです。
また、大切な仕事の一つに、子どもたちに危険な動植物を教えるということもあります。夏の野外活動ではときどきマムシやスズメバチなどに遭遇することがあります。ウルシもあります。現地では、実物を前にして対処法などを説明することにしています。
活動場所は「来たときよりもきれいに」がルールです。子どもたちにはひとり一人ビニール袋を持たせて、ゴミを片付けさせることも、自然や公共の場所を大切に守るという観点から大切なことだと教えています。
年間を通じて活動の内容は概ね右の表のように決めています。
折々の時節に応じた多彩な活動内容
4月 山菜取り
5月 ツチノコ探索
6月 トレッキング
7月 キャンプ(1泊)
8月 昆虫採集
9月 無人島の探検
10月 サイクリング
11月 広葉樹林の整備
12月 天文台(1泊)
1月 雪山遊び
2月 小鳥の巣箱作り
3月 春を見つけるハイキング
このほか、子どもたちの要望を聞いて、ペットボトルロケットを製作して飛ばしたり、渓流で魚釣りをする活動などもやってきました。
指導者の創意工夫、力量が問われる「アドベンチャー活動」
自然での体験や動植物に対する知識などについて、子どもたちにいかに興味を持ってもらうか、感動を与えるかという点では指導者の力量が問われます。「おもしろくない」「つまらない」体験だと、子どもたちは一気に興味を失ってしまうからです。普段の生活から離れて自然の中で伸び伸びと活動するとき、子どもたちは目を輝かせながら、教室では決して見せない生き生きとした本来の子どもらしさを発揮します。
私は前日の下見の際には、活動場所の近くにアニマルキャッチャーを仕掛けておくことがあります。翌日までにはたいていイタチやタヌキなどの獣が入っていて、子どもたちの観察の対象になります。生きた獣を目の当たりにすると、様々な新しい発見があって興味深く観察してくれます。
キャンプでは川遊びで使ういかだを作ることにしていますが、子どもたちには大きい浮力を得るためにいろいろと工夫を重ねさせます。ツチノコ探索では、捕獲用の道具を作らせたり、捕獲賞金約2000万円をどう分配するかを話し合って決めさせます。星空の観察では、星座表をもとに全員が目標の星座が見つかるまで教え合ったり、雪山では野ウサギの足跡をどこまでも追跡したり…子どもたちは心ゆくまで楽しみながら学んでいます。
毎回、保護者の何人かに子どもたちの送迎をしていただいています。キャンプのときなどは、そのまま現場に残って子どもたちと一緒に活動してくださるので助かっています。
教科書から離れ、教科書からは学べないものを学んでほしい
この活動は正直言って、他の塾には広がっていきません。参加しやすい夏のキャンプなどに参加を呼び掛けるのですが、夏期講習や子どもたちが集まらないことを理由に断られてしまいます。
しかし、これらの活動が、子どもたちが自然科学に興味を持つきっかけになったり、日頃の学習にも意欲的に取り組めるようになったりしていることは私自身が実感しています。
学習塾が教科書の内容を教えることは当たり前ですが、教科書を離れて、教科書からは学べないことを学ばせて、目先の勉強だけでなく、自然や科学に興味を持たせるようにすることも大切な仕事の一つだと考えています。